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「あんたが選んだのは俺だ。俺の名だけを、あんたはあの本に書いたんだ」

 

この作品の感想を書く前に、ちょっと語りたい前提情報が多いんですよね……。

まずレーベル的には電撃の新文芸なんですが、こちら『電子限定』の刊行となっております。また、chibi先生のイラストは表紙イラストの扉のみです。

古宮九時先生が、以前同人誌で刊行された『Fal-reisia13巻と、短編集『Fal-reisia Unnamed Stories』に掲載された一部エピソードを加筆修正のうえでまとめ上げた1冊ですね。なので、めちゃめちゃ厚いです。BOOKWALKERのストア上だと、547ページとかになってます。

 

Unnamed Memory-after the end- Extra』と頭についている通り、『Unnamed Memory』の後日譚である『Unnamed Memory-after the end-』シリーズの第4巻に登場した「扉」を巡るエピソードが紡がれるシリーズです。

今月発売予定のあるate5巻は、このエピソードを超えた未来の話が描かれていくことになります。『Unnamed Memory-after the end-』というシリーズが、呪具について深掘りしていく(と思われている)シリーズだということもあって、その本筋(呪具)に関わらないエピソードは割愛されていくって話をどこかで聞いた気が。

そんな中で、電子限定とはいえシリーズ纏めてくれたのは嬉しいですね。短編集の方は持ってなかったので、一部とはいえ再録されたのはありがたい。

 

一応、逸脱者たちも登場しますがメインではなく、キーファという普通の少年がメインで進んで行くので、ateを抑えてなくても読めるとは思いますが。謎が残るでしょうから、時系列順にate4ate5巻の間に読むのをオススメします。

 




閑話休題。

本編の感想を書いていこうと思うんですが、『Unnamed Memory after the end』……というか逸脱者絡みのネタについても触れていきたいので、普段よりネタバレ多めになるかと思いますので、読まれる際は気を付けてくださいー。

 

檻中大陸、ate4巻で描かれたエピソードだと23032324あたりですが。Fal-reisiaは確か2590年とかそのあたりだったハズです。なので、200年も経ってるんですねぇ。

主人公のキーファは、シエズという田舎町で育った純朴な少年。一つ下の幼馴染である少女ミリアムとよく遊んでいた。2人は、いつの間にか町に移り住んでいた17歳くらいのレイシアという少女を姉のように慕い、彼女からいろんなお話を聞いたり、お菓子を貰ったりして平凡な日々を過ごしていた。

……しかし、ある日シエズは何者かの襲撃を受けて。レイシアもミリアムも消息不明に。

 

キーファは、この大陸で勢力を伸ばし続けている「軍部」に拾われて、そこで士官候補生としてそれなりの評価を受けることになったようです。

そこには彼がこの大陸の異能であるエギューラを操る才能があったからだった。キーファはそこまでではないみたいですけど、エギューラを操る異能者は人によっては一騎当千とすら言われるとか。

 

そんなキーファの上司として新しく着任したレヴィは、変わり者とも評価されている御仁みたいですが有能で。

彼の下で任務に就いた際にキーファは、かつての幼馴染に似た少女が軍部と敵対しているテドラ側に居るのを確認して。そこから、キーファは自分の過去について向き合っていくことになるわけです。

 

なぜシエズは焼かれたのか。レイシアが語った「とある神様」にまつわる話は、どんな含意があったのか。そして、幼少期エギューラ使いでなかった自分が異能者になることになった、レイシアから託されたものとはいったいなんだったのか。

それはこの大陸の神様と楔にまつわるお話であり……逸脱者2人も登場して、要所で手助けはしてくれるんですけど、神と楔の話は逸脱者の本筋ではないので本当にちょこちょこ登場するだけなんですよね。

 

ミリアムは再開時キーファのことを忘れていて、キーファは軍部所属なこともあってテドラで記憶を消されたのかと疑ってましたが。

その実、記憶に不審な点があるのはキーファの方だったり。ミリアムが彼の事を忘れたのは「約束」があったからだ、とか明かされていく部分が結構好きですねぇ。

あとは、Act.2で深掘りされていくリーズという少女の在り方が、結構好きなんです。「すごく満足」と彼女が納得するシーンが、とても胸に来る。

 

一方、この作品の敵はまぁ分かりやすいというか……。セラはハッキリ言って、初手から怪しくてやっぱりなぁって感じではありました。

レイシアの深掘りについては、初めて読んだときは情報が明らかになる度に驚いたような気もします。

キーファ、なんというかエギューラ使いの異能者なんですけど、一騎当千級には敵わないし、色々工夫はするけどまだまだ青くて手の届かないことも多い。なんなら「上官が捕まった」って情報を鵜呑みにしちゃうのも危うかったりしますが。

それでも、人の精神の強さを信じて抗い続けて……「誰よりも人間」と評された彼だからこそ、この物語の主人公に相応しかったのだと思います。