気ままに読書漬け

とりあえず気が向いた時に読んだ本の感想などを上げてます。ラノベメインに、コミック、TRPGなど各種。推しを推すのは趣味です。 新刊・既刊問わず記事を書いてるので、結構混沌しているような。積読に埋もれている間に新刊じゃなくなっているんですよね。不思議。ま、そんなノリでやっているブログですが、よろしく。

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魔王と勇者の戦いの裏で3~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~

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「恐怖を消すには勝利が一番いい。それが小さな勝利でもな」

 

無事に3巻が発売してくれてとても嬉しい、お気に入りシリーズ。

2巻で難民護送任務を無事に終えたヴェルナーは、家の騎士団を指揮して水道橋付近の巡邏警備などを行っていた。

そうした任務を果たしつつ、裏では暴走ののちに消息不明となったマンゴルトについて考察していたり、ヴェルナーは本当に真面目ですね……。

難民がやってきて食い扶持が増えた問題はあれど、なんとか対応できそうかと思っていたところに急報。

 

魔族の軍が活発に動き出し、都市に被害が出たために緊急出動令が出されることとなって……。

またしてもヴェルナーは実家の騎士団を率いて、現場に派遣されることになります。王国において三度しか出ていない「緊急出動令」が出されるほどの危機、と即座に察しがつくあたりは前世知識の底上げありますけど、普通に優秀ですよねぇ。

書籍版で何かと描写が増えているフュルスト家のタイロンなんかは、目先の問題しか見えておらず当主がため息つく場面もありましたし。

……そうやって文官系の家なのに優秀さを見せつけてくるから、反発する輩も出てきてしまうんでしょうけど。

 

かなり早い段階で戦闘地域に駆けつけたヴェルナーでしたけど、そこで勇者と旅をしている筈のフェリと遭遇。

ここにヴェルナーが来るのを読んでフェリをメッセンジャーに派遣したマゼルも偉いし、そこで得られた情報を重視して即座に動けたヴェルナーも見事だよなぁ、コレ。

マゼルが先んじて渦中に飛び込んだため、今しばらく時間はある。しかし、そうやってマゼルが目立ったことで彼の家族に累が及ぶかもしれない、と動けるのがすごい。

 

フェリもしっかりと情報持ち帰って、勇者の見せ場作ってますしね。勇者側とヴェルナー側と解決に動いた事態がどちらもギリギリだろうと間に合ったのは何よりでした。

あとマゼルの家族を保護した後の道程も加筆でボリュームアップされてたし、リリーとヴェルナーが一緒に居る挿絵があったりしたのはWEB読者としては結構嬉しかったですねぇ。無事でよかった。

 

……まぁ、またしても軍規違反で追及を受けることになったりしてましたが。

フュルスト家が恩もあるから、とヴェルナーが居ないツェアフェルト騎士団が使い潰されないようにしてくれてたり、これまでの行いが無駄になってないのが良かった。

ヴェルナーの行動によってゲーム正史よりも犠牲が減っていたり、直近の平原での戦では大勝してしまったこともあって、逆に被害を生じたりする問題もありましたが。そこまで責任はとれないしなぁ……。

現場でも上位のグリュンティング公爵やセイファート将爵が、ヴェルナーの味方側だったのは救いか。

期待の裏返しで難題ぶつけられたりもしましたが。うまくさばいたヴェルナーも、勇者としての活躍をしたマゼルも、格好良くて満足のいく1冊でした。4巻も出てほしいなぁ。

月の白さを知りてまどろむ2

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「捨てられて、どうして殉じられる?」

「そうすべきだと思った。神と正面から向き合うならば人も誠意を尽くさねば」

「裏切られてもか」

「少なくとも、己が納得できるまで」

 

第三譚と第四譚を収録。

ちなみに私は紙版を購入したんですが、各ストアの電子書籍版では『紅き唇の語りし夜は』という短編が特典としてついてくるそうです。

こちらは四譚~五譚の間のエピソードとして描かれた、古宮先生が以前同人誌として発売された短編なのですが、再録された形になるので読んだことない方にはとてもオススメです。

 

短期間シシュが王都に行ったりとかもしてますが、物語の主な舞台はアイリーデへと戻ります。

第三譚では、アイドが追放されたことで新たに化生斬りが補充されることになって。

来る途中で行方不明になって、捜索に行って発見したと思ったら厄介ごとを持ってくるというどうにもイラっとするタイプではありましたね……。

 

補充の下りでアイリーデの化生斬りについての話が出てきたのは笑いました。

5人定員だけど、シシュの前任は高齢で退任したが後半は働いていなかったとか。その関係で4人体制に慣れていたから補充が遅れたとか。やたらツッコミどころばっかりなのが個人的にはツボ。

 

神話正統を継ぐ月白の主であるサァリは、これまでも描かれた通り人と神の二面性をもつ「異種」なわけですが。

1巻では王都出身のシシュと夜の街アイリーデ生まれの娼妓サァリという、生まれによる価値観や性格の違いによって生まれる凸凹コンビ感じが微笑ましく映っていたわけですが。

今回収録された三譚~四譚のあたりは、人と神という異種ゆえに生じるズレが強くなってきたように思います。

 

サァリは月白の主として祖母から教えを受けていたと言いますが……なぜ母ではなかったのか。その真実についても明かされたりもします。

価値観の違いというのは、この作品を通して重要になるポイントなのかもしれませんね。

第四譚での不文律に関してのトラブルも、ある意味ではその類ですし。

不文律--明文化されず、暗黙の了解となっている規則。神代からの歴史のあるアイリーデにも当然それはあって、それを巡ったやり取りも生じたわけですが。

 

……明示されないとわからないものというのは、人の心の内にもあるんですよね。分かることと分からないこと、言うべきことと言いたくないこと。いろんな思いと選択が交差した結末が今回描かれました。

異類婚姻譚らしいすれ違いのなかでも、サァリとシシュそれぞれのらしさが光っていて良かった。

「章外:祝福」として書き下ろされたエピソードですが、書籍のみの読者には分からない部分が、WEB最新話まで読んでると刺さって痛かった。

狼は眠らない8

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「自由に生きてこその冒険者だろう。言いたいやつには言わせておけ。思いたいやつには思わせておけ。それが気にならないのを自由というんだ」

 

5巻以降電子限定で刊行された『狼は眠らない』シリーズ、完結巻。

WEBの幕引きも味があって好きでしたけど、もどかしさがあったのも確かで、そのあたりの加筆があったのは嬉しいところですね。

 

7巻終盤は大森林の中にある神殿を荒らされた、と獣人たちに王国が攻め込まれたという状況だったわけですが。

プロローグが全く別の場面でちょっと笑っちゃった。エピローグにつながる加筆要素として面白かったですけど。

 

死にかけた迷宮で神薬を得て、失った目を取り戻したレカン。今までの状態でもこの世界でも有数の実力者だったのに、まだ伸びる余地があるあたりがすごい。

そして王都に帰還しフィンケル大迷宮の様子を確認だけして。そこでまた気になる情報を見つけるあたりが、レカンというか。

謎が増えたところですぐシーラと出会えたのも良かったですけどね。シーラのいう通り、研究者向きの気質がありますよねレカン。それ以上に冒険者としての生き様の方が強いみたいですけど、

 

マンフリー、ついこの間脚絆を欲したレカンがらみで貴族家から覚えのない礼をもらったと思ったら、ユフの騒動に関しても同じような目にあったとかで。

利益はあるけどそりゃ驚いてレカンに事情を聴こうとしますよね……って感じではありました。

そして関係者と結婚式に招きたい人についての相談などを済ませて、レカンにしては穏やかな時間を過ごしていたわけですが。

 

獣人たちの侵攻によって王国側の被害が積み重なってきた、ということでマンフリーから相談を受けることになって。

ここでレカンはかつて一緒に黒穴に跳び込んだボウドの名前を聞くことになるわけです。平和ボケしてた王国は痛い目見る羽目になりましたが。レカンを頼ろうと思えるマンフリーは柔軟ですね。実際、大森林の神殿に関しての情報をエダが持っていたりしましたし、レカンを頼ったのは正解なんですよね……。

 

相手がかなり強力な恩寵品――向こうでは霊器や神器と呼んでるようですけど――を持っていて、厳しい状況になりつつも刃を届かせたレカンはお見事。

……その後、旧知のボウドをしれっと連れ帰るあたりがレカンですよね。なんかほっとした。

戦争に関して宰相が失態を犯したことや、逆にレカンが勇名をはせたことで結婚式に王家が干渉してこようとしたり面倒ごとも生じてましたが。持論を曲げずにマンフリーに任せたのはレカンらしくて好きです。

 

結婚してからはしっかり妻2人の間にしっかり子どもを作りつつも、一つ所にとどまれるタイプではなくて。

ボウドと一緒に迷宮探索に乗り出して。海の迷宮でまた直近では存在しなかった百一階層を踏んだ探索者になって領主との縁まで出来たりしてました。ここの探索風景もかなり加筆されてましたね。楽しそうでした。

順調な生活を送っていたところ、レカンとボウドを吸い込むかのように黒穴が生まれ、故郷に強制的に送られてしまうんだから無常です。

 

WEB版だと向こう側で波乱万丈の生活してるレカンの事情と、三度彼の近くで開いた黒穴が息子たちを彼の下に運んでくれたものの、エダ達とは再会できない場面で終わるんですよね。

直前で長男のホルスがどんな手を使っても知らせるし、父を送り届けられなかったら向こうで自分が結婚して、エダの血を継ぐ子供によって知らせを運ぶと宣言してくれて。エダがその姿にレカンの影をみたわけですから、きっとどんな形であれ再会は叶ったんだろうと想像の余地が残ってて、最初に言った通りあれはあれで好きでした。

……いやまぁ、レカンがエダに約束したもし向こうに行くのならエダと一緒だ、という約束を破らせたうえ10年放置させる結果になった黒穴現象に関しては思う所あったのも事実なので、加筆によって帰還がかなった場面の描写が少しでも差し込まれていて良かった。

 

今回のプロローグは、領主に家族を人質に取られて理不尽な命令をされた冒険者ウォージェニーが黒穴に跳び込み、そこで出会ったフーという冒険者に助けられながら異世界に適合していく話で、どうつながるのかと思いきや。孫はジーンという名の冒険者になったそうで。

エピローグで再び彼が登場したときに、さてどんな幕引きを見せてくれるのかと思ったら変わらぬ主人公の姿を見せてくれたので満足度高かったですね。

途中から電子のみとはなってしまいましたが、刊行を続けてくれたことに感謝しかない。良いシリーズでした。

狼は眠らない7

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「もしそうでなくても、レカンは礼をもって接すれば礼をもって返す男であり、暴力をもって接すれば暴力をもって返す男です。ガスコエル様。あなたは礼を返されたいんですか。それとも暴力を返されたいんですか。これはレカンに対してだけの話ではありません。あなたの貴族としてのありようをお訊ねしているんです」

 

エダやノーマと結婚すること。ツボルト迷宮などを制覇した冒険者であること。

それ以前にも薬聖との縁があったりして、レカンの名前は結構知れ渡っているわけで。

王から呼ばれたとなれば、ワズロフ家としても無下にはできない。

長命種ヤックルベントに会いたくないから王都にはいきたくなかったレカンでしたが、出来る範囲で対策して乗り込むことに。

 

そうしたらレカンに「お前が異世界の貴族だって言うのは嘘だろう」と因縁をつけてくる貴族がいて。そのありように他の貴族が不振を示してもなおひかなかったため、「真実の鐘」が用いられ……陥れようとしたスマーク侯爵の方が偽りを述べていると証明されたので多少溜飲は下がった。

と思ったらマッドやヤックルベントが接触してきて。……レカンがこれまで逃げようとしてきたの間違いじゃなかったの証明されたな……これは会いたくない。

 

辛くも逃げ出したレカンを保護してくれたのが、彼が初めて異世界に来た時に出会ったザイドモール家のエザクだっていうのは不思議な縁ですねぇ。

トロンの素材で資金を得られたことで礼を言われますが、レカンはそれを知らないというスタンスを崩さず。事情を汲んで謝罪と礼を言えるエザン、好きだなぁ。

そのあと長男ガスコエルと、騎士オルガノが因縁つけてきた時にもレカンの対応を見て、しっかり彼の側についてガスコエルを𠮟責してくれたし、信頼できる。

 

この騒動の中でルビアナフェル姫がユフに嫁いだことや、ユフにある迷宮から得られる素材についてレカンが興味を持ったんですから、運命的というか。

6巻の幕間でユフ、大変なことになってましたからね……。

関所で足止めされかけたけれど、レカンはワズロフ家とのつながりや浄化使いのエダを伴っていること、迷宮制覇の実績を伝えることで突破して。

現地でも監視付きの中で情報収集と、救援に奔走するんだから有能です。まぁ情報はぽっちゃり由来なんですが、彼は彼で仕事人ですよね。

 

ルビアナフェル姫にとって頼れる相手として、祈り待ち続けたレカンなわけですが。

特殊な防壁を張った場所にも侵入できるし、必要な物資運べるし、迷宮に潜っている味方の戦力への応援を頼むことだってできる、現状でこれ以上のことは望めない応援だったのは奇跡的です。

恩寵品の問題もありましたしね……。レカン以外に解決はできず、そしてレカンは活躍しすぎた。それゆえ先んじて一人で帰ることになったわけですが。

この騒動の中でエダとこちらの世界に来てからの話などをして、もし黒穴が目の前に現れたらどうするのかと聞かれたレカンが、基本はこちらに残るし万一向こうに戻るとしてもエダと一緒だ、と離れる気はないと表明したのがとても良かったですね。

 

それはそれとして、一人で行動するときも変わらず冒険者レカンであるのが彼らしいというか。

白炎狼との激闘の果て見知らぬ土地にきて。未踏のダンジョンを見つけて、ソロで踏み込んでいっちゃうし。浅いダンジョンであったけど強敵がいて苦戦する羽目になってたので、婚前なんだからもうちょっと安全策取ろうよ、と思っちゃいますけど。

そこで退けるレカンでもないからなぁ……辛くも生還できてなによりでした。

Unnamed Memory4

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「俺に…お前を殺させるな」

「あれは私じゃありません」

「それでもだ」

 

「森の見る夢14」と「形に命を吹き込む13」を収録。

ティナーシャが魔女と周知されてからも、彼女はなんだかんだ変わらず城での日常を送っていたようです。

1P目の講義受けてる時の目が小さく描かれてるティナーシャ好き。布の展示会も1コマだけですけど大き目に取ってくれてたので良かった。ティナーシャが困惑してる傍らシルヴィアが生き生きしてて良い。奥にしっかりオスカー居るし。

 

そんなある日、塔の魔法具を点検するため数日ティナーシャが留守にすることになって。

その隙を縫って危ない地域に踏み込んでいくんだから、オスカーはちょっと反省してもらって……。

「なるべく守る キリッ」ってやってるシーンはおふざけ交じりですけど、その後陳情書をみて「なるべくな」って言うシーンでは目が真剣になってる切り替えをコミカライズの絵付きで見れたのは良かったですけど。

 

確かに調査は必要だったでしょうけど、王太子自ら危険地域に踏み込むんじゃないよ……。

ティナーシャにバレないように試みてた主に、「いっそばれちゃえ」と言えるラザルが面白い。

調査に行った先でヤバいものみつけてたし、派遣する人員は選ばないといけなかったでしょうけど。

問題を解決したと思ったら新たな魔女ルクレツィアと遭遇するんだから、もう……呪いをかけてきた魔女を含めれば、これで5人いる魔女のうち3人と出会ってるんですから引きが強い。

ティナーシャが子守歌を歌ってるところや、幻影の彼女が満面の笑みを浮かべるシーンとかは好きです。

 

ここでルクレツィアと縁が出来て、彼女がティナーシャを気にかけているから、呪いの解析のヒントが得られたりもするので、割と得はしてるんですけどティナーシャが頭を抱えるのも分からないではない。

その後にクスクルの使者が来て彼女の傷えぐってくるんだもんなぁ……必要なエピソードだけど辛い。だからってわけでもないでしょうが使者カガルが、登場した巻で速攻退場したのはちょっと胸がスッとしました。

不可逆怪異をあなたと 床辻奇譚

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「花乃が元の体に戻っても、別の怪奇に捕まるなんてことになったら後悔してもしきれないからな。知っちゃった以上放置して帰るとか個人的にナシだ」

(略)

「蒼汰くんは変わらないね。昔も言ってたよ。『見て見ぬふりして帰れない』って」

 

あまり事前の情報調べてなかったので、あらすじにある通り単に主人公の蒼汰君が通う学校で怪奇現象が起きて、それに巻き込まれた妹を救うために奮闘する話だと思ってたんですよ。

いや、本筋はそれで間違ってないんですけど。

 

私の認識と違っていたのは、蒼汰君達の住んでいる床辻という街がそういう怪奇現象のメッカというか、発生しやすい場所だったからこそ巻き込まれてしまったのかと思っていたんです。
あらすじ一行目が『床辻市に住むと、早死にする』でしたし。

でも、1章開始直後の12Pの段階で類似した神隠し現象は日本各地で発生しており、場所によっては街ごと消えてるとか書かれてて、想像より規模が大きくて驚かされました。

 

高校丸ごと1つ+アルファで済んだのは、規模としては小さい。

……だからと言って、家族が巻き込まれて「規模が小さくて良かった」なんて思えるはずがないんですよね。

怪奇を感じ取れる目や耳を持っていた蒼汰の妹、花乃。彼女は兄の危機を知らされ、駆けつけたところで事件に巻き込まれ……他の生徒たちは全身消失したのに対し、花乃は首だけが残された。

しかもその状態でも意識があり会話もできるし、口元に運んでもらえばお茶なども飲める。つまりは生きた生首、とでも言うべき状態になっていて。

 

彼女を助けるために市内の怪奇現象に敢えて踏み込んでいくようになった蒼汰が、後世一妃という少女と出会い、行動を共にするようになって。

今まで知らなかった床辻という街や、各地で起きている異変の裏事情について知っていく物語です。

いくつもの怪奇現象が出てくるんですけど、蒼太君は「驚くと怪奇側が喜ぶから」とほぼ無反応で乗り切れる神経の太いタイプな上、フィジカルで解決に乗り出せるタイプなので勢いがあって安心して読めましたね。

帯で「オカルトアクション」って書かれてるのも納得の展開だった。

 

怖くないかと言われれば怖いですけど、それはどちらかというと床辻という街には数多くの「禁忌」があって、うっかり破ってしまったとき怪奇に遭遇してしまうっていう事象への怖さだからなぁ……。

確かに床辻は、蒼汰が探し出したら何件も遭遇できるくらい怪奇が多い街であって、蒼汰達の叔父が「もう戻りたくないし、可能ならお前たちもそこを出ろ」と言ってくるのも納得する部分はありますが。

各地で神隠しが発生している状況を見ると、こう、その点での恐ろしさってどこに住んでてもイーブンじゃないですかね……って気持ちになるので。

 

一妃ちゃんは『迷い家』の主、という特殊な立場らしくて怪奇に挑む蒼汰に協力と助言をしてくれますが……。

特殊であるがゆえに異質な価値観を持っているのが、ゾッとするポイントではありましたけど。一妃ちゃんなりに蒼汰を大事に思っているのも間違ってないしなぁ。

蒼汰と花乃に一妃という3人の関係は現状は安定してますけど、微妙に見てる方向違ったりするから、こうもどかしい気持ちになるのは確かです。続き読みたいなぁ。

春夏秋冬代行者 暁の射手

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「花矢様。先程のお言葉ですが……おれも貴方が居てくれたら、それで良いんですよ」

 

既刊『春の舞』から『夏の舞』は、時系列的に直後の話でしたが。

この『暁の射手』では秋が巡り冬顕現が始まっている時期になっていたので、ちょっと驚きました。

夏と秋の間のエピソードで、次が出るとして秋主従の話をやるのかと思っていたので。

秋の舞が出るとしたらここから半年ほど経った、次の秋顕現の時期になるんですかね。……『春の舞』から一年以上たつわけですし、また族の活動が活発になりそうなのは気がかりです。いやまぁ、代行者があり続ける限り不満を持つ過激派も尽きないでしょうけど。

 

閑話休題。

大和の北端エニシにおいて、朝を齎す儀式を行う「暁の射手」。

当代を務める少女・花矢は毎日登山して神事を行うのと同時に、射手であることを秘匿して学校に通ったりもしていた。

これは歴代の射手が待遇改善を訴えて勝ち取った権利のようで、朝を齎す儀式を行う時間が黎明であることもあって、なかなか大変な生活なようです。

 

当人は学生生活をそれなりに楽しんでいるようで、大変だろうと続けてるとか。これは一つ所に留まれる射手たちならでは、ですねぇ。

これまでメインで登場してきた四季の代行者たちは「移動する現人神」だし、賊も狙っているから、こうして通学するって言うのは難しいでしょうし。

そして当たり前ですが四季には四季の悩みがあるし、射手には射手の悩みが存在して。

 

花矢は守り人として選んだ青年を、ずっと自分に縛り付けることになることに苦悩し続けていたようです。

守り人の弓弦はすべてを納得したうえで彼女の傍にいるのに、悩んでいる花矢が彼に「守り人を辞める選択肢だってあるだろう」という主旨のことを言い続けるのがおもしろくはなかったりして。

親しいけれど、互いに踏み込み切れない。そんなもどかしい状態だったのが、少しずつ変化していって、良い方向に進もうとしたところで事件が起きるんですからたまりませんね……。

 

動揺した花矢は、黄昏の射手・輝矢にあるお願いをして。

そこから秋主従や冬主従も関わってくることになるわけですが……話を聞いてからの四季の代行者の動き出しが早いこと早いこと。

今代の代行者たちの縁がどんどんと繋がっていくのがいいですよねぇ。

『夏の舞』の時には、エニシにある神社を頼ってそこから伝えてもらう、みたいな遠回しな伝言を頼むしかなかったのに。あそこで接点が出来て、輝矢から竜胆へ直通で連絡出来たりするんですから。

 

代行者たちの協力プレーでウルトラCを通すの、読者目線だと盛り上がって嬉しいですけど、管理する側の四季庁に本山は悩ましいだろうなぁというのも、ある程度分かる。

とは言えこれまで出てきた上層部に暗躍してる人が多すぎて、印象良くないからなぁ。現場には代行者たちの味方してくれる人もいるので、丁度いいバランスで落ち着けば良いですけど、どうなりますかねぇ。

ひとまず今回の騒動に関しては決着を迎えましたし、暁主従が健やかであることをあの世界の神に祈るとします。

 

今回もメロンブックスで特典SS付のものを購入しました。

事件に関与してなかった春主従の様子を描く「春隣」、本編後の黄昏の射手陣営を描く「籠鳥恋雲」に同じく本編後の夏主従の話「芝蘭の友」の3本収録。

しっかり護衛官してる雷鳥が見られた「芝蘭の友」が結構好きですね。「冷遇に慣れないで」とハッキリ言ってくれる彼が夏の双子の傍にいてくれるのは、結構な救いだと思う。

Unnamed Memory after the endⅡ

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「ああ。だからお前のことも否定しない」

(略)

「だが王とは……民を守る精神そのものだ」

 
皆さん帯を見ましたか、帯を!! 驚きのアニメ化決定ですってよ!! 
しかも2023年公開予定とか楽しみすぎる。生きる喜びが増えました。

Unnamed Memory』の後日譚、第2編。

逸脱し、外部者の呪具を探し続けている彼らですが……なかなかその成果は上がらず。

序盤も「まぁまず違うだろうな」と思いつつ調査に行って、やっぱり違ったけど別の問題発生したりして。必要以上の干渉は避けようとしつつも、ほどほどの着地点を模索したりしてるのは真面目だぁと思います。

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忘却聖女3

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「何だ……俺達が叩きつけてきた願いは、きちんと形になっていたんじゃないか。……ざまあみろ、ざまあみろマリヴェル。非力な赤子のような扱いを受けてきた俺達の願いが、神の定めた定義をねじ曲げた」

 

もう口絵のマリヴェルからして、いろいろとヤバい。

かなり限界が近いことが見てわかるのが……とても辛いんですよね……。

「十一聖 物」からスタート。スラム時代のマリヴェルのあり方が描かれるわけですが……いやぁ、歪んでるわ。

厳しい環境ゆえに他者を下に見て、自分たちの惨めさを認めない風潮がスラムにはあるようですが。それ以上に、マリヴェルの自身が物だという認識が強すぎる。

 

神殿で生活して諭され続けてきた今も、自分の優先順位低いとは思っていましたが、原点がコレであることを思うと、だいぶ人間味増してますよね。神官たちの努力が伺われる。

書下ろしパートでも描かれてましたが、国政の失策で生まれたスラムを、かつて救おうとした聖女もいたようですが失敗。先代聖女は成功の公算が低いと放置して……。

聖女の認知があったころのマリヴェルは、いつかそこにも手を入れたいと王子と話し合っていたとか。

本当に。突拍子もない言動とかもするし、常識外れではありますが、聖女であろうとする彼女の姿勢は本当に好きです。

 

神殿の医務室でマリヴェルが覚醒した時には2日ほどたっていたようですが。いまだにエーレもベッドの住人で……ここで「当代聖女陣営、壊滅です!」とか思っちゃうあたりノリが軽い。

本園後半部分でも緊迫してる状況で、「こってりどろ~り濃厚呪詛新発売って感じです」「最低最悪な商品に許可を出した部署を叩き潰せ」とかいうやり取りするし。マリヴェルとエーレの会話、好きなんですよねぇ。

 

事ここに至っては協調した方がいいとマリヴェルが判断したこともあって、神官長達との情報共有が行われることになったわけですが。

マリヴェルへの信頼が培われたわけではないので、微妙な距離感ではあるんですよねぇ。他者を交えたことでマリヴェルとエーレの抱いた「忘却」について深堀りする余裕ができたのは良かったですけど……それこそが、致命的というか。

国全体に及んだ忘却はどうしても粗い部分がある中で、異常を認識しづらいマリヴェルとエーレの忘却は性質が異なった。違う忘却がかけられていた理由が、あまりにも切ない。

 

真相に迫れば迫るほど、マリヴェルの限界も近づき……聖女を大切にしているエーレの慟哭も深くなっていくのが、こちらにも刺さって痛いんですよね……。

どうやってそれを為したかはさておき、エイネ・ロイアーの傲慢な行いの一端や、神々の動向なんかも知ることができたのは良かったと言えますが。じゃあその問題をどう解決していくかっていう取っ掛かりはまだ足りないのが悩ましい。

……でも、エーレがマリヴェルの忘却を思い出させて心残りを作ったり、涙を流すこともあったエーレが笑って彼女の錘となってくれたのは、胸が暖かくなりました。

彼が本編最後に見つけた役目をはたしてくれる時を待ちたい。

 

で、今回半分くらい書下ろしなんですよね。『外伝・忘却神殿Ⅲ』が驚きの厚さで笑った。いや電子で読んでるんですが、この時点でページ数50%とかでしたからね。

マリヴェルが神殿で過ごしていた穏やかな時期の話。ボリュームたっぷり作ってくる料理長によって、エーレがグロッキーになってるのとか笑ってしまった。

聖女と王子の関係はそこそこ良好でも、神殿と王城の間には先代聖女の作った溝があって、どうしたって問題が生じる時もあるみたいですけど。それでも未来を見据えてるマリヴェル達が好きです。

 

神殿の業務として聖女が神殿を出ることが、年に数度あるそうで。今回はそれの話。当然ほかの神官と一緒なんですけど、マリヴェルと神官たちの距離感がとても良いからなぁ。

過去編大好きなんですけど、いまそれが失われてるのを定期的に思い出すので痛くもある。

一般的な人が思う神官らしさも聖女らしさからも遠いマリヴェルですけど、信仰心とかは本物で……だからエーレが胃を痛めるんだな。「任務に出る度~」って文句言われるのも納得。

月の白さを知りてまどろむ

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「ならよかった。まだあなたの役にも、あなたが大事にするこの街の役にも立っていないからな」

(略)

「充分よくしてもらってる。だから……きっとここに帰ってきてくださいね」

 

WEBで大好きだった作品の書籍化!! WEBでいう第二譚まで収録されていますよー。

もう楽しみで楽しみでならなかったんですが、その期待に応えてくれる最高の1冊でしたね。

これ単体で読み始められる異世界ファンタジーであり、帯に在る通りの異類婚姻譚でもあります。1巻だとまだ出会ったばかりではあるんですけど、この時期のもどかしい距離感もやっぱりいいなぁ。

WEB既読でしたが加筆修正入ってて初見のエピソードがあったし、表現も分かりやすくなっていたので、とても楽しかったです。

 

古の時代に世界を救った神は、対価として人に「酒」と「音楽」と「人肌」を求めた。

享楽街アイリーデという、その伝統を今なお継承し続けている場所に王都から主人公のシシュがやってきた事で物語が動き始めます。

この世界では人の集まるところにどこからともなく生じる「化生」という赤い目の怪物が存在して……。

シシュはそれを見ることが出来る素質があったため、アイリーデで欠員が出た「化生斬り」の応援として派遣されることになります。

 

そして彼は化生斬りの同僚となるトーマから、神話正統の妓館「月白」の主でありこの街でただ一人「巫」と呼ばれる異能持ちの少女サァリを紹介されます。

化生斬りの仕事を手伝う一方で、彼女自身もまた娼妓としての顔を持つわけですが。

神話に由来する「月白」は女の方が客を選ぶ、という伝統がある店であること。月白の主である彼女が選ぶ客は生涯でただ一人であること、などなど。

歴史が長い分、不文律なども多く……シシュは王都とは何もかも違うこの街に馴染もうと奮闘していくわけですが。

 

タイミング悪くというか、良くというか。アイリーデで化生関連の騒動が増え始めて……。

この街が「神話の伝統を継いでいる」という事の重みと向き合っていくことになります。

堅物で真面目なシシュと、月白を継いだばかりで頑張ろうとしてるサァリのやり取りが本当に微笑ましくて良かったです。

第二譚だとサァリの持つ別の顔を見る事が出来たり、シシュが珍しく感情を見せてくれるのも良き。
この国の王が策を巡らせる描写も見られるんですが……秘密主義で目をかけてるシシュをからかってくるのはちょっと苦手ではあります。いいキャラしてるんですけどね。
だからシシュが感情的になったシーンは、やっぱり多少はそういう気持ちにもなるよね! って思いながら読んでました。333Pあたり。
まぁシシュ王への忠義は厚いんですけど。100%肯定するのではなく、思う所があるのは人間味あっていいなぁと思うのですよ。

 

紙版初版だと帯にQRコードがついていたり、アニメイトとかで買うとシリアルコードが貰えて、挿絵の在る部分にボイスつけた「挿ボイス」が聞ける特典があるんですよ。

それで聞くとシシュが格好いいし、サァリが本当に可愛くて可愛くて仕方がない。アンメモみたいにオーディオ化してくれないかな……。
是非2巻以降も出て欲しいものです。コミカライズも決定してるので、続刊でないなんてことはそうそうないと思いますが。


プロフィール

ちゃか

 ライトノベルやコミックを中心に、読んだ作品の感想を気儘に書き綴るブログです。
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