「それはお前の武器だろ、とっとけ! 別に気にしなくても……いや。そうだな、そんならまた石胡桃を持ってきてくれよ、買い取るからさ。俺は冒険者に旨い飯を鶴久。冒険者は迷宮に潜って、俺に飯のタネを持ってくる。ほら、対等な関係だろ?」
魔法や迷宮の存在する異世界に迷い込んだ青年ヨイシ。
迷宮に挑めるような腕っぷしを与えられるでもなく、言葉も分からず頼る先もない。
そんな彼を拾ってくれたのが、迷宮都市で酒場をマスターでもある爺さんだった。
爺さんはヨイシにこの世界の文字を根気強く教えてくれて……ヨイシは美食大国日本での料理知識を活かして酒場に貢献した。
日本が食事にこだわりすぎていた、という側面もあれどこの世界の食事は貧相で……。
迷宮の性質のせいで土地は瘦せているし、立地もあって食材を仕入れるのにも限界があるから工夫して少しマシな料理を出せるようにしていたようです。食材以外であれば迷宮から資源として回収できるからこそ、都市としての規模と盛り上がりはあるようですけど。
迷宮に挑む冒険者、という荒くれものが多い街でもあるようです。
腕っぷしで冒険者を黙らせるとかはできないものの、ヨイシがなんとか店を切り盛りできる程度になったのを見届けてから爺さんが亡くなって、彼は一国一城の主となった、と。
そうやって酒場の主になったヨイシの元に、新人冒険者が迷宮で取れるけどクソ苦いため食用とみなされていない石胡桃を持ってきて。
礼儀を知る子供だったから、それを買い取ったヨイシはお人好しではありますねぇ。
後日、石胡桃がゴミ扱いされていることに気付いて謝罪に来てるし、その新人……ユグドラとセフィもまた善良な子ではあるんですが。
2人が気にしているようだったのもあるし、塩加減や焼き加減といった工夫でクオリティを改善するのにも限界を感じていたヨイシは、石胡桃を食べられるようにする方法はないのか、と模索することを決めて。
実際それでうまいこと調理方法を見つけて、酒場を繁盛させることに成功しているんだからお見事。迷宮の食材に可能性を見たヨイシはその後もいろんな食材の加工方法を模索して、新しい方法を発見したらその前のアイデアは公開することでもうけ過ぎて他の店から恨みを買い過ぎないようにしたりと、工夫を続けているのが良かったですね。
成功続きじゃなくて失敗もして解決を先送りにしてる食材もあったりするのが、人間味を感じる……まぁ、失敗してるの糞桃くらいで他は試行錯誤の果てとは言え、これまで食用とみられてなかったものの加工法を編み出し続けてるので、日本での経験で下駄はいてるとは言え才能ある方なのでは。
途中で行く宛のない少女ウカノを保護することになったりもしてましたが、骨魚の調理に成功していたことで彼女を餌付けできていましたし……その次の霞肉の調理にも経験が生きているので、めぐりあわせだなぁと感じました。
最初はちょっと警戒心があったというか、お互い手探りなヨイシとウカノの関係でしたけど。ウカノが「おとうさん」と呼ぶような形で落ち着いたのは良かったですねぇ。
ウカノ、鹿のような枝分かれした角と爬虫類系の尻尾を持つ少女であり……冒険者たちもそういった特徴をもついわゆる「亜人」は見たことがないそうですけど。
言ってしまえば異質な見た目を持つ少女を「鹿とトカゲのハーフとかかな。直接聞くの失礼かもしれないしやめとこ」で受け入れてるの、日本のサブカルとヨイシの鷹揚さの組み合わせで起きた事故感がありますが。まぁ、ウカノちゃんかわいいからね。可愛いは全てを救う。冒険者たちも、初見「魔物じゃ?」と疑いの目を向けて来る奴がいても、ヨイシの後ろに隠れようとする姿を見て、微笑ましさにほだされてますしね。
水ぶどうの回で、手持無沙汰で酒場のカウンターに飾られていた大鹿の角と角の付き合いしてたりするの、想像すると微笑ましい。
WEBの裏話でヨイシに惚れてるとされつつも「女冒険者」表記だったキャラに、アカルナニアって名前がついて、ちゃんとイラストももらっていたのは良かったですかね。