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「遅くなりました。あのときの御約束どおり、お迎えに上がりましたわ」
「わざわざ、ご自身で」
「わたくしの婿になってくださる方ですもの、当然というものです」
主人公のセオドールは、アルタートン伯爵家の次男。
コームラス王国の都を守る騎士団に代々務めて来たことで「コームラスの懐刀」とも呼ばれる武人の家系で、齢十を数えるころには騎士として相応しい身体能力を発揮していたそうですが。
1歳上の兄ロードリックが十歳になった時に、セオドールは兄弟対決をさせられて惨敗。その結果から父は彼に期待することもなくなり……あからさまな格差をつけて兄弟を扱うようになった。
嫡男でもあるロードリックの誕生日を祝うパーティーは盛大に行ったけれど、次男であるセオドールには全く行わなかった。
父は王都守護騎士団の副長を務めていたし、ロードリックもそこに所属した騎士の一人として活動するようになったけれど……セオドールは実家で飼い殺し状態。
ロードリックが苦手とする書類仕事をぶん投げられて、それを完璧にまとめ上げたりと出来る範囲のことはしていたみたいですけど。
……父は、そんなセオドールの頑張りにも全く気付くことはなかった。
そんなある日、実質的にセオドールを名指しした縁談がハーヴェイ辺境伯家から持ち込まれて。
それはかつて出会ったときに彼を見初めて「いつか迎えに行く」と言ってくれた少女ヴィーの熱意が実ったものだった。
辺境伯家の方々はセオドールの努力をしっかりと評価して、認めてくれてたのが良かったですね。
兄は弟に書類仕事をぶん投げて評価する事はなかったし、鬱憤をぶつける対象として見下し続ける愚物だし。父親も嫡男のそういう性質を抑えられてないし、弟が実質的に兄の部下として有能な働きをしてるのを見抜くことも出来てなかった。
家庭内すら抑えられてないのに、よくもまぁ王都の騎士団副長なんてやってられたな……。
セオドールが婿入りでハーヴェイ辺境伯の領地に赴く時とか、自家の兵を動かすのではなくたまたまそちらの方面に任務のあった配下の騎士に同道させるという公私混同もやってるし、先祖の名声に下駄はいて傲慢になってたんだろうなぁ……。
セオドールの婿入りにかこつけて、良い取引先を紹介してくれとかいう手紙を贈り物に混ぜ込むようなせこさがあるのに、婿入りに際して「セオドールはアルタートンの次男ではなくハーヴェイの息子として扱え」っていう婚姻契約書を交わしたりしてるし。
あちこちアルタートンの詰めの甘さが伺える
ロードリックの結婚式にも「弟セオドール」ではなくて、招待されたのがヴィーの方だから「招待された辺境伯家令嬢の婚約者」として出席することになってましたからね……。
後日、模擬戦もすることになってましたけどそこでロードリックが恥をさらしてくれたのは、痛快ではありましたけど。