「過去に囚われていても仕方ありませんわ。未来に向けて慣れていくのです。とりあえず、今日は手を繋いで寝てみるのはいかがでしょうか?」
王太子エリアスの婚約者であった公爵令嬢ヴィルヘルミーナ。
彼女は、婚約者がいる身でありながらエリアスが男爵令嬢イーナに入れ込んでいることに苦言を呈していて。口頭でも文書でも注意したが収まらず……暗殺を試みたものの失敗。
王太子から婚約を破棄されて、平民とでも結婚しろと命じられ、早々に抱き込まれていた枢機卿を交えて契約を交わさせられることに。
公爵家の父からヴィルヘルミーナは彼女の行いを非難されてましたが「対立派閥の暗殺なんて、お父様もしていたじゃないですか。その組織に依頼しましたが?」と返答してるの、強すぎて笑っちゃった。
王太子と令嬢のほかにも、国王や父なんかにも問題の報告はしていたものの改善の素振りが無かったため、暗殺を決行しようとしたとかで。
王の外遊中にヴィルヘルミーナを追放してのけたのはお見事で、ヴィルヘルミーナも政争に負けた身ながら矜持を持って、その平民との結婚も受け入れる構えではありました。
……上手くヴィルヘルミーナを追放したとはいえ、王太子エリアスがその仕事のほとんどをヴィルヘルミーナに頼っていたり、密かにフォローされていたのにも気付いていなかった愚鈍なのも事実だし、イーナが男爵令嬢故に王太子妃として求められる水準の教育を受けられてないのも事実だしで、むしろよくヴィルヘルミーナを出し抜けましたね、というか。
傀儡に出来そうな状況だからこそ、誰かの入れ知恵があったのかもなぁ……って感じではある。
公爵令嬢を平民にした上で娶らせるとは言え、なんの成果も無い人間では外聞も悪いので、勲章を授与された平民の研究者アレクシが相手になったわけです。
研究一筋で身だしなみにも気を使わないような男ではありましたが……ヴィルヘルミーナの指導を受けてそのあたりも少しずつ改善していって。そして彼自身も平民故に冷遇され、なかなか研究結果が日の目をみなかったようですが……実際にはかなり価値のある研究をしていて。
ヴィルヘルミーナがテキパキ差配して、停滞していた研究が形になる手助けをしていたのはお見事でした。
まぁヴィルヘルミーナ、貴族令嬢としてのたしなみと王太子妃向けの教育を完璧にこなしてきたものの、平民の生活には当然疎く。にんじんの単価を聞かれて、政務で知った「畑一面あたりの平均単価」を答えたことで「値段を覚えるまで一人で買い物は禁止します」とか言われているの、ちょっと可愛くて笑った。