「誰のことも見たことないんですけど。人を好きになるってどういう気持ちなんですか?」
「そこからか……」
(略)
「お前にいつも幸せでいて欲しいという感情だな。その時に一番近くにいたい」
C105(2024年冬コミ)合わせの新刊。
事前情報で消滅史っていうところだけ聞いていて、タイトルがこの「虚ろ月」という者だったので、悲惨なタイプの消滅史だったらどうしようかと思っていたんですが。
実際問題、ティナーシャが再会するまえにラナクが死んでしまって、彼女が魔女として長くを生きてまで成したかった魔法湖の昇華が叶わなくなってしまった。
そのため、もう死にたいな……という絶望にティナーシャが浸っていたところに、魔女の塔に呪われた状態のオスカーがやってきて。
下見のつもりだったけど、塔の解体を考えているとティナーシャが口走ったことで、そのまま挑戦することに。1度目は流石に無理で、塔の外壁を伝って降りたとか無茶するなぁって感じではある。
その後2度目の挑戦で制覇しているあたり、特訓は怠ってないんですよね……。
「死にたい」なんて絶望を負っているティナーシャ相手に、適度に距離をとって無理に踏み込まず、パーフェクトコミュニケーションをとっているオスカーはお見事でした。
魔法視の特訓で猫使われているのがなんか和んだ。
不可視で周囲をうろつくから、それをキャッチするのを頑張るという特訓を選んだ理由が「猫を捕まえると嬉しいから」なの可愛いなティナーシャ。人懐っこい猫だと、実際和みますけども。早く察知できれば前足側を掴める、ちゃんと習熟しないと無理なあたり特訓として効果的なのも笑えるポイントですが。
ティナーシャ、いつものルートよりも死を望んでいるからか、ラヴィニアに会いに行くハードルが低いのがなぁ。本編だと、出会った時期が早くてラナク生存の可能性がまだあったのもあって「ただの契約者だから、魔女と戦うまでではない」みたいな距離感だったハズなのに。
ラヴィニアから魔法球の存在をティナーシャが聞いて、それでも使わないことを選んで。
定義名が分からずどうしようもないはずの魔法湖に対して、オスカーなりにできる事をしていたり。普段と違う選択を見られるのは、消滅史ならではで……いつか失われるのが確定しているとしても、とても良いエピソードでした。
タイトルに「虚ろ」とか入ってるので、零れた灰みたいに闇よりだったら怖いなぁとは思っていたんですが(闇消滅史は闇消滅史で好きですけども)、読了後どこか温かい気持ちになれたので良かった。