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「ちなみに司書って、魔導書に関する疑問に何でも答えられたりするの?」

(略)

「しない。必要な情報は既に与えられた。神はそんなに甘くない――というか、呆れている」

 

カクヨムネクストからの書籍化作品。

魔物という脅威が存在し、それに対抗するために人々に魔法が与えられた世界。

成人の際に儀式を行い魔導書を授かり、図書迷宮と呼ばれるダンジョンに挑みそこに設置された祭壇で儀式を行うことで、扱える魔法を増やすことのできる仕組みが作られていた。

……しかし、人類は愚かだった。魔物と戦うために授けられた魔法の力で、人同士で争う事すらした。

知識と実力がある人ほど魔物の戦いの前線に行くし、人同士の争いまであったことで知識の断絶が起きているというのだから、なんというか呆れるしかありませんな。

 

主人公のルミエーラは、前世の記憶を持った少女。

森に捨てられていた彼女はシンクハルト辺境伯家に拾われ、その家の娘として家族からも領民からも愛されて育っていた。

辺境伯家は魔物と戦うという役割をしっかりと果たしている真面目な貴族家みたいですが……中央と呼ばれる地域の王族や、神殿とかは知識の断絶を起こした末に肥え太っている輩も出ているみたいで危うさが伺える。

 

ルミが成人の際に儀式を行ったところ、彼女に与えられたのはこれまでの評価基準では測れない特殊な魔導書だった。

普通は最初から使える魔法がいくつか記されていて、図書迷宮で使えるものを増やしていくみたいですが。ルミが得たものは全てが白紙で……さすがの彼女もショックを受けていました。

 

しかし試してみたところ、図書迷宮の先に進む扉を開ける程度には格が高く、儀式を行うことで使える魔法を増やすことも出来た。

さらに少しずつ前を向けるようになったルミの前に、「司書」を名乗る、変わった少女まで現れて。

ミカゲと名付けられた司書の少女はルミと一蓮托生、あまり遠くまで離れることも出来ない存在だそうで。人よりも神に近い彼女は、今失われた知識を持っていて……「過去の人に既に教えたこと」として、教えてくれないことも多いのですが、それでも貴重な知識を持っているのは確かで。

司書を携えた者に与えられた権利として、バカやった奴らから魔法を奪える『督促』とか。魔導書の『強化』を行えることとかは、かなり重要な情報ですよね。

 

ルミはそれまでの常識からすると、常識外の存在であり。中央の貴族は貶めようとつまらん噂を流したりもしていたわけですが……それに負けず奮起してできる事をやっているのが良いですねぇ。

 

それを想うと、バカ貴族の息子が魔法を授けてくれる図書迷宮の祭壇をぶち壊したりした末、玉虫色の決着になったのはなんとも。まぁ政治的なバランスとか、本格的に貴族と貴族の争いになったら面倒だという部分もあるってのはうなずける話ですが。

それはそれとして中央の王子とかバカすぎて、早い段階で教育しとかない近い将来足をすくわれそうだから、初手苛烈に行っても良かったんじゃないかなぁ……みたいな気持ちにもなる。

神殿の腐敗も軽く触れられるだけでしたが、今後絶対かかわりは増えそうですし、ルミ達には頑張ってほしいものです。
膿を出して、少しずつ味方を増やしていかないと、かつて前線に立ち倒れて行った先達たちの二の舞になってしまいそうですからね……。