気ままに読書漬け

とりあえず気が向いた時に読んだ本の感想などを上げてます。ラノベメインに、コミック、TRPGなど各種。推しを推すのは趣味です。 新刊・既刊問わず記事を書いてるので、結構混沌しているような。積読に埋もれている間に新刊じゃなくなっているんですよね。不思議。ま、そんなノリでやっているブログですが、よろしく。 BOOK☆WALKERコインアフィリエイトプログラムに参加しております。

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フシノカミ7

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わたしには、進むべき道が見えている。容易に踏破できるものではない。照らす光は弱く、道は細く、断崖絶壁に挟まれている。それでも――

「不可能ではありません。これは、夢物語に聞こえようとも、実現可能な夢です。そのために力を合わせることさえできれば、必ずや」

 

シリーズ完結巻となる第7巻。

今回はまたいつにもまして編纂版ならではのエピソードである、他者視点が多かった印象。

ちなみに原典であるWEB版には、断章として本編読了した読者なら楽しめる短めのエピソードが掲載されてますので、そちらもお楽しみくださいな。

 

開いて最初に飛び込んでくるのが【横顔 アリシアの角度】。

6巻最後、アッシュ視点だと不死鳥要塞で人狼の群れを蹴散らした上、気になる情報がたたきつけられたばかりだったんですが。

そもそもの問題としてサキュラの隣人であるところのヤソガが、舐めた態度を取っているから非難しに行ったんですよね。

 

ただサキュラは近年アッシュの影響で発展し、辺境同盟と言う味方も増えつつあるけれどあくまで国の一地方でしかないんですよね。

なので王都に滞在している当代辺境伯のゲントウ閣下は、アリシアの助力を借りつつ「これこれこういった理由でヤソガと喧嘩するけど、悪いのはあちらだ」と言う根回しをしていたそうです。

それをしていないと中央からまた嘴突っ込まれかねないから、ってことでしたが。ゲントウ閣下が立派に貴族としての仕事をはたしているのを見る度に、王家の株が下がっていきますねぇ。

 

これ以降もアリシア視点で、最前線で戦うアッシュをどうにかサポートしようと奮闘するエピソードが描かれていくわけなんですけども。王子も、国王も本当にどうしようもないなって感想になりましたからね……。

ヤソガ子爵領はトップが消えたこともあってこのままでは荒れ果てる。一領地の住人を野盗とするくらいなら、保護していこうと戦おうとするアッシュと、そんな彼を見てきたからこそサポートするために走り出した推進室メンバーの成長が本当に頼もしかった。

前代未聞の事態だというのに、対策の素案が出来ていてイツキも唖然としてましたからね……。

アッシュと言う灯火に導かれて、多くの人員が強くなったサキュラだったからこそ迎え撃つことが出来た困難に対して、中央のグダグダっぷりはあまりにもひどかった。

事件が落ち着く気配を見せた所で火に油注いで来たりしましたしね。なんだあの模型は……。

 

個人的にはアッシュから妙な連絡が来た、と聞いた推進室のメンバーがその内容を聞いて同じ顔で首を傾げたシーンが好きですね。

それらを計上した結果としてアッシュが願いを叶えたのは、WEB既読勢だったので知っていたわけですけど。いざ計上してみたら、予想以上の価値が付けられててまだまだ甘かったなと反省しました。

とある編纂者のあとがきも、楽しかったですね。ちょっとボリューム多め

 

コミカライズの方はますます好調ですし、ここで編纂版は綴じられることとなるわけですけど。きっといつまでも読み返していくんだろうなぁ、という確信がある。

とても素敵な物語を読ませてもらいました。満足。



Unnamed Memory3

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「貴方が私の契約者で 私が貴方の守護者である限り」

「私はどこへ行っても何をしてても 必ず貴方のところに戻ります」

 

ついに発売された『Unnamed Memory』コミカライズ第3弾!

今回は魔法湖でのエピソード「湖の畔」37と、第16話「馬鹿王」を収録。

結界を維持しつつ剣を振るい、他の援護をする余裕まであるティナーシャ本当に強いんだなぁとしみじみ。

でも本領はやっぱり魔法なんですよねぇ。オスカー帰還後の一掃が、見開きで派手にやってくれてカッコよかった。

 

今回も要所で可愛いんですよね、ティナーシャ。

「逃げられた」って舌出してるコマとか、余計な事言われて「あの魔法士…」ってなってるコマのかまぼこみたいな目とか好き。

「どんだけフサフサなんだ」の疲れたような顔とかも良いし、あとはやっぱり15話で目覚めたシーン、これまでも可愛かったり綺麗だったりしたんですけど、なんかより美人になった感じがしていいですよね。

 

オスカーが叩きだされた場面を見てたシルヴィアが目を細めて、頭に手を置いてるコマもなんか可愛くて好き。好きなコマしかないな……。

15話はあくびしてたり、ぺって魔石をオスカーにあげたり、その後ティナーシャのとこへ飛んでいって喉をなでられてたりするナークが可愛いシーンも多かった。

 

後はオスカーが魔女との距離を感じて「ただ届かないということだけがわかるだけだ」のコマも良いですよねぇ。ティナーシャが塔の螺旋階段の上に居て、オスカーは下から見上げている。

そしてティナーシャの座ってる部分は断絶を現すように、周囲が崩れているし……第15話でも描かれてましたが、彼女より上の場所には「彼女を通り過ぎていったかつての契約者達」の影があるんですよ!!

青き月の魔女としての彼女を現すのに、必要十分条件を満たしててあまりにもエモい。オマケに15話では、12話時点で下に居たオスカーがティナーシャの元までたどり着いてるっていうのもまたいいなぁ。味わい深い。


FORTHシリーズ 連射王<下>

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「――大事だから、失いたくなかったんだ」

 

プレイしていた大連射をついにクリアできた高村。

それには確かな喜びがあったが、終わってしまったという喪失感も伴っていて。そこに先人の竹さんから「ここで降りるかどうか」なんて問いかけまで加わって。

目標を達成できたけれど、まだまだ人生は続くわけで。彼の悩みは尽きない模様。

岩田とすれ違い、彼女の隠していた事も目撃してしまい、踏み込むのかどうか。自分の秘密も打ち明けるのかどうか、と言う問題の答えも出てませんしねぇ。

 

まぁ竹さんの方も、ファーストプレイワンコインクリアという目標を掲げて、近く発売する「大連射2」に挑むことを決めていたようですが……その矢先、制作会社の倒産が決まったことをしって。

硬派なシューティングゲームを作る会社は減っている中、竹さんにとっても思い入れのあるタイトルを作って居た会社の終わり。それを見送り、同社最後のアーケードになる「大連射2」に挑む心情はいかほどだったろうか。

 

アーケードのゲームなんて、形に残らないものの極致でどこか歪んでる。けれど「歪むんだったら、とことん歪んで無駄なことを極めるのも、粋というものですよ」という竹さんの事、好きだなぁ。

長いこと彼の隣にいる麻美が高村に語ってくれた過去を思うに、竹さんもまたかなり不器用度高いですけど。そういうキャラわりとツボです。

でもズルいですよね。色々教えてくれて、でも最後は見せてくれないんだから。だから、高村も逃げられなくなったんですよ。割と既に沼にハマってたけど。

 

ショックを受けて、ゲーセンに居た事が学校にもバレて。2週間の停学措置を喰らって。でも親が責めずに「学校に行くまでにその理由を説明しなさい」と猶予を与えてくれる人であったのは良かった。

あとは、停学中にも電話かけてきた友人の仲君も愉快でしたね。野球に対して本気で、高村が違いを感じていた少年。

そんな仲君が伝えてきたのが「女にフラれた」なんだから笑えると言いますか。気落ちしてた高村が、浮上するきっかけになってくれた感じがして良い。

ふざけた話だけじゃなくて、『ゲーセンだろうと、同じ本気だ』と認めてくれたのも。

 

そこから本気でゲームに向き合い、残された課題を倒そうと本気を出すことにして。

こじれてしまった岩田との関係も、誤魔化そうと嘘を重ねた事を謝って、自分の本心をしっかりと伝えて行って。

もう彼は本気を出せるか迷っていた少年じゃないんだなぁ、とちょっと感慨深くなりましたね。

忘却聖女2

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「私は誰ですか!」

(略)

「あなたは私を忘れないと誓った! ならばあなたはっ……あなた、だけは。この問いに答えを提示し続けなければならない。そう、言ったでしょう? 私に、そう言いました。だから、エーレ」

 

謎の術によって顔を焼かれ、さらには元自室であるところの聖女の部屋に転移させられたマリヴェル。

同様に転移してきた男たちに襲われかけたりもしましたが、助けを呼んで上手い事回避して。戦闘能力こそないですけど、立場が悪かった聖女として暗殺者に狙われまくった経験からか、かなりタフで強かですよねぇ。

トラブルが起きても、優先順位を決めて動けるし。でも、冷静に対処できることは怒ってないのと同義ではないんですよね。

 

自分の身が汚されたかもしれないことより、その出来事が自らの庇護者だった神官長の汚点になって追及されてしまう可能性に怒るマリヴェルは、本当に周囲の人々を大切にしていたんだな、と言うのが伝わってきます。

……こういう描写を見る度に、今はそほとんどから忘れ去られてしまった彼女の寂しさを思わずにはいられないんですけどね……。

 

マリヴェルの隣に居るエーレが、マリヴェルが自分を大事にしなかったり間違った方向に行こうとしてたりすると、逐一指摘してくれるので、なんだかんだ良いコンビではあるんですけど。

忘却された状態でもなおマリヴェルは変わらず気ままで、記憶があったころの神官たちはよく振り回されていたんだろうなぁと言うのも分かってその心労を労いたくもなりました。

1巻でもそうでしたけど警備されているはずなのに、察知されずに抜け出したり王族居住区に潜入したりと、野生動物もびっくりな特技持ってる聖女って何……。

 

彼女の性格以外にも、先代聖女の行いがあったために当代の神殿はかなり苦労しているというのは語られていましたが。

マッチポンプにもほどがあるというか。この国はいまこんな問題を抱えてますよね! って国民を煽って、「私が指摘したからようやく対応した」と自らの功績にする、なんてことをやっていたそうで。

本当はその問題を王城も認識していて、手間と時間をかけて対処したというのに。……そんなこと繰り返したんだったら、そりゃあ神殿と王城の間も険悪になるわ。

 

先代聖女エイネの振る舞いを見ていると、マリヴェルの方がよっぽど聖女として相応しいと思いますけどねぇ。……定期的に脱走したりしてるし、問題がないとは言いませんけど。

先代の側近で会った前神官長を確保して、情報を引き出したりもしましたが……まだまだ全容解明には遠いというか。道のりは厳しいですねぇ。

 

マリヴェルの中には、「当代聖女を忘れる」のとは違う形の忘却があることも明らかになって。異質な存在の関与があることもハッキリしましたが。謎が増えていくばっかりで、どうにももどかしいですな。

でもこの先に望む事だけはハッキリしていて、どうかこの心優しい少女の記憶を人々が取り戻して、ハッピーエンドに辿り着いてほしいなと思っています。

 

エーレが終盤に言った「私の報告などより聞かなければならない言葉がある」とか、本当に刺さるんですよね……。

そこからの巻末書き下ろし「忘却神殿Ⅱ」。保護されたばかりのマリヴェルが、神官長の肩に座って本を読んでる微笑ましい場面から始まるんですが……。この当時の彼女は、今以上に自分に価値を見出してなくて、痛々しい。神官長が届かぬ言葉に無力感を覚えたのも無理はない。

エーレとマリヴェルの交流が間に挟まり、マリヴェルが意識を失った本編後、神官たちとエーレが話すシーンが入ってたのは嬉しかったですねー。結びの言葉がこれもまた痛い。

忘却聖女

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たとえあなたが私の願いを叶えてはくれなくても、誰かの祈りが通じた事実があるのなら、祈りという概念が捨て去られていないのならば、人は夢を見ていけるのだ。

(略)

私はそう思っている。そして神様は、そんな私を聖女に選んだ。

ならば、私の神はそういう存在なのだ。

 

アデウス国の象徴であり、神の代弁者とも言われる聖女。

その十三代目を務めていたマリヴェルは、しかしある日周囲の人々の記憶から消え去ってしまった。

誰も知らないうちに神殿の奥部へ侵入した不審者として囚われ、外に追い出された彼女はスラムに流れ着き、しばらくはそこで逞しく暮らします。

 

それもそのはず、マリヴェルは元々スラム出身の名も無き少女で、現在の神官長に保護され聖女になったという経緯があって。

スラムでいい感じに薄汚れた住人と同化しつつあったある日。なぜか彼女の事を忘れていない唯一の神官、エーレと出会います。

彼はマリヴェルの記憶が人々から消え去った時、出張に出ていた関係で追放される場面に居合わせなかったんですね……。

 

マリヴェルの認識において「知り合い以上、友達未満」の相手であるようですが……彼には聖女についての記憶があり、神官としての責務を果たせる相手であった。

エーレがマリヴェルに向ける態度には確かな敬意と――本人たちは認めたがらないでしょうけど親愛があった。

 

本当はそれを、彼女を追いだした人々も向けてくれていたんだと思うと心が痛む。

本人が割とケロッとしてるように見えたから、誤解しがちですけど。彼女にとって神殿は、傍にいる神官たちは、家族のような相手で。

そんな人々からの記憶がなくなってしまって、辛くない筈がないんですよね。一人だけでも記憶が残っていて本当に良かった。

 

……いやまぁ、当人のノリが軽いのも確かなんですけどね。勉強などから逃げすことも多くて、神官たちの追跡・捕縛の技術は向上したようですし。お仕置き用の「こめかみ掘削拳」が神官長からエーレに直伝されてる辺りとか、ほかにも皆伝貰ってる神官がいるくだりは笑えます。

 

スラム出身であることや先代の聖女が偉大だったために、彼女には敵が多かった。今回の忘却も、そうした敵の打ってきた手だと思われた。

神殿のみならずアデウス国中から聖女の記憶を消し去ってしまう、なんて常識はずれの術を使える存在がいるか、と言われると心当たりがさっぱりない状態で。そんな相手に後手に回ってる状態を思うと中々に頭が痛いですが。

 

象徴としての聖女が不在の状況はよくない、と選定の儀式が行われることになって。

マリヴェルはかつて突破したその儀式に乗り込みます。そこでも敵の手と思われる妨害工作に遭遇したりしますが、折れずに進み続ける彼女の在り方はとても尊い。

特に、第三試験の場面が良いですよね。彼女は確かに言動が軽く、聖女という立場を何だと思ってるのかって、他の受験者に云われてしまう程です。

 

でも、彼女の心は間違いなく聖女に向いてると思うんですよ。彼女はスラム出身と言う事もあって、自分の価値を見出していない。汚れているとすら思っている。

でも気高く美しく優しい神官長のような人に憧れて、自分がそうなれるとは思わないけど側にいられるだけの真っ当な人間に近づきたいと思う気持ちはある。

だから、神官長が侮辱されるような事に対しては怒りを示し、謝罪を要求する。どこまでも人間らしい彼女が本当に好き。

 

巻末には描き下ろしの『忘却神殿』が収録。

エーレ視点で、メインは彼がまだ十三歳だったころを描く過去編ですね。

マリヴェルが聖女になってから三年ほど経過した辺りだそうで。脱走した彼女と出くわしたり、聖女を狙った拙い謀略を見たり。

今よりも自分の価値を認めてなかったマリヴェルの姿や、彼女と距離が近い神官たちの姿が描かれていて、本編との違い過ぎる距離感に心が痛くなる短編でしたが読めて良かった。取り戻せるといいなぁ……。

リビルドワールドⅥ 望みの果て

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「随分と義理堅いのですね」

「金も力もねえスラム街のガキが出せるものなんか、義理と命くらいだ」

「他に出せるものが無いからといって、それを差し出す者ばかりではありませんよ。投げ出す者は幾らでもいますが」

 

アキラの装備更新費用として、都市幹部のイナベが遺物の情報を口外しないという取引を込で20億オーラムも出してくれることに。

それは彼が口にした通り不安の現れであり、シェリルへの減点ポイントだったんでしょうけど。その後でシェリルは、ヴィオラとのやり取りを経て自分の軸を改めて見直し、次の機会にはイナベに「油断できない相手となった」と思わせたのはお見事。

 

まぁ同時に、裏工作の協力者だからこれくらいはしてもらわないとも思っているので、ここで気を抜くとまた減点入って、最後には切られかねないのが権力者を相手にしてる時の怖い所ですが。

自分が一蓮托生にする相手はアキラだ、というシェリル自身の覚悟を忘れなければ、これからも頑張ってほしいものです。

 

後ろ盾になっている組織運営はシェリルに。各種交渉に関してはその都度縁があった人……結構な割合で、無理無茶無謀好きのキバヤシに投げているので、アキラってかなり腹芸苦手なんですよね。

でも、これまで覚悟を担当して闘い抜いて来たのは伊達じゃなくて、時間をかければ読み解ける部分も増えるっていうのが見られたのは、成長を感じられて良かった。

今回アキラは、あらぬ疑いをかけられてそれを払しょくする必要が出てきた訳ですが。その言いがかりの中心に居たのが「いずれ殺そうと思っていた相手」だった為、それなりに乗り気で戦闘に参加。

 

言いがかりを付けられる切っ掛けになったのは、ツバキハラ方面で旧世界製の情報端末を持って帰っていたからって言うのにも気が付いていましたし。

通信障害によりアルファとの接続が切れたタイミングで接触してきたツバキ相手に、隠し事苦手だからアルファについての情報は聞かないし、契約を打ち切るつもりもないって啖呵を切ったシーンは結構好きです。

アルファが自分の信用を勝ち取るために工作してるのにも気が付いてるけど、命の借りがあると覚悟決めてるのは良かったですよね。

 

あと今回地味に好きなポイントは、遺跡探索中に警備機械が124と増えていったから次は8体かと思いきや16体きて「機械なんだからそこは機械的に対処しろ!」ってアキラが叫んだシーン。妙にツボに入ったというか、やたら笑えた。

ヤナギサワとネルゴの、旧領域接続者トークとかも好きなんですよね。ああいう情報開示回って楽しくないですか?

 

ティオル周りの騒動にも、概ね決着をつけることには成功しましたが……その情報を得てるマッドな研究者がいるのが後々どう影響するのかはちょっと不安か。

まぁティオルはかなり状況を動かしたけれど、彼自身も誰かの思惑で動かされてばっかりだったわけで、順当な結末だった気はします。

 

それよりも今回触れなくてはならないのは、ついに互いに引けない状況でぶつかり合う事になったアキラとカツヤでしょう。

口絵でも描かれていますし、今回のタイトルもまた『望みの果て』で区切りとなるエピソードなのは分かっていました。

WEB既読ではあるものの書籍は結構イベントの流れとかが変わっていて、此処に至るまでアキラとユミナの交流シーンも増えたこともあり、果たしてどんな幕引きになるのかワクワクしてたんですが……そうか、ああなってしまうのか。

 

これは、なるほど『望みの果て』だわ。これまで感じていた苛立ち任せではなく、お互いに退けないと理解して、終わらせるために戦ったシーンはとても静かで、胸に迫るものがあった。

それでも最後に、アキラが泣けたのは良かったかなぁ……。シズカさんグッジョブでした。

 

新章となる7巻が今年発売予定と巻末広告あったのは嬉しかったですね。WEBとは決定的に違う道に入ったこれからの物語が楽しみなのは間違いないので。

でも、流石に書き下ろしが多くなるからか、これまでとは違ってサブタイトルとかアオリ文は少な目だったので、続報を待ちたい。

フシノカミ~辺境から始める文明再生記~6

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「皆さん、頼もしくなりましたね」

(略)

「うん。アッシュが、眩しいくらいの光を灯して引っ張ってくれたからね。ここまで行けるよって、あそこまで行こうよって。皆を、アッシュが連れて来たんだよ」

 

ついにアッシュの婚約者という、臨んだ地位を掴んだマイカ。

サキュラ辺境伯領においてはアッシュの齎した影響は大きく、それもあって婚約披露のパレードは盛大に開かれ多くの人に歓迎された模様。

 

マイカが綺麗に育った分、その関係を憎たらしく思う人なんかも居たようです。実際、アッシュが農民の出と言う事を弱みとして突こうとする外野が多いため、正式な結婚が先送りになったりもしてますし。

……アッシュやマイカを敵に回すような事、良く出来るなぁ。彼らの影響を受けて、サキュラ辺境伯自体が底上げされてますし。恐い恐い。

 

編纂版の描き下ろしである他視点、今回はヘルメスのものとセイレ嬢のものが多かったですね。

アッシュ達の婚約パレード終了後の、軍子会同期達の会話ですが……順調に外堀埋められてて笑った。レイナも綺麗に育ちましたよねぇ。家族への挨拶を済ませてるし、表情を見れば言葉もなしに意思疎通できるくらいに通じ合ってるとか、もう……。

それでも自分が夢に向かいまくってしまう厄介さも自覚していて、それだけに最後の一線を超えることが出来ずにいたようで。

一度マイカの告白を断ったアッシュもそうですけど、この夢へ一目散に向かう男どもは面倒臭いですねぇ……。そんなところも含めて、女性陣は好きになったみたいですけどね

 

一年の準備期間を経て、留学生の受け入れ準備も整って。

第二領主館として扱われる建物について、編纂版では割とさらっと描かれてましたが、原典の方だと困惑するアッシュが見られるのでそちらもオススメですよー。「破滅の炎6」の中盤ですね。

スクナ子爵領のセイレ嬢も留学生としてやってきた訳ですが。彼女視点で、アッシュが根回ししてたスラムの顔役だとか、かつてアッシュが行った不正役人への対応とかの情報量が増えて読んでて楽しかったです。

 

情報収集に力を入れている領地の令嬢らしく、彼女自身もまた有能なんですよね。そんな彼女ですが、アッシュの熱にあてられた一人で……。アプローチもしてますが、どうなるんでしょうね。結構好きなキャラなので幸せになってほしいとは思ってるんですが。

アッシュの攻略難易度は高いしなぁ。原典でも彼女の相手についてはハッキリしてなかったと思うので、こうやった内心を描いてる以上編纂版で回答が得られると嬉しさが増しますねー。
6巻は問題提起回というか、一つ大きな騒動が起きる話でもあって。WEBの次の章が最終章、事後処理や伏線回収をすませる部分なので、7巻……出ますよね?
セイレ嬢はアッシュを落とせなかった場合でも、他の有力候補を探そうと思ってる節もありますし、今回名前が出たサイアスとかはいいキャラしてると思いましたけど、さて。

 

クイドさんが、かなり良いサポーターになってくれてて頼もしいですねぇ。最初の出会いこそ、小銭を狙う行商人でしかなかったのに。

「どんな客でも下に見ちゃいけない」とアッシュに教えられて、そこから変わることが出来たのは良かったですよね。あとがきでも会頭としての台詞がありましたが、いや成長著しいな。

WEBでは今、不定期に断章としていくつかのエピソードが更新されているのですが、最新の断章がクイド視点のエピソードで14まで描かれてるので、オススメです。

特に4の最後の方の描写とあとがき部分で描かれた台詞の両方がとてもかみ合ってて好き。

フシノカミ~辺境から始める文明再生記~2

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ならば考えていただきたい

この強欲な夢追い人が 転ばずに走り続けられる方法を――

 

5話~第9話までを収録。発売直後の今だと、9話はWEB先読み枠なので、本を買うと実質先読み! 嬉しい!

まぁ読者の喜びに反して、5話は採取に出かけたアッシュが行方不明になったっていう驚愕の情報を聞いて固まるマイカちゃんの扉絵から始まるんですが。

慌てて村長夫人である母親のユイカに報告に行くマイカちゃんの困惑っぷりと、泣くのは帰って来てからにしなと励ますフォルケの図が結構好きです。

 

これで当の本人はケロッと帰ってくるんだからそりゃあ文句のひとつやふたつ言ってやりたくなるってものでしょう。

編纂版だとアッシュ視点に加えて、他キャラ視点を挟むことで情報量を増やしていたんですが、コミカライズに当たっては上手く統合してキャラの魅力引き出してるんですよねぇ。

たとえば、帰還したアッシュに最初に駆けつけるのって、WEB・編纂版だとマイカとジェバなんですけど、コミカライズだとジェバ・ダビドの両親なんですよね。

 

ダビド、コミカライズ1巻でもアッシュ君にコロコロされかけてたり、勉強しまくる息子をどう扱っていいか迷ってる部分はありますけど、ちゃんと心配する親心も持ってるんですよね。それをしっかり描いてくれてるのが良かった。

ちなみに、WEB版フシノカミには断章って章があって、そこにある『伝説前夜』は母ジェバ視点、『見送る背中』は父ダビド視点での情報で解像度上がるのでオススメですよー。

ただ、今コミカライズしてる1章『灰の庭』完結時点の情報が混じってるので、コミカライズ派の人は読むタイミングに注意が必要です。

 

アロエを確保して傷薬を使ったら、手が綺麗になったため女性陣が飛びついて。

実験の協力者になったことでアッシュ君に手を握られて、観察されて手れまくってるマイカちゃんが可愛くて好き。

その後、アッシュのしたことが凄いことだけどトラブルの原因になりかねない、と話を通してくれたユイカ夫人は素晴らしい。正装してるアッシュ・マイカもかなり良いですよね。

アッシュ君の影響がどんどん広がって恩恵を被る人も増えてますが、同年代の少年たちにはそれを良く思わない子もいて。中々難しいですねぇ。

今はまだ「幼馴染の妹」ですけど。4 四度目の流れ星の日が来るからね

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「でも、ああ……わかったよ。それが小織の望みなら、僕が断れるはずがない」

「……そうするべきだから?」

「いや。――僕自身が、そうしたいと思っているからだ」

 

正直でないかもと思っていたところ、作者さんが頑張ってくださり読むことが出来た4巻。

完結巻と言っていいでしょう。正直なところ謎は多く残されていて、どこまで回答が示されるものかと思っていましたが……思っていた以上に情報が出てきて正直驚きました。

事前の告知でも後書きでも謳っていた「解決編」に偽りはありませんでしたね。……途中なんか地の文で主人公がついにラブコメ否定してたような気もするけど、きっと勘違いです。いや実際、割とラブコメしてた感もするけど、どうなんだろう……。

 

冒頭は3巻エピローグのしばらく後、最悪の許しを得た伊織君は流石に呆然自失としていたみたいです。

……そんな伊織くんをほっぽってナナさんは帰ったみたいですね! 最悪だよあの人! 本当にただ散歩中に面白いものみたから声かけただけで、その後には責任を負いませんってか!?

傷付いて自分でも心が折れたと言ってる彼の前に、陽星を登場させて「名前、訊いてもいいですか?」とか言わせるのも鬼だとは思いましたけども。

 

そして伊織と陽星が出会ってしまった時、空が輝き……2人は気がついたら7年前の77日に来ていた。

不可思議な事態に巻き込まれたので改めて自己紹介して、星の涙の効果範囲内にいたからか、陽星は日付が変わっても伊織を忘れることが無かった。

そして2人は現代に帰る為に協力する事になって。謎の女性の助力で、宿泊場所を確保できたのは良かった。

 

「おふとんはひとつしかないのです?」「そういう話はしてないのです」とか。「世界の質量を増やしている……!?」とかテンポのいいやりとりが多くて、やっぱり涼暮先生の文章好きだなぁとは思いました。こころ語の独特さも好きですよ。癖になる感じがする。

 

昔の流希と再会した後に「やっぱりそれは勘違いなんだよ、流希」とか思ってたり、沈みまくってる伊織君ではありますが。

昔の自分相手には腹立たしさを覚えたりしてる辺り、氷点下男とか笑わせてくれるわ……。心が折れたと言いつつも、今までの習慣か違和感を覚えた部分の考察を始めたりしてましたし。結局、伊織は伊織ってことなんだなぁという部分は(彼の記憶が信用できないとしても)信じられたし、作中でも信じてるキャラが居てくれたのは、いい塩梅だったと思います。

 

昔の流希や伊織、まなつ、きょーちゃんを名乗る謎の女性、遠野、小織などと出会い会話をしていく中で、囚われていたものから解放されていきエピローグに辿り着いたのだから拍手喝采したい気分ですね。

特に流希。既に亡くなっている伊織たちの幼馴染である彼女は、これまでも多様な故人ヒロインをお出ししてきた涼暮先生の強さを感じたといいますか。敵わないなぁ、と思いました。
エピローグ以降にもあるだろう出来事とかも気になりますが、ひとまずの区切りとしては満足のいくものでした。本当に面白かったです。




……と、ネタバレを(極力)伏せつつ感想を書いてみましたが。ネタバレ増し増しの感想をふせったーに投げたので気になる方いたらそっちもどうぞ。



鬼人幻燈抄 明治編 君を想う

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「さらばだ。もう逢うこともあるまい」

「あほ、こういう時はいつかまた逢おうって言うもんや」

 

「逆さの小路」という怪異の噂について調べていた甚夜は、気がついたら鬼の異能も行使できない状態で白雪と対峙していた。

鈴音も居る、懐かしの光景。夢の様に、幻の様にその光景を見ていたら、かつてと違う言葉が飛び出してきて……彼は過去の未練を断ち切り、現世に帰ります。

存在しないと断言した老人が語った、噂話の真相が重かったなぁ。甚夜の調査時代はそこまで苦戦もせず、あっさり解決した部類になりそうですが、心には刺さる。

 

そしてまた時は流れて、野茉莉も成長して。作中ではもう結婚していてもおかしくない年頃だけれど、かつての約束もあり、彼女は自分の意志で甚夜の傍にいることを決めて。

父親とかの視点からは、思う所もあるようでしたけど。結局は、野茉莉を尊重して受け入れてる良い親子関係だなぁ、と本当にほっこりしました。

だけど、平穏は長く続かず……かつて広まった「人を鬼にする酒・ゆきのなごり」。それと同じ名前、ラベルの酒が京都でも流通し始めて。

実体は普通の酒ってことでしたけど、これはつまりマガツメの策略が迫っている表れでもあって。

 

甚夜がマガツメの下に踏み込みつつ、染吾郎達に助力を要請している辺りは成長を感じましたね。

三代目が甚夜の親友として、命を賭けて矜持を示してくれたシーンが本当に好きなんですよ。最初は親友がこれ以上の重荷を背負わないように排除しようとして、それが叶わないとしても人としての意地を見せるべく言伝を残していた。あぁ、本当に得難い友であったことよ。

 

親友を失った後に、娘にまで手を伸ばしてくるあたりマガツメの策略の悪辣さが光ります。……悪辣であろうとした結果ではなくて、本人も言っていた通り甚夜がどういう選択をするのか見たかったので、極限の状態を用意したって感じではありますが。

明治編の営みが温かかっただけに、それがどんどん崩れて行ってしまったの、本当に悲しかったなぁ。それだけ、丁寧に描いてくれていたからこそ、喪失の痛みがあるんですけど。もどかしくはある。

 

巻末の幕間「未熟者の特権」では、京都に残った平吉のエピソードが描かれていて、知りたかったその後の様子がある程度見られて本当に嬉しかった。あの場所に甚夜が居ないのが、どうしようもなく切ないけれど。

「出会いは、別れのためにあるんやないぞ。いつかぶん殴ったるから首洗って待っとけよ」

という元少年の誓いが、とても良い。

プロフィール

ちゃか

 ライトノベルやコミックを中心に、読んだ作品の感想を気儘に書き綴るブログです。
 新刊・既刊を問わず読んだタイミングで記事を作成しております。
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