ただ――今はそこまで悲しいだとか悔しいだとか、強い感情はない。
今の自分に生まれ変わって時間が経って感情の整理がついているというのもあるし、戻れるわけがないというのもあるが、自分自身がしたい事をしてきた、その結果だからだ。そこに、後悔はない。もともと覚悟を決めて進んだ道だったのだから。
主人公のクレアは、訳ありの少女。
ロアシュタッド王国とヴルガルク帝国と言う、2つの大国の間には強大な魔物が跋扈する危険地帯『大樹海』が広がっていた。
過去の遺跡に財宝が眠っていることもあり、一獲千金を夢見る輩が森に踏み込むこともたまにあるようですが……。クレアはまた別で。
何者かに追われていたためか、追手を振り切るために敢えて危険地帯に踏み込んだと思しき集団が命に代えても守ろうとした赤子がクレアだった。
魔物から身を隠す術は用意していたみたいですが、追手に追いつかれそれが無効化されてしまい……集団は追手もろとも魔物に蹂躙されてしまった。
それでも老剣士がクレアを守るために奮闘し……その気配を感じ取った、大樹海に庵を作り暮らしていた魔女ロナが保護することになったわけです。
「面倒事は嫌い」と言いつつも、老剣士の最期の頼みを聞いてくれたり、ちゃんとクレアを無事なところに運んでから墓を作ってあげたり、面倒見良いですよね。
一から育てた弟子がいたらどれほどのものになるのか、興味が湧いたなんて地の文では書かれていましたけど。ちゃんと師匠してるし、クレアにも慕われていますし。
実は前世の記憶を持っていたクレアは、年齢の割に落ち着いており……魔女ロナが良い人だったこともあって、すくすく良い子に育って行って。
ロナも大樹海の庵で魔女の弟子として必要なことを教えつつ、それだと人との交流が皆無で偏りすぎる、と自衛できる程度の腕になってから人里に出すことも始めていますしね。
見習い魔女として自分で作った薬を売りに行く……その交渉もまた修行の一環だ、と課題を貸していく形ではありますが、成長に必要なものをしっかり与えているのが良いですね。
ロナはクレアから「おばあちゃん」と呼ばれるのを「どうもむず痒い」と言って、名前呼びをさせてますけど。師匠と弟子という関係も確かですけど、祖母と孫みたいな温かさを傍から見てる分には感じますね。
クレアは町に赴いた時、別の領地の貴族令嬢セレーナと出会って。彼女に手助けをする分、セレーナの持つ貴族令嬢としての知識を教えてもらう協力関係を結ぶことになって。
良い友人に出会えて、お互いに研鑽を積んでいったのは良かったですけど。
……タイトルにあるとおり野心的な帝国のスパイが蠢いていたりして、否応なく巻き込まれていくことになるんですよねぇ。
追手に追われて大樹海に踏み込んでいた、という時点でクレアは最初から渦中にいたともいえるでしょうけど。まだなんで彼女が狙われていたのかは謎のまま。これからどんどん厄介事がやってきそうではありますが、くじけずに頑張って欲しいものですね。