「単純な差だよ。すっかり諦めた俺と違って、不知火は今もそれを信じてる」
「……………………」
「――俺には、それは裏切れない。あいつの力になりたい理由なんて、それだけだ」
電子だとすぐに目に入ってきますが、紙書籍だと帯で隠れる部分に「名月、夏生、奈津希、懐姫、なつき 進学した高校で5人のナツキと出会った男――かつて幼い頃に出会った少女「ナツキ」はこの中の誰なのか? この中の誰を下の名前で「ナツキ」と呼ぶことになるのか?編」という、超長サブタイトル?というか、補足が書いてあって笑えますが。
サブタイトル通り、ヒロインとして登場するから全員がナツキという同じ名前を持つ設定の作品です。
主人公である景行想くんは、かつて母に連れられてパーティに参加し、そこでナツキという名前の少女と仲良くなった。しかし……彼女が親から「友人は選べ」と言われて頷いているのを見たことがトラウマになって、ナツキという名前を呼べなくなってしまった。
さらに中学時代にトラブルに見舞われた友人を救おうとしたものの、その友人に手ひどく裏切られる経験までして。
高校進学に際して、彼は征心館という中高一貫の高校へ編入することを決めて。
そこでこれまでとは違う「打算的に、損得勘定で人間関係を構築する」という目標を掲げることにしたわけです。
樹宮名月という少女から勧められたこともあり、学食の食券などを対価にちょっとしたお手伝いをする、学校内での仕事を始めたりもしてたわけですけど。
……三つ子の魂百までというか、なんだかんだ根は善良なのが変えきれてない感が凄い。
母の仕事上の付き合いとは言え、名家の令嬢なんかも参加しているようなパーティーに参加しているとか、何だかんだ良い環境で育ってますよね想くん。
父親を亡くなった状態で、姉と想と双子の妹と4人を育てているわけですし、涼暮作品メタ的に凄い想の母親にはすごい女傑の気配を感じている。
「社会で生きる以上、値踏みされることは多い」としっかり教えてくれる上で「想には向いてない」と教えてくれる母の下で育ってるわけですし。
想の姉妹は、想に色々アドバイスしてきてるし、なんか想くんより生きるの上手そうだな……。想くん、涼暮作品の主人公にありがちなトラウマ抱え込んで、自分の在り方を貫こうとするタイプの子なんですけど、その中でも特に揺れ幅が大きいというか、まだ軸がハッキリ定まってない感じはしましたね。
ヒロインの名前が全員同じ、という設定開示をするためにそれぞれのキャラ紹介的な面が強く、一応今回は、子役経験のある不知火ちゃんに深掘りしていく展開も見せつつ、序章という味わいだったので、刊行続いて他のヒロインの深掘りも見せて欲しいものです。
個人的には樹宮と水瀬の2人が気になっているので、その2人のヒロイン回は描いてほしいと思ってるんですが、さてはて。
ちなみに、5人目の登場はかなり終盤なんですが。電子書籍特典として付いてくる書下ろし短編がタイトルそのまま「5人目」となっていて、想と5人目のトークが楽しめるのでオススメです。