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「――おまえたちも、私も、今は諦めるつもりがない。奪われることはあるかも知れないな。敗北する場面も来るかも知れない。だが、だからどうした? そんなことでは、戦うことを放棄しない。なにもせずに奪われることを、ただ失うことを、もう許せない」
ロイス王国グローリア伯爵家の次女だったクラリスは、しかし魔法の才能がなく『無才のクラリス』と蔑視されていた。
それでも流れる血は活用しようと政略結婚の道具として用いられるはずだったが……その婚約相手であるミュラー伯爵家が、「平民出身で血統に難はあるが、魔法の才能がある少女」を見出したことで婚約破棄されることに。
しかもただ婚約破棄されただけではなく、謀略によって驚くほどスムーズに火刑に処されることが決定してしまって。
そんな死に瀕した最中、クラリスは前世の記憶を取り戻した。
アラフォーの独身男性だったらしいのでTS転生したらしいですね。クラリスとしての記憶もあるし、なんならそっちの方が強そう。自分で「クラリス・キュートで仕方がない・グロリア」とか地の文で言ってますからね。我が強い。
火刑に曝される中、前世の記憶を取り戻すなんて変なことをしたからか。はたまたもとより彼女の中にそういう力が眠っていたのか。
クラリスはどれだけ火に曝されようと死ぬことが無く……剣で突かれようと、弓で射抜かれようと、魔法でバラバラにされようと復活する『不死』の力に目覚めるんですよね。
自分をはめたミュラー伯爵家の当主を殺し、その後は一時的に処刑の風景を見ていたロイス王国のイルリウス侯爵家のところで生活保障される代わりにマッドな魔術師の実験に突き合わされて。
ある程度の学びを得た後に、侯爵家を出奔。魔族や獣人族がすんでいる、ロイス王国の外へと踏み出していくことになったわけですが。
そこでクラリスは魔族間での政争に敗れ、死地に追いやられた部族と出会ったり。
クラリスの生き様によって、迷いを得た一部の面々を引き連れて安寧の地を求めて獣人たちの棲む地域に踏み込んでみたり。そこで勃発した獣人部族間のクーデターじみた騒動に巻き込まれたりしていくわけです。
……クラリス、不死で復活できるから相手の体力や魔力が尽きるまで無限耐久して勝ち拾えるの本当にひどい。でも、あくまで復活出来るだけで、罠のある倉庫に引き込むとかしないと集団相手には厳しいものがあって。
それを補うのが、クラリスと言うあまりにも不可思議な生き方をしている少女に流されている魔族や獣人の方々なんですよねぇ。
一部は自分たちで「クラリスに命運を預ける」と決めたけれど、クラリスに載らないという選択肢もある中で流されたものも居て……最初にクラリスと出会った魔族ユーノスが「流されるままでは良くない」と前に出る選択肢を、今度は自分の意思で選んだシーン、結構好きです。
あっちこっちに火種が残る中で、彼らの安寧はまだ遠いでしょう。争いの中で犠牲も出るでしょう――旗頭のクラリスだけは死にませんが――それでも、彼らの道行が少しでも良いものであることを願います。