「自分が戦わなければいけないことを辛いと思っていたのは、もう随分前のことです」
彼女は低い声でつぶやく。
本当に辛いのは、共に時間を過ごした仲間を失うこと。仲間はもちろん、一緒に時間を過ごしたあの子たちが、こんな不毛な争いに関わることが無いような時代を早く迎えたい。ただそれだけだ。
シリーズ完結巻。
ついに戦争が始まってしまい……ラゼは軍人として作戦に注力するために、「特待生ラゼ・グラノーリ」を殺すことにして。
学院から荷物を引き払い、退学の手続きも済ませて。それを知った同室のフォリアは、休みに入る前にラゼと意見の違いが生じていたこともあって、思わず涙するほどでしたが。
縁を培った学生たちは、こんな別れは認められず……どうにか情報を集めようとして。ただ、雛鳥たちの奮闘は美しいけれど国が本気になれば欺瞞情報しか掴む事は出来ず。
「ラゼ死亡」という事実が静かに学園では浸透していくことになります。
そうして、大切にしていた日常から離れたラゼは……完璧な軍人でしたねぇ。
移動魔法を駆使して敵地に浸透、重要拠点を破壊するという工作を単独で完璧に実行してのける。
敵がそれを見越して、より重大な爆発が起きるように罠を仕掛けてきても、それを見抜いて「重要地点の破壊、という目標は達成できるからヨシ」と踏み抜いて生還。さらには、その爆発地点に毒性のあるものが散布されていないかの確認まで済ませてくるのは有能すぎ。
彼女が「狼牙」と呼ばれることが良くわかる戦いっぷりでしたねぇ。
敵から首切りの亡霊と称されるのも納得できるし……ボンボン部隊と揶揄されていたゼルヒデが彼女の戦いぶりと、その疲労を感じて態度を改めるほどだったのも、良い描写だと思いました。
終盤の「……もっと違い人選はできなかったのか。狼牙殿」とかのやり取りはかなりコミカルで良かったですし、ゼルヒデがこんな味のあるキャラになろうとは。めっちゃ笑ってしまった。
帝国がバルーダの魔物を戦場に放つとか言う、世界初の外道戦法をとるくらい暴走してきて。それを感じ取った帝国内部にクーデターの兆しがあり、それを促すための潜入工作まで担当することになって。
潜入時の描写が加筆されていたのは良かったですね。書き下ろし番外編「とある少年の希望」で、ラゼとの縁で希望を見出したけど、秘密を知りすぎたために記憶を消されてしまったのは少し悲しかったですけど。戦争、だものなぁ……。
ラゼの奮闘もあって戦争終結の目途が立ち、皇上ガイアスや上層部の思惑の結果、ラゼが狼牙であるという情報を明らかにすることとなって。
それを知った生徒たちが、その上で自分たちにできる事をしようとしたり……変わらず彼女と友人で会ってくれたのは良かったと思います。ラゼ、自分のことになると鈍いからね。押しかけてくる強さがあるのは良い事ですよ。