「変わったのではなく、変わらせられたのですわ。婚約者に公の場で婚約を破棄され、その地位も名誉も褫奪されたのです、かつての父も、将来父になるはずだった人もわたくしを救ってはくれず」
ここで笑みを浮かべてレクシーを見上げます。
「彼のみがわたくしを救ってくれたのですから」
人工的に魔石を創り出す、というアレクシの研究。
パトロンを見つけてある程度形にした上でA&V社という会社を設立し、順調に成長していったわけですが。
そんな中で、氷炎の大魔術師と呼ばれるオリヴェルからクレームが入り、ヴィルヘルミーナが対応に苦慮することに。上手く言いくるめて、何度かその成果を確認させたうえで自陣営に引き込んだ手腕はお見事。
アレクシも、ヴィルヘルミーナについてきた使用人たちから助言を貰いつつ、彼女に贈り物をしたりと少しずつ周囲を見られるようになってきたというか。
支えてくれている彼女の事を当然と思わず、しっかり応えようとしているのが良いですね。
……そんな彼にヴィルヘルミーナが惚れ込んでいって、「こんなにちょろくなるとは」とか言われてましたけど。
そうやって最初は政争の煽りで結婚することになった2人でしたが、良い感じの暮らしを送っていたわけですが。
政務をサポートしてくれていたヴィルヘルミーナがいなくなったことで、王太子は困窮して。帰還した国王から、次代として相応しい振る舞いが出来なければ……と釘を刺されていましたけども。
追い込まれる中で、一度はおいやったヴィルヘルミーナを公妾として迎え入れようとしたりとか、何考えてるんだか。エリアス、本当に考えが浅いというか青いというか。
それに比べると一年教育を受け続けて、ヴィルヘルミーナが積み重ねて来た苦労の一端を知ることになったイーナの方がよほど見込みがある。……まぁ、かつて指摘された愚かさを自覚してなお、愛ゆえにエリアスの傍にいることを選んだわけですけど。
味方を増やしていって、王権にもなり得る魔石作成の技術を用いて、かつての実家であるペリクネン公爵家を追い込む策略を進めて。
その裏で、異端として迫害されるようなことが無いよう、教会のトップである教皇とのパイプも繋いでいく。
入念に準備を整えた上でヴィルヘルミーナ達はその技術を発表したわけですが……案の定、国が取り上げようと介入してきて。備えていたからこそ対処できましたけど、王家のあがきはみっともなく映ってしまったな……。
国王がヴィルヘルミーナの正しさを認めつつ、正しさで国は動かぬと、王太子を切り捨てられない代わりにヴィルヘルミーナを切り捨てる決断を下したことは、王の判断として分からないでもないですけど。
利益を享受できないとなったら異端審問に賭けようとしたり、王家の傲慢もまた見えたよなぁ、という感じ。いろいろ足掻こうとしたうえではあれど、国王が最後にヴィルヘルミーナに謝罪してくれたのは、まぁ良かったのでは。