「起きた出来事がどれだけ大きくても、それを引き起こした人に壮大な目的があるとは限らない」
事件の大きさと、発端の大きさは比例しない。
歴史に刻まれる事件の裏に、必ずしも巨大な陰謀や思想が隠れているとは限らない。
二年以上もの間、戦場漁りとして戦場を渡ってきたカナタは経験からそれを知っている。
主人公のカナタは親を亡くし、ウヴァル傭兵団に拾われた。
と言っても戦士として鍛えられているわけではなく……下っ端も下っ端、戦闘が終わった地域に踏み込んで金になりそうな武器や小物を回収する「戦場漁り」という立場だったわけですけど。
ノルマを達成していればしっかりと生活の面倒を見てくれるし、悪い場所でもなかったみたいですけど。
カナタはノルマの分を集めきった後、趣味でラビッシュと呼ばれる魔術滓を拾っていた。
魔術師が魔力を使ったときに余計だった魔力の塊なので、魔術師からしても未熟さの表れとして「滓」とついている通り、ゴミ扱い。
見た目こそ珍しい色味の石、という感じだけど宝石ほど輝いているわけでもない。そもそもが魔術を使った際にでた滓なので、時間経過で消えてしまう。
だから「戦場漁り」のカナタでも、自分のモノとして得ることが出来た。
カナタはそのラビッシュの中にぼんやりと見える記号を眺めるのを好んでいたわけですが……ある日、そうやって何年も積み重ねていた解読がカチッとハマり、カナタは魔術を発動できるようになったわけです。
とは言え魔術についての知識なんにもなくて、ただ魔術滓の積み重ねで一つだけ魔術を使えるようになっただけで。
副団長のグリアーレが魔剣士という、魔力を扱える存在だったことで色々教えてくれたのは助かりましたね。
ウヴァル傭兵団が参加していた戦場、村同士の些細な争いを理由に貴族が大義名分もなく戦争を仕掛けたものだったそうで。ダンレスというその阿呆貴族が難癖をつけて来た時に、カナタは自ら前に立ったわけです。
決闘騒動に発展したりもしましたが、そこで「魔術滓から魔術を会得できる」というカナタの異能が明らかになって。
ダンレスよりは真っ当な貴族に目を付けられたカナタは……1巻後半に収録された第二部では、その出自を偽って貴族家の養子として迎えられることになったわけです。
突然子供が一人増えると言われて、面白いと思う関係者がいるはずもなく。つけられた侍女には初期嫌がらせされるし。母となる人物や魔術の教師は優しかったけど、カナタに直接苦言を呈してくる奴もいた。兄となる人物も内心では面白くないと思っていた。
そんな中で事件が起きて……カナタが自分なりの考えを持って踏み込んでいったのは、軸が通ってて良かったですけど。無茶するなぁ……とも思いましたね。
WEBで読んでて好きなシリーズなので、書籍化はめでたいしこのまま続いて欲しいものですが、さて。