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「自信が無い時こそ堂々としていなさない」

本格的に薬師を目指すと誓ったときに、母親に最初に教わったことだ。

時にはハッタリだって必要な技術なのだ、と。

(私は出来る。この命は助けられる。大丈夫。大丈夫)

 

主人公のミーシャは、母と一緒に森の奥に創られた丸太づくりの家で母と二人きりで過ごしている少女。

彼女の父はこの国の公爵であり、見分を広げる旅の途中で恋に落ちて……母親であるレイアースは、今住んでいる国から遠く離れた地の薬師の一族であったが、一族からの反対を押し切ってこの国にやってきたとか。

ただ、それまでの暮らしと違う環境と……正妻との折り合いが悪かったりした結果、は公爵邸を離れて森での暮らしを選んだそうです。

月に一度は父親もミーシャ達に会いに来ていたようです。ミーシャは母から薬師の技を教わりつつ、穏やかな暮らしを送っていたとか。

 

しかし、隣国との戦争が勃発してしまい……これまで以上に傷薬などの需要が増して。

公爵位である父もまた戦争と無縁ではいられなかった。

早く平穏が訪れれば良いのにとミーシャは願っていましたが……その祈りは届かず。

森の家にやってきたのは父ではなくその部下で。さらに「公爵の容態が危うい」という報せまで携えていた。

騎士の馬に同乗させてもらう形で公爵邸へ駆け込み、母の治療を手助けしたり。

母が父にかかりきりになっている中で、手が空いたミーシャが他の重傷者の治療にかかったり。

 

ミーシャの自認としては「ようやく見習いの文字が取れたくらい」らしいですけど、幼いながらになかなか覚悟が決まっていて良いですね。

父が死に瀕しているのを感付きながらも、泣きそうな気持をこらえて母の治療の手助けに奔走していましたし。その後も、一人で治療にあたるのがほぼはじめてなのに、気遣いを忘れず、怯えを最後まで患者の前で出さなかったりしてましたし。

 

レイアースは実は『森の民』と呼ばれる、医療技術の発展のために力を注ぎ、国境もなんのそのと超えてしまう行動力のある人物もまぎれていたり。

その力を狙った国に「報い」を与える苛烈さもあって、今では不可侵のような扱いを受けている存在だとかで。

そんな中で恋から国を出奔したレイアースと、彼女から一族の技術の一端とは言え学んだミーシャはかなり特殊な立場みたいなんですよねぇ。

実際、生死の境をさまよっていたミーシャの父である公爵様を救いあげることにレイアは成功したわけですし。

 

……レイアースの知る輸血技術が不完全だったことと、彼女の情の強さから限界を超えて輸血して、フラフラ状態のところで彼女を疎ましく思っている正妻の娘と鉢合わせて。レイアースが命を落としてしまう結果になったのは、痛ましい事件でした。

公爵様が、正妻とその娘に対して果断に対処してくれたのは、せめてもの救いでしたか。……彼自身も言っていましたが、レイアースと恩人から頼まれたことでかつてレイアース相手に手を下した際に、正妻との離縁を諦めたことは失着だったとは思いますけど。

 

正妻ローズマリア、他国へミーシャの情報を流して売る事さえして。

その結果として、ミーシャの世界が広がっていって、彼女のお節介で救われる人もいるので結果的には母を失ったばかりのミーシャにとって悪いことばかりではない旅路を過ごせているのは良かったですけど。

……そもそもローズマリアの行いが無かったら、レイアースの死までなかったんだよな……。中盤からのミーシャの旅路は好きなんですけど、ローズマリアの存在がうぐぐってなります。

まぁ、良い悪役ではありますよね。物語を動かして早々に退場してるし。ミーシャが凄く良い子で、見ていて微笑ましくなるので作品全体としては良作です。