「求める水準が高すぎるんだろうな。一つができないだけで全部ができないように感じちまう」
「そんなことない……」
「そう思うってんなら、何度でも否定してやる。いいか、お前はすごい。すごいんだよ」
魔王を討伐した勇者パーティーの一人、暁の魔女と謳われるレイシー。
彼女は平民の孤児であったが、その魔術の才能を見出されて勇者パーティーに加わった一人で……戦いが終わった後、彼女はその才能を取り込むべく貴族に嫁入りすることが決まっていた。
そのため彼女は旅の最中ずっと使っていた杖を破棄しようとまでしていたんですが……婚約者だったボンボン息子が浮気していたことが発覚。
勇者ウェインの助けも受けて、婚約を破棄することが出来て。そして彼女は、魔王討伐の褒章として与えられるはずだった「願いを一つ聞いてもらえる」権利で、国に縛られない自由な立場を得ることに。
国内の村に屋敷を与えられたわけですが。勇者パーティー時代のレイシーはいつもローブを被って仲間の影に隠れていたため、民衆に顔が知られていなかった。
勇者パーティーの絵姿なども売られているが『暁の魔女』というあだ名が影響して、本来黒髪のはずなのに赤髪になったり、噂に尾ひれがついて全く別人のようになっていて。
だから、直ぐに村にやってきた少女=暁の魔女とバレず、穏やかな時間を過ごせていたのは良かったですね。
レイシー、国一番と謳われる魔術の才能は確かにあって素晴らしいんですが……それ以外の部分がポンコツ気味だからな……。
仲間だった勇者ウェインとは話せるけど、どうにもオドオドしてて小動物っぽいし。研究に専念しすぎて、食事をおろそかにするし。
でも狭い世界に生きていた彼女は自由を求めたところから、少しずつ着実に成長していってるんですよね。
与えられた屋敷にはちょっとした曰くがあって、その問題を解決したり。村の人々の交流に不慣れながらも挑戦し、受け入れられていったり。
その中で戦闘用の技術である魔法を、生活を便利にする方向で応用していこうと考えて、何でも屋『星探し』を開店して。
旅の時には微妙に距離があった戦士のブルックスから依頼が持ち込まれて、改めて友人になったりと温かい世界でほっとしましたねぇ……。
レイシーの家で一緒に暮らすことになる魔物2匹が可愛かったですね。
巻末の書下ろしは『竜のポスト便』。手紙配達をする仔竜についてのエピソードなんですが……レイシーのところにいる魔物たちが仲良くなってて微笑ましかった。