「お前が何を考えているか、分かるよ。お前は自分のことより他人のことを優先させてしまう、そういう人間だからな。きっと、自分にできることがあるんじゃないかとか、そういうことを考えてるんだろう」
(略)
「今はただ、遊べ。手にした幸せを、思う存分満喫するんだ。力だ責任だと面倒なことで悩むのは、もっとずっと後でいいさ」
主人公の少女ジゼルは、前世の記憶を持った少女。
前世の彼女は、湖月の国と呼ばれる小国の女王であったが……先王である父が、周辺国が攻めてくるという妄執に囚われ、それに備えるために重税を課しまくった末に病死。
その後を継いだ彼女は、傾いた国で悪事を働いていた者を法に則って処刑し、父の作った悪法を改定し、苦しい国政の中でそれでも重すぎる税を少しでも下げて、何とか国を回そうとしていたが……民にその誠心は届かず、反乱を起こされた末に処刑されることになってしまった。
そんな凄絶な過去を持つ彼女が、今世では湖月の国の隣国でもあった帝国にあるフィリス伯爵家の令嬢ジゼルとして生きることになったわけです。
湖月の国は小国だったこともあり女王であったジゼルでも、あまり他国の事は知らなった。それでも、帝国に魔導士と呼ばれる魔法を扱う存在がいる事はしっていて……。
密かに魔法に憧れていたジゼルは、前世の記憶があることでずっと寝台に居るのも退屈だからと、少しずつ勉強を初めて……召喚魔法を使えるようになったわけです。
魔法を使う時には陣を描く必要があり、ジゼルは技術以前に体格の問題なんかもあってそんな大きな陣を描けなかったりと課題も多いみたいですけど。
帝国で教えられる形式で言えば、召喚魔法の使用にあたっては召喚した相手が逆らわないように魔法で縛るのが前提とのことですが。
ジゼルはそうやって無理やりいう事を聞かせることに思う所があって、基本的に制約の陣を組み込まずに召喚魔法を扱っていた。
それでうまく召喚した相手と交流できているのは何よりです。両親が親バカで娘が天才だと騒いだ結果皇帝の目に留まったり、側近の魔導士ゾルダーから助言を貰えるようになったのも、独学でやってたジゼルにはありがたいことではありましたけど。
ゾルダー、ジゼルの天才性を認めつつも「こんな小さな獣たちにも、情けをかけている」とか言うんですよね。「優しさが命取りになる」という忠告を含んではいますけど。
……それとは別に、制約で縛りまくっている方式しか知らない魔導士らしいというか、「小さな獣」とか言ってる当たりに召喚対象を当然のように下に見てる感性が透けて見える場面があって、言ってることは正しい部分もあるけれど、なーんか好きになれない御仁だなぁ、とは思いました。
両親が年齢に見合わぬ素振りを見せることもあるジゼルを、そんなことは気にせず愛情を注ぐ親バカっぷりを見せてくれたり。
最初に召喚したウサギみたいに長い耳を持つネズミ(ジゼル命名:ウサネズミ)のルルが、彼女を慕って、色々と助けてくれたり。
学園に通うことになってから、友人が出来たりして、前世は壮絶でしたが今は幸せそうで良かったですね。……まぁ、なんかトラブルに巻き込まれたりもしてるし、最後になんか不穏な人物を目撃したりしてますし、もう一波乱ありそうですけども。