「そんなことないですよ。……でも、そうですね」
宮司さんの言葉は、下手なフォローには聞こえなかった。ひとを諭すことに、慣れているからかも知れない。しみじみと、付け加えた。
「いつかは、なるものに、なるだけですから」
2008年に雑誌寄稿された表題作『15秒のターン』に始まり、書き下ろし2編を加えた短編5つから構成された短編集。
書かれた時期が違うのもあってか作品ごとに味わいが異なりつつも、少女たちの魅せてくれる振る舞いが鮮烈な印象を残す1冊でした。
最初の『15秒のターン』と、最後の『15年目の遠回り』が特にお気に入り。
『15秒のターン』。生徒会長の梶くんと付き合っている少女、橘ほたる。
彼女から告白して恋人関係になったものの、この学校は自主性を重んじているという建前で生徒会の仕事量があまりにも多く……。
付き合ってはいるけれど一般的な恋人みたいな関係ではなかった。だから、学園祭の日に時間をとってもらって、別れることにしよう、とほたるは決めたわけですけれど。
約束を取り付けた時の彼女の思いつめた態度から、今まで自分が彼女に対して不誠実だったことに気が付いた梶くんは、最後の最後で踏みとどまった感はありますが。
……忙しさにかまけて放置してたのはいただけないと思う所存。
一方で、ほたるちゃんも自分の至らなかった部分に気が付いて。別れる覚悟を決めたことで、一歩踏み込む事が出来たんだから何が幸いするか分からないものですね。
漫画を描いてWEBに登校している浪人生の主人公が、迷いながらもある決断をする『2Bの黒髪』。重課金してあるゲームの1位を目指した少女2人の、どこか歪な関係を描いた『戦場にも朝が来る』。
『この列車は楽園ゆき』は書き下ろしで、掲載作の中では一番長かったかな。離婚によって母子家庭で育った少女が、合唱コンクールの時に泣いている少年を目撃して。
第一声が「は? キモ」だったりして、微妙な距離感で不思議な交友関係が構築されることになるんですが。不思議な読後感でしたね……。
『15年目の遠回り』は一番短い作品で、『15秒のターン』に登場していたほたるの姉、ひばりの物語。合コンに通いづめているOLのひばりが、遅くまで営業しているカフェで〆る話なんですが。
終始面倒臭いお姉ちゃんではあるんですけど、終盤に見せた心境がとても良かった。