自分の声で空がどこまでも押し広げられていく、という感覚を、僕はその日はじめて味わった。翼なんてなくても、海の向こうまで飛んでいけそうな気がした。みんなこの瞬間の為に歌っているんだ、と確信できた。
この瞬間のために――生きているんだ。
いつかミウが言った通りだ。最高の気分だった。
良くも悪くも杉井節。
音楽好きですよね、という感じ。
いや悪くも、なんて言ったけれど、このテイストが好きだからついつい手を出してしまう身じゃ何も言えないか。
今回は音楽がメインで、ほかの作品にある推理とかの要素は少なめ。
キャラクターはなんだかんだでいつもの奴等、な雰囲気ですが。
引きこもりの高校生ハル。
たまたま出かけた時にギターを拾うが、それには死んだアーティストの幽霊がついていて。
その幽霊が「俺が生前出せなかった曲を代わりに唄え」。
そうしてストリートで曲を奏でるようになったハルが迷いながらも歩いてく話、と言っていいのかな。
熱中できる何かがあるのは幸せだと思いますが。
ヒロインのミウは、現役の邦楽アーティスト。
プロとして活躍している十七歳の少女。
ストリートでの演奏を聞いて回り辛い点数を付けて廻っている。
けれどそれはプロの優越ではなく、彼女自身の問題も影響していて。
何のために唄うのか。結局どんな立場でも人は迷うってことですかねー。
過去の経験から、引きこもりになってはいるけど、コミュニケーションが取れないわけではないんですよね。
臆病になってしまっているというだけで。ストリートで強さを獲得すれば、学校に通うことも可能になるかもしれない。
まぁ、ストリートでやっているからこそ、この作品の良さがあるように思うので、続刊があるとして、そっち方面には言ってほしくないような。問題を解決して成長してほしいような。
単巻で結構良い展開になっているので、このまま終わってもいいんじゃないのかなぁ、とか思ったりします。