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「商人なら、一度かわした契約を反古にしてはいけませんよね」

にぃっと笑うクロエ。

「はい、その通りです」

 

辺境の教会に努める神官見習いの少女クロエ。

彼女はろくでなしな父に仕込まれたこともあって、賭け事にめっぽう強かった。

かつて『幸運の聖女』と呼ばれた人物が、交渉術とカードによる賭けで辺境の土地を他国から無血で奪い取ったという逸話があるため、神職だからといって賭けが禁止されるようなこともなく。

むしろ勝ち続けるクロエの事を『豪運の聖女』なんて呼ぶ人まで出てくることになって。

 

そんな噂を聞きつけた、ビルツ伯爵家の息子で聖騎士を務めるエラルドが現れて。

この国では神から与えられた祝福……ギフトと呼ばれる能力を持った人物が時折現れ、教会はそういう人を神子として祭り上げたりもしていたようです。

クロエが賭けに強いのは、カードの配置を覚えられる記憶力とか嘘を見抜く眼力とかの技術であって祝福ではないそうですけど。

その彼女の技術を認めて、エラルドは彼女を雇いたいと言いはじめて。

 

曰く2年前の神子選抜試験において、有力候補が死亡する事件が起きたとか。停止していた選抜が再開する運びになり、当時の人員も揃っているので事件について調査をしてほしいという事で、クロエを神子候補としてエラルドがねじ込んだとか。

名門貴族家の令嬢ながら、高慢な振る舞いを見せるヴィオレット。

絶世の美貌を持つがそれゆえにトラブルに見舞われがちなサロメ。

お洒落に関することには特に饒舌になる令嬢ゾエ。

死んだチーロと同じような、動物と心通わす祝福を持つモニカ。

 

個性的な令嬢の中に放り込まれたクロエ。エラルド達の考えもあって、いくつかの事情を伏せられていたりもしたのは、おいおいって思う場面もありましたが。

それでもしっかりと調査をして真相に迫っていったのは良かったです。

クロエの父、賭け事くらいでしか稼げず母にも逃げられるようなろくでなしだったそうですが。それでもクロエに春を売らせるようなことはせず、賭けだろうと金を稼いで、彼女を育てることはした。

ろくでなしではあったけど、クソ親父と蔑視するほどではなかった。愚かだとは思ったけど、それ以外に生き方を知らなかったことも理解している、というクロエとクロエの父の関係が結構好きでした。

選択肢を増やすために出来ることをしようとして。その為の手段として、結局クロエも父と同じ「賭け」という手段しか思いつかない、というあたりも似た者親子というか。持ってる手札は結局似てたというか。

聖女候補として入り込んで、なんだかんだ認められていたクロエの事が好きになれたので、楽しく読めました。