「他の魔法薬師が作った回復薬はもっとひどいそうですよ。上級回復薬に関していえば、服用してもよくて半数が生き残れるかどうか。その点、前辺境伯夫人のマーガレット様が作った上級回復薬なら、死ぬほどの苦しみを味わいますが、死ぬことはありません」
(略)
「おい、だれか止めろ!」
VRゲームで魔法薬を作る生産職として遊ぶことに没頭していた主人公。
その生産への意欲を異世界の女神に買われ、ゲーム時代の知識と技術を持ったまま彼女の世界に招かれることに。
転生ものではあるんですけど、「ゲーム時代のアイテムは異世界でも再現可能」、「異世界で死んだら、向こうでの記憶を失って元通りの生活に戻る」といった前提条件が提示されたこともあって、主人公は割と軽く転生を了承。
そしてスペンサー王国の北を守るハイネ辺境伯家の三男ユリウスとして生まれた彼は、7歳になったころから魔法薬の再現を目指そうとするわけです。
幸いにも祖母が高名な魔法薬師であったわけですが……その生産風景は、ゲーム時代の知識があるユリウスからすると、えぐみが出るし回復の効果も薄れていくようなもので。
この世界では回復薬は飲むのを多くの人が嫌がるくらい苦くてえぐく、何だったら飲んでもそこから生き残れるかは運否天賦みたいな部分があるとかで。
基本最悪だけど、そのなかでも生存確率が高いから高名とされているあたり、女神様が異世界から応援を要請したくなる気持ちも分かる。
ユリウスも初手は祖母に「魔法薬の改善はできないのですか」と提案していましたけど……過去になにがしかの事件があったのか、祖母は「家を潰したくないのなら、新しい魔法薬を作ってはいけない」と意見を封殺する判断を下して。
絶対に魔法薬を作るな、と約束までさせてきましたが……女神様との約束や、ゲーム自体の知識・技術のあるユリウスは止まるつもりは無くて。
こっそりと薬草を採取したり、スキルを駆使して初級の魔法薬を再現。
一番使用する頻度の高い辺境伯家の騎士団で、実験を行うことに。これまでの薬のひどさに辟易していた彼等は、ユリウスの協力者となって口をつぐんでくれたり、素材採取を手伝ってくれたりすることになります。
……まぁさすがにトップのライオネルはユリウスの父、辺境伯への報告をしないわけにもいかなかったみたいですけど。祖母と違って父は、何かあった時にユリウスを庇うためにも事情は説明しなさいと言ってくれるのは良かったですね。
魔法薬を作るのが一番楽しいみたいですけど、兄バカでもあるユリウスは妹の要望を兼ねあるためにプラネタリウム的な魔道具を作ったり、ぬいぐるみを作ってみたりと魔法薬以外にも生産活動に勤しんでいくわけです。どんどん風呂敷広げていくなぁ……という気はしましたが。