「貴方、前から言おうと思っていたが。優しすぎる。やさしさの発露方法が、他者からわかりにくいほどといってもいい。そこまで相手のことを考えている。一匹の牡としては素晴らしいこと。感謝もしている。でも、王としてはもう少し、堂々とされるがいい。傲慢になるといい。それでも臣下はついてくる。この私もそうだ。こんなものは傲慢のうちに入らない。慈悲深い。深く、深く、底が見えないほど深い」
魔種族統一国家オルクセンの国王グスタフは、大喰らいで知られるオーク族。
かつては「他の魔種族すら喰らう」という習慣があったそうですが、グスタフが王に就任して以来、それを廃止して。その代わり、民が飢えることのないように食糧管理をはじめ国力増強に努めて、統一国家オルクセンを作るまでに至った理性的な王なんですよね、グスタフ。
そんな彼がある日、隣国であり仮想敵国であるエルフたちの国家エルフィンド近くに赴いた時、ダークエルフと呼ばれる黒い肌を持つエルフ族の美女が倒れているのを発見。
グスタフに救われたダークエルフ族の族長ディネルースは、エルフィンド内部で白エルフによる「ダークエルフ狩り」が行われている、という状況をグスタフに伝えて。
同胞を殺したエルフを許さず、殺戮しかえしてやろうと誓うディネルースに、統一国家オルクセンへ来て、将来の捲土重来に備えるのはどうかとグスタフは提案。
……というか初手内ゲバしてるんですが、言うほど平和ですかねエルフの国。
まぁオークの国が他種族喰らう野蛮な習慣を廃したのもここ70年ほどらしいので、それ以前はまぁ……平和かぁ?
魔種族っていうのは長命で、グスタフも150年を生きているそうですが、ディネルースは彼よりも年上みたいですし。
長命ゆえにディネルースはいろいろと知ってることが多いし、魔法の知識も秀でているみたいですが。同胞である白エルフの狡猾さについては、知らなかった。
かつてグスタフが一兵士として参加したエルフとの戦争で、オークは敗走。その際にダークエルフはオーク撃破と言う作戦目標を達成して撤退したが、白エルフはその騒動に則ってドワーフの国を滅ぼしに行ったりしてたみたいですし。
他の種族も自国から追い出したりしてる傲慢さ、というか苛烈さが光るなぁ……といいますか。
グスタフは仮に魔種族の間での戦争がひと段落したとして、その次には人間種族との戦いが勃発するだろうし、銃火器が発達している中では優位を保っていられる保証がない。
だから国王として先を見据えて色々と手を打っている、というのが実に良い。
そうやって立派な王様をやる一方で、しれっと市井に出て民と交流を持ったりしているおおらかさもあるみたいですけど。ディネルースは優しい王と評していましたね。
……まぁ優しい一方で、争いに備える事を辞めない王でもあるんですが。油断してないってことで良いことでもあるんですけど。
補給大隊のタウベルトを助けるためにグスタフが力を使う場面、良かったですよね。……そのあと、スッとお出しされた未来がこの作品が優しいだけじゃないっての見せてきましたが。まぁ、そもそも初手ダークエルフの虐殺起きてますしね……。
大きな争いが起きているわけではなくて、備え続けている状況開示のエピソードが多い話でしたが面白かったですね。