一つの区切りを迎える『Unnamed Memory after the end』第6巻。
今回はネタバレ満載の感想を書くので、ご了承の上ご覧ください。
「大丈夫。私たち、ようやく帰れるんです」
(略)
「そうしたらまたずっと一緒だな」
呪具を巡るエピソードに、一つの区切りがつくことになる第6巻。
WEBで公開してたate5巻の「鳥籠の女」よりも前のエピソードであるSS『奇跡』。過去に同人誌オマケとしてSSだけ公開されていたエピソード『小雨都』の本編加筆版と、同人誌として刊行された『Aeterna』の長編2本を収録。
『Aeterna』は同人誌版既読だったので、結末は知っていたんですが。いろいろと衝撃の大きい巻ではありましたね。
『奇跡』は、神娘としての性質を表に出したルクレツィアから、とある土地の祝福への助力を頼まれる話。そこが「Void」でルース時代のオスカー達が暮らした城のある土地だったのは、なんとなく嬉しかったですね。
ルースが追放された通り、荒廃した地域であり……東の大陸にあった神具の呪いが残る場所。オスカーが呪いの力を抑え、ティナーシャが土地を復元し、ルクレツィアが祝福を与える。
ティナーシャは、神娘としてルクレツィアが使う魔法構成に寄らない、世界に基づくような力を使うことを抑制していましたが。ルクレツィアからは「それが出来なきゃ行き詰るかもよ」と言われ、オスカーからも王命として後押しされて……ティナーシャは自身を変質させたエルテリアの力を条件付きではあれど再現できるようになったわけです。
実際その能力に後に助けられるわけですし、ティナーシャに自身の異質と向き合わせるのがルクレツィアの目的の一つではあったみたいですけど。
「たまに懐かしくなる」という神娘として、普段は忘却しているけれど長くを生きている彼女の憧憬というか、追憶というか……いろんな思いのこもった「たまにはこういうのもいい」という台詞が、凄く胸に残る短編で結構好きなんですよねぇ。
……そして続いて収録の『小雨都』。奇跡が3180年だったのに、一気に7730年まで飛ぶの、逸脱者の宿命の重さを感じますね……。
今回巻頭に五大陸の地図が掲載されていて、魔法大陸と東の大陸の近さと比べて他の3大陸の遠さよ。その上、逸脱者が入り込んだり楔が消えたことで解かれたとはいえ2つは水の檻で閉ざされていたわけで……。
逸脱者2人が魔法を駆使しても移動するのが大変だっていうのも良くわかる。その上、魔法大陸は今では魔法で閉ざされ他大陸との干渉を拒み、4大陸からは魔法が失われた。
そんな状況で、海にはクラーケンとかいる世界ではもう他大陸との交流とかは無理だろうなぁ……って正直思ったんですが、『小雨都』の冒頭でその無茶な船旅に繰り出した人々が描かれていて……さらに後の描写でわかるんですけど、大陸間航行に成功して定期的に行き来できるようになっていたのには驚きました。
最初にそれに乗り出したのが、科学技術が発展していた大陸レイジルヴァで。そこから東の大陸と繋がって、東の大陸で携帯ゲームがプレイできるレベルの技術発展が為されたのは、良かったのでは。東の大陸、ずっと戦争を続けた末に魔法士も生まれなくなってしまって、開拓が進んでないエリアが多かったはずなので。
……時代の変化を強く感じて、どこか寂しさもありますけどね。それを見届けられたのも、逸脱者の旅路があったからこそなんですけど。
『小雨都』は、トラブルに遭遇した時に助けてくれる「翌朝の一人」という都市伝説を追っていたオスカーとティナーシャがたどり着いた、とある独裁国家に弾圧されている都市。
追い込むことこそ出来ても、なぜかギリギリで踏みとどまり復活する怪しさがあり……対抗してる基地側の軍人たちもかなり困惑してる状況だとか。
オスカー達も、ラナクの姿をした青年ラスに出会い……呪具の干渉を確信したわけですが。
呪具破壊の力を流し込んでもラスは消えなかった。その謎を解き明かそうとしてる時に、独裁国家側が踏み込んでくる結果となって……。
泥沼になった結果、位階間が揺らぎかなり危険な状況になっていたのは、かなり冷や冷やしましたね……。
都市伝説「翌朝の一人」とか言ってるくせに、複数人生成できるし。生み出す時に干渉してるけど、生み出された存在は一個体として存在するとか、かなり破格の性能してましたし……。
ビル10階規模で空に浮かべているとか、呪具のサイズ的な意味でも規模の大きい呪具ではありましたね。それでも諦めずに足掻くオスカー達はさすがでしたが……寿命が近いとは今回描写されまくっていたとはいえ、ナークが最後命懸けでぶつかっていったのは……逸脱者の傍にありつづけたナークらしい決断だと思いましたけど、やっぱり悲しい。
最後オスカーも一緒に命を落とし……逸脱者の遺体は相方が処理することになっていたのに、今回はナークと一緒に埋葬したって言うのが、逸脱者とナークの積み重ねて来た絆を感じて好きではありますけども。ナーク、寂しいよ……。
そして虚無大陸の呪具を破壊するエピソード『赤の中庭』が描かれ、そこでティナーシャが呪具の力を取り込むなんて無茶をして……。
最後の呪具を巡る物語、11656年の『Aeterna』へと続くわけです。同人誌版を既読だったので、覚悟はしてましたけどついにここまでたどり着いたかと感慨深くもありました。
呪具の残りが1個となったことで、対抗呪具である逸脱者とのバランスも崩れたこと。ティナーシャが意識的にオスカーを避けていたこと。
色々状況が重なって『小雨都』以降、逸脱者が再会することは叶わなかった、と。4000年とか、それまでの呪具破壊に近しい旅路を一人ずつで過ごすのはどれほど空虚だったろう。
オスカーなんて特に。この世界の呪具として存在を許されたのは、外部者の呪具があったから。その全てが壊れたのなら、最後には逸脱者自身を壊さなくてはならず……それは、破壊の力に特化したオスカーが担うことになる、と。
だからオスカーはティナーシャを最後には殺すために、探し求めていたという矛盾を抱えていたわけで……それでも足を止めなかったのは、どこまでも王だよなぁ……。
そして最後の呪具を破壊して、その矛盾すらも超えて、ようやく逸脱者たちの長い旅が終わろうとしていた、そのタイミングで。
外部者の呪具は「呪具を再配置する機能」を実行しようとし始めたわけです。実験失敗したら再試は必要でしょうけど、一万年単位で異世界相手にやるんじゃないよ!!
外部者側が再配置の為に干渉を強化したこのタイミングで、逆侵攻をしかけることをオスカー達は決めて……王を進ませるために、自分の身を擲ったティナーシャと……その別れを許せなかったオスカーの我がままが、どこまでも2人らしくて、寂しさもあるけど納得できる部分もあります。
衝撃度で言えば、既読だったのもありますがナークとの別離の方が重かった。2人、形は違えど一緒にいるわけですからね……。とはいえ、章外のタイトルが「比翼の鳥」だったの、言葉通り過ぎて心がざわつきましたけど。
Ate7の刊行も決定しているそうですし、2人の旅路がどんな結末を迎えるのか。ルーディルスタイアでの出来事は本当に未知なので、震えながら待ちたいと思います。
◆オマケ
・ate6刊行前に描いた「11番目の呪具(小雨都)」考察与太(パスワード記事)
・ate6読書実況まとめ