「私達は渦を避けることもできるし、渦に守られて暮らすこともできる。貴方はただ、あるがままに貴方であればいいわ。エイサーが良い人だって、もう私達は知ってるから」
エイサーは、黄古帝国を出発して船で東にある島国・扶桑国へついに到着。
そこは魔族の末裔である鬼族と、扶桑の地で暮らす人々の間で長く戦いが続いている土地であった。エイサーは、その土地にある扶桑樹という巨大樹を見たり、学んだ剣術であるヨソギ流にまつわる何かを探しつつ、いつも通り穏やかに過ごしていましたが。
その過程で、歴史にも詳しいゴンという翁や彼と親しくしている人魚ミズヨと出会ったりもして。
黄金竜という世界の始まりを知る存在と出会ったことで、エイサーはこの世界の脆さというものを感じつつ、それでも変わらずに進める彼の在り方はなかなか貴重なんではないでしょうか。
ハイエルフである彼が近づいたことで扶桑樹が動いたり、彼本人にその意思がなくてもなかなか騒ぎになることしたりもしてましたが。それも含めていつも通りか。
帰路の船旅では妖精を信仰する島に滞在することになって、妖精と接触することになったり。帰還したらしたで、大陸中央部ではまた騒乱が起きてて。野心的なズィーデンが領土を更に広げ、火種となっていたようですけども。
戦火が届きかねない位置にあるジャンぺモンが無事で、ノンナの血縁が宿の経営を継いでいてくれたのは、ちょっとホッとしましたねぇ。エイサー長命種ゆえに緩く書かれているけど何かあると大分時間を費やしているので、多くの人とは一期一会なわけですが。
語り継がれていくものは確かに会って、変わっているけど変わっていない部分もあるエピソードが見られるのはこの作品の良いところだと思ってます。
巻末の断章で、ノンナの子孫であるアイナとノンナが遺した「宝さがし」をしているのも、結構好きです。それだけ大事にしてくれたんだなぁ、という気持ちになる。
悪い方向に変化したところでいえば、魔剣を一緒に作った魔導師カウシュマンの研究が、国に吸収されて彼の系譜を汲む弟子とは会えなかった……どころか、追手まで派遣される事態になっていたりしたところでしょうか。
まぁこれもまた一つの流れだし、人間の追手なんてエイサーからすれば簡単に対処できる範囲ではあったわけですけども。襲撃の際に、かつてダメだしをした魔道具が改良されて形になっているのを見て、「やるじゃないか、カウシュマン」と内心で喝采を送っているあたり、エイサーは本当に自由だよなぁ。