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「申し訳ありませんが研ぎの仕事がまだまだ残っています。場所をお教えしますので後日、俺の工房に来ていただけませんか」

「金貨数百枚単位の仕事だとしても、優先できませぬか」

「金額で優先順位を変えるような事をしていたら信用を失います。木こりからも、貴方からも」

「わしからも、か」

 

主人公のルッツは、城壁の外で暮らす訳アリの鍛冶師。

厳密には訳ありだったのはルッツの父ルーファスで、彼もまた鍛冶師であったがトラブルに見舞われ流浪の民となり、その果てに結婚相手を見つけてルッツが生まれ……ルッツは父から鍛冶の技を叩きこまれたそうです。

ただまぁ、ルッツも鍛冶ギルドには参加していない、領主が管理していない城壁の外で凶器となりうる刀を作っている、不審人物扱いされても文句は言えない立場ではあったようですが。

 

馴染みの商人クラウディアから斧とかを頼まれて作っていたみたいですが。

ある日、父の教えを糧に、まるで魅了の魔術でもかかっているかのように人を引き付ける刀を作り上げることに成功。

傑作ではあったものの、先述の通り立場のある身ではなかったために、売る宛もなく倉庫の肥やしになりそうでしたが。

クラウディアが冤罪で囚われたと聞いて、その代価として刀を手放すことに。

知人を助けるためだとかいろんな事情があった上での行動で……なんだかんだその後クラウディアと懇ろな関係になっているので、得るモノが大きかったんじゃないでしょうかね。

 

クラウディア冤罪で捕まえたみたいに、取り締まり担当している騎士団の下っ端はゴロツキみたいな連中が多いみたいで、そこはなんだかなぁ……って感じではありましたけど。

その刀が巡り巡って領主の信頼厚い職人、付与術士のゲルハルトの手に渡ったことでルッツ達の運命は変化していくことになるわけです。

 

付与術士という字面から分かる通り、ゲルハルトは物体に文字を刻み特殊な効果を齎す術を扱う職人であったわけですが。単体でも人を魅了し、刃傷沙汰にもなり得る武器に「魅了」の術を刻むあたりぶっ飛んでるんですよね……。

そんなゲルハルトに目を掛けられることになったルッツも、どうしようもなく職人肌で。交渉を担当してくれるクラウディアが傍にいてくれるの、実利的な側面から見てもかなりありがたい。

 

ゲルハルトとの縁が出来たことで、領主に献上する刀を作ることになったりもしてましたが。

ルッツ、刀造りは得意でもネーミングセンスに欠けていたりするみたいですから、そのあたりもクラウディアがサポートしてくれてたのは良かったね……。

鬼哭刀と名付けられた刀を伯爵が気に入ってくれたのも何よりでした。ゲルハルトと付き合いの長い、停滞し続けていた鍛冶士ボルビスと知識を伝え合う機会にも恵まれて……ボルビスの作った刀をゲルハルトが振るうシーンが印象的で良かったです。