気ままに読書漬け

とりあえず気が向いた時に読んだ本の感想などを上げてます。ラノベメインに、コミック、TRPGなど各種。推しを推すのは趣味です。 新刊・既刊問わず記事を書いてるので、結構混沌しているような。積読に埋もれている間に新刊じゃなくなっているんですよね。不思議。ま、そんなノリでやっているブログですが、よろしく。 BOOK☆WALKERコインアフィリエイトプログラムに参加しております。

フシノカミ

フシノカミ~辺境から始める文明再生記~6

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「…そんなこと言われたら気になってきちゃうよ」

「そうでしょう? だからそんな好奇心だけで旅立つ人は絶対にいますよ」

「知らないことを知るのは楽しいですからね!」

 

アッシュがアーサーから見せてもらったのは、竜が大陸上部の山を蓋していたり、海を封鎖している実にファンタジーな地図だった。

王都はサキュラの南にあるのに、アーサーの地図上ではサキュラの西に描かれていたり、正確な地図というものを知る読者目線だと衝撃を受けてるアッシュの方に賛同してしまうんだよなぁ……。アレはあまりにもあんまりだ……。

 

縮尺も方角も位置も全部メチャクチャで、アッシュ君が憤慨。いつかやることのリストに、地図の作成を書き加えていましたが……。

アッシュの語り口の熱とか、夢の輝きにあてられたアーサーが自発的に地図作成を任せてほしいと名乗り出ることに。

未知についてアッシュが語っているシーンで、未踏の地のカットが載っているの読んでいるだけでもワクワクしちゃいますし、アッシュの目がキラキラしてるのが伝わってくるのでそれを間近でみたらそりゃ惹かれちゃいますよねぇ……。

 

そこから自分の本来の身分も駆使して、「兄」や「従者」の手助けを借りた上でまとめ上げて言ったの良いですよねぇ。

自分の執務で追い込まれていても弟を気遣えるイツキも、従者として成長を促そうとするリインも良い味だしてるんですよねぇ。

なんでこんな良いエピソードが絵伝版での新規なんですか。後に断章としてWEBに追加もされましたけど。絵伝版、こうやってたまに新規エピソードで刺してくるし、そうでなくても再構成にこだわりがあるので読んでて楽しいんですよねぇ。

 

アーサーの頑張りを否定せず、その上で後押しが出来るように測量機器の作成をしていたアッシュ君、「こんなこともあろうかと!」を農民の子がやるんじゃないよ。

常識人のレイナがふらっと立ち眩み起こしていたのも無理はない。まぁ読者的にはアッシュ君が常識はずれなのは今に始まったことじゃないから、まーたやってるよって受け入れられますけど。まだレイナちゃんはその領域にまで到達してないかぁ……。

 

そうやってアーサーがアッシュ君の影響を受けて成長していってるわけですが。

2人の距離が近づいている中で、マイカちゃんもとある事実に気が付いて。同室のレイナとの会話を経て、イツキのところに乗り込んでいく流れが好きです。

これ編纂版とかで描かれているんですけど、そっちだと帯刀していたらしいので絵伝版のマイカちゃんは行動力は変わらないながらも、ちょっと穏やかですね。

 

巻末書下ろしは『リインの姉代行業務』。リインがアーサーのフォローをするように、イツキから頼まれるシーンのSS。業務に忙しそうにしていて、そっちの手伝いに呼ばれたのかと思いきや、領主ではなく兄としての願いを伝えられて。それを聞いてくれるリインの優しさが良い。

描き下ろし漫画は『悪魔の罠』。軍子会に参加している商会の娘、ケイが大物二人に近づきたいと願う中で、気になって暴走しかけた彼女を止めたアッシュ君。さっすがぁ。



フシノカミ~辺境から始める文明再生記~5

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「私には夢があるのです 本の中にしかないような 便利で豊かな生活を送るという夢が」


1921話、幕間、2223話と書下ろし小説と漫画が収録。

アッシュと同室になることになった人物「アーサー」。アッシュ君も即座に気付いていましたし、19話最初のページでも明示されてますが、実は女の子で。

王都出身の彼女は、立場があるために利用しようと近づいてくる人や、助けてくれない家族に挟まれて籠の鳥状態であった。

「なんだかんだと理由をつけてろくに助けてくれない父」と書かれているの、原典・編纂版読者としては思う所ありまくる表現でしたねぇ……。

 

問題が大きくなったため、性別も名前も偽りサキュラに逃げてきた形になるようです。

そんな境遇のために、何かと「我慢することは得意」で乗り切ってきてしまったの、見ていて痛々しくもある。

……でもまぁ、アッシュ君と同室になって「ゆくゆくは協力してくれれば大満足」と思われている時点で、運のツキというとアレですが。

後の幕間でマイカもレイナに「もっと大変になっちゃうね!」といい笑顔で言ってましたし、あながち間違ってないと思うんだよなぁ。

 

寮生活で男女別の階ではあるけれど、「一緒の建物で生活できる」とウキウキしてるマイカちゃんがカワイイし、マイカワイイポイントが多くて今回も楽しかったですね。

恋に生きてるポワポワな顔もあるけれど、母から「頑張らないとアッシュ君が夢中になってくれる日が来ないかも」という釘刺しがきいていて、これまで以上にフォローしたりしようとしてる、利発な顔もあるんですよねぇ。頑張れマイカちゃん。

 

ノスキュラ村から領都サキュラに場所が変わり、勉強の場所も神殿から軍子会に変わり、新キャラ・新情報の紹介が多いんですけど、見せ方を工夫してるからかテンポよく読めるのが良いですね。

これはまぁ私がWEBも小説版も読破してる民だから、というのはあると思いますが。

新キャラだと、アッシュ君の無茶ぶりに応えていた都市側の神官ヤエさんが、初対面でめまい覚えているシーンとか。レイナちゃん初登場シーンとかが特に好きです。

 

巻末書下ろし小説は『レイナの修行』。なんだかんだ良い家の出身なので、普段は召使に任せていたような仕事も、寮生活では自分の事は自分でやる必要があって。そのために必要なことを学んでいく話。微笑ましくて良かったですね。

書き下ろし漫画『とびきりの甘さ』は、原作で好きだった「対人精神干渉型化学物質クレープ」が登場するエピソードで、レイナ勧誘の流れが絵伝版だと違うので本編だと登場せず残念に思っていたんですが、描きおろしてくれたのには感謝しかないですね。

 

あとは雨川先生がマイカがアッシュの抑え役に回っていることに「ユイカさんもにっこり」とか言ってるの笑った。某資格は取れる人どれだけいるんですか。

電子版にもカバー裏収録してくれてるのはありがたいですね。新キャラの補足とか

囚人衆の名前とかの情報があって、こういうこだわりがある作品は好きです。今回も堪能しました。



フシノカミ~辺境から始める文明再生記~4

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――だからなんとかしなくてはならない

そうだ 抱くべきは絶望ではなく まず決意の火種であるべきだった

 

1518話を収録。

熊がやってきたと知らせがあり、村人は教会へと逃げ込むことに。

アッシュも本来であればマイカと一緒にそこへ行くべきなのですが……アッシュ君の聡明な頭は、現状の問題にすぐに気が付いて。

 

熊に対処できるクライン村長や、狩猟経験のあるバンやジキルが各々の事情で村を離れている。ということは今熊に対抗できる手段を持っているのは、バンから教えを受けている自分だけだ、と。

そこで一度自宅へ戻り、狩猟用の道具を回収してから教会へ向かったわけですが……途中でバッチリ熊と遭遇してしまうあたりが、アッシュ君の引きの強さというべきか。

 

害獣と遭遇しても慌てず、避難場所である教会との距離を測り、対処を選ぶあたり覚悟が決まってて強い。

「ここは私の村だ」と決意表明するシーン、読書会によって本に希望を見出したアッシュが、「ほんの12ページ目に過ぎない夢物語」と語るノスキュラ村での出来事が、本の見開きで表現されているのがとても好きです。

 

まだ成長途中のアッシュは、熊に辛勝するのですが。毒を使って弱らせて、一度死んで前世の知識を持っているがゆえに「死の恐怖に抗える」という自身の強みを押し付けて、討ち取ったのですから流石です。

 

そのうえで負傷して寝込むというのが、この作品の儘ならなさを描いているというか。

ノスキュラ村の一般村人たちが、アッシュの出血を見て狼狽えたり、もう助からないかも……と思ってしまうのが、この世界の文明レベルなんですよね。

マイカもまた、自分の想い人が失われてしまうかもと一度は立ち止まってしまうわけですけど、アッシュの教えを胸に他の人に協力してもらいながら彼を救おうとするのが熱い。

 

アッシュがノスキュラ村に与えた影響は大きいですが、あくまで辺境の寒村に過ぎないこの場所では、彼の目的である「古代文明のような快適な生活の再現」という夢には不足してるものも多くて。

そんな彼に「都市に留学できる機会」なんてものを与えたら、そりゃ飛びつきますよねぇ。

まぁ肝心の領都の外観は彼の期待に届かないものでしたけど。不足してるなら変えていけばいいと奮起してる彼を見てると、やってくれそうな気がしてくる。

 

巻末の書下ろしSSは「シェバの灯」。アッシュを見送った後のシェバの視点で、息子を心配してる母に対して、父ダビドは信頼が厚いというか。

酔っぱらってぶつかって以降のダビドは本当にアッシュを理解してくれるようになりましたよね……。まぁ理屈でいえばダビドの言う通り、アッシュ本人は問題ないですけど。それでも心配になる気持ちまで止まるわけではないですよねぇ……。

描きおろし漫画はこのSSに影響された黒杞先生が、この後のエピソードを描いたものらしくて、こういう試みは面白くて好きです。

フシノカミ7

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わたしには、進むべき道が見えている。容易に踏破できるものではない。照らす光は弱く、道は細く、断崖絶壁に挟まれている。それでも――

「不可能ではありません。これは、夢物語に聞こえようとも、実現可能な夢です。そのために力を合わせることさえできれば、必ずや」

 

シリーズ完結巻となる第7巻。

今回はまたいつにもまして編纂版ならではのエピソードである、他者視点が多かった印象。

ちなみに原典であるWEB版には、断章として本編読了した読者なら楽しめる短めのエピソードが掲載されてますので、そちらもお楽しみくださいな。

 

開いて最初に飛び込んでくるのが【横顔 アリシアの角度】。

6巻最後、アッシュ視点だと不死鳥要塞で人狼の群れを蹴散らした上、気になる情報がたたきつけられたばかりだったんですが。

そもそもの問題としてサキュラの隣人であるところのヤソガが、舐めた態度を取っているから非難しに行ったんですよね。

 

ただサキュラは近年アッシュの影響で発展し、辺境同盟と言う味方も増えつつあるけれどあくまで国の一地方でしかないんですよね。

なので王都に滞在している当代辺境伯のゲントウ閣下は、アリシアの助力を借りつつ「これこれこういった理由でヤソガと喧嘩するけど、悪いのはあちらだ」と言う根回しをしていたそうです。

それをしていないと中央からまた嘴突っ込まれかねないから、ってことでしたが。ゲントウ閣下が立派に貴族としての仕事をはたしているのを見る度に、王家の株が下がっていきますねぇ。

 

これ以降もアリシア視点で、最前線で戦うアッシュをどうにかサポートしようと奮闘するエピソードが描かれていくわけなんですけども。王子も、国王も本当にどうしようもないなって感想になりましたからね……。

ヤソガ子爵領はトップが消えたこともあってこのままでは荒れ果てる。一領地の住人を野盗とするくらいなら、保護していこうと戦おうとするアッシュと、そんな彼を見てきたからこそサポートするために走り出した推進室メンバーの成長が本当に頼もしかった。

前代未聞の事態だというのに、対策の素案が出来ていてイツキも唖然としてましたからね……。

アッシュと言う灯火に導かれて、多くの人員が強くなったサキュラだったからこそ迎え撃つことが出来た困難に対して、中央のグダグダっぷりはあまりにもひどかった。

事件が落ち着く気配を見せた所で火に油注いで来たりしましたしね。なんだあの模型は……。

 

個人的にはアッシュから妙な連絡が来た、と聞いた推進室のメンバーがその内容を聞いて同じ顔で首を傾げたシーンが好きですね。

それらを計上した結果としてアッシュが願いを叶えたのは、WEB既読勢だったので知っていたわけですけど。いざ計上してみたら、予想以上の価値が付けられててまだまだ甘かったなと反省しました。

とある編纂者のあとがきも、楽しかったですね。ちょっとボリューム多め

 

コミカライズの方はますます好調ですし、ここで編纂版は綴じられることとなるわけですけど。きっといつまでも読み返していくんだろうなぁ、という確信がある。

とても素敵な物語を読ませてもらいました。満足。



フシノカミ~辺境から始める文明再生記~6

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「皆さん、頼もしくなりましたね」

(略)

「うん。アッシュが、眩しいくらいの光を灯して引っ張ってくれたからね。ここまで行けるよって、あそこまで行こうよって。皆を、アッシュが連れて来たんだよ」

 

ついにアッシュの婚約者という、臨んだ地位を掴んだマイカ。

サキュラ辺境伯領においてはアッシュの齎した影響は大きく、それもあって婚約披露のパレードは盛大に開かれ多くの人に歓迎された模様。

 

マイカが綺麗に育った分、その関係を憎たらしく思う人なんかも居たようです。実際、アッシュが農民の出と言う事を弱みとして突こうとする外野が多いため、正式な結婚が先送りになったりもしてますし。

……アッシュやマイカを敵に回すような事、良く出来るなぁ。彼らの影響を受けて、サキュラ辺境伯自体が底上げされてますし。恐い恐い。

 

編纂版の描き下ろしである他視点、今回はヘルメスのものとセイレ嬢のものが多かったですね。

アッシュ達の婚約パレード終了後の、軍子会同期達の会話ですが……順調に外堀埋められてて笑った。レイナも綺麗に育ちましたよねぇ。家族への挨拶を済ませてるし、表情を見れば言葉もなしに意思疎通できるくらいに通じ合ってるとか、もう……。

それでも自分が夢に向かいまくってしまう厄介さも自覚していて、それだけに最後の一線を超えることが出来ずにいたようで。

一度マイカの告白を断ったアッシュもそうですけど、この夢へ一目散に向かう男どもは面倒臭いですねぇ……。そんなところも含めて、女性陣は好きになったみたいですけどね

 

一年の準備期間を経て、留学生の受け入れ準備も整って。

第二領主館として扱われる建物について、編纂版では割とさらっと描かれてましたが、原典の方だと困惑するアッシュが見られるのでそちらもオススメですよー。「破滅の炎6」の中盤ですね。

スクナ子爵領のセイレ嬢も留学生としてやってきた訳ですが。彼女視点で、アッシュが根回ししてたスラムの顔役だとか、かつてアッシュが行った不正役人への対応とかの情報量が増えて読んでて楽しかったです。

 

情報収集に力を入れている領地の令嬢らしく、彼女自身もまた有能なんですよね。そんな彼女ですが、アッシュの熱にあてられた一人で……。アプローチもしてますが、どうなるんでしょうね。結構好きなキャラなので幸せになってほしいとは思ってるんですが。

アッシュの攻略難易度は高いしなぁ。原典でも彼女の相手についてはハッキリしてなかったと思うので、こうやった内心を描いてる以上編纂版で回答が得られると嬉しさが増しますねー。
6巻は問題提起回というか、一つ大きな騒動が起きる話でもあって。WEBの次の章が最終章、事後処理や伏線回収をすませる部分なので、7巻……出ますよね?
セイレ嬢はアッシュを落とせなかった場合でも、他の有力候補を探そうと思ってる節もありますし、今回名前が出たサイアスとかはいいキャラしてると思いましたけど、さて。

 

クイドさんが、かなり良いサポーターになってくれてて頼もしいですねぇ。最初の出会いこそ、小銭を狙う行商人でしかなかったのに。

「どんな客でも下に見ちゃいけない」とアッシュに教えられて、そこから変わることが出来たのは良かったですよね。あとがきでも会頭としての台詞がありましたが、いや成長著しいな。

WEBでは今、不定期に断章としていくつかのエピソードが更新されているのですが、最新の断章がクイド視点のエピソードで14まで描かれてるので、オススメです。

特に4の最後の方の描写とあとがき部分で描かれた台詞の両方がとてもかみ合ってて好き。

フシノカミ~辺境から始める文明再生記~2

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ならば考えていただきたい

この強欲な夢追い人が 転ばずに走り続けられる方法を――

 

5話~第9話までを収録。発売直後の今だと、9話はWEB先読み枠なので、本を買うと実質先読み! 嬉しい!

まぁ読者の喜びに反して、5話は採取に出かけたアッシュが行方不明になったっていう驚愕の情報を聞いて固まるマイカちゃんの扉絵から始まるんですが。

慌てて村長夫人である母親のユイカに報告に行くマイカちゃんの困惑っぷりと、泣くのは帰って来てからにしなと励ますフォルケの図が結構好きです。

 

これで当の本人はケロッと帰ってくるんだからそりゃあ文句のひとつやふたつ言ってやりたくなるってものでしょう。

編纂版だとアッシュ視点に加えて、他キャラ視点を挟むことで情報量を増やしていたんですが、コミカライズに当たっては上手く統合してキャラの魅力引き出してるんですよねぇ。

たとえば、帰還したアッシュに最初に駆けつけるのって、WEB・編纂版だとマイカとジェバなんですけど、コミカライズだとジェバ・ダビドの両親なんですよね。

 

ダビド、コミカライズ1巻でもアッシュ君にコロコロされかけてたり、勉強しまくる息子をどう扱っていいか迷ってる部分はありますけど、ちゃんと心配する親心も持ってるんですよね。それをしっかり描いてくれてるのが良かった。

ちなみに、WEB版フシノカミには断章って章があって、そこにある『伝説前夜』は母ジェバ視点、『見送る背中』は父ダビド視点での情報で解像度上がるのでオススメですよー。

ただ、今コミカライズしてる1章『灰の庭』完結時点の情報が混じってるので、コミカライズ派の人は読むタイミングに注意が必要です。

 

アロエを確保して傷薬を使ったら、手が綺麗になったため女性陣が飛びついて。

実験の協力者になったことでアッシュ君に手を握られて、観察されて手れまくってるマイカちゃんが可愛くて好き。

その後、アッシュのしたことが凄いことだけどトラブルの原因になりかねない、と話を通してくれたユイカ夫人は素晴らしい。正装してるアッシュ・マイカもかなり良いですよね。

アッシュ君の影響がどんどん広がって恩恵を被る人も増えてますが、同年代の少年たちにはそれを良く思わない子もいて。中々難しいですねぇ。

フシノカミ~辺境から始める文明再生記~1

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あの本当の笑顔が どうしても気になって

知りたくて もう一度見てみたくて

気付いたらあたしは 教会の扉を開けていた

 

オーバーラップノベルスより刊行されてる『フシノカミ』シリーズのコミカライズです。

好きな作品が、好きな絵柄でコミカライズされる事って、幸せですよね……と実感させてくれました。

コミカライズするにあたって、原作の展開を少し入れ替えたりしているのですが、黒杞先生が『フシノカミ』の大ファンだって言うことを公言されているだけあって、組み換え方に無理がなく、読みやすいのが素敵です。

 

1話冒頭の「本だ。本だった」から始まる描写がとても綺麗で、知識についてしっかりと向き合ってくれてる感じがするのが良いんですよ。

主人公は寒村に生まれた農民の子、アッシュ。彼には前世の記憶らしきものがあり……8歳児でも立派な労働力に数えられる世界が生きにくくてしょうがなかった。

そんな彼が、村長夫人の開いてくれた朗読会で、本によって継承された知識に目を付けて。

文字を覚えるところからスタートしてますが、驚くほどの呑み込みの早さで習得して、今後も本を読めるように契約書まで整えている辺りは強かです。

 

村長家の一人娘のマイカちゃんも、人を見る目を持っていて……アッシュ君が抱えている絶望を察していたようですが。

夢を見つけた事で生き生きとし始めたアッシュ君に影響されて、苦手な勉強にも向き合い始めるのもいい感じです。その後、夜道で手を繋いで照れてる場面とかも本当に可愛くて……。アッシュ君が本に夢中ですぐ手を離すのに、マイカちゃんの方はもうちょっと惜しんでくれても……! ってなってる所が好き。

 

アッシュ君の好きなシーンだと、4話で「大勝利」な夢見てるところとか、「いらっしゃいませたんぱく質」してる場面も良いですよね。

巻末にが原作者書き下ろしの「第二次聖戦――勃発」と中々物騒なタイトルですが、アッシュとフォルケのいつも通りのやり取りな感じでしたねぇ。SSだけじゃなくて、黒杞先生描き下ろしのイラストついてたの嬉しかったです。

 

他にはオマケ漫画もありますが、ぴょんぴょんしてるマイカちゃんと帰宅後の姿のギャップが微笑ましかったです。カバー裏にも描き下ろし漫画が掲載されてて、電子版でも問題なく見られたの嬉しかったですねー。

応援イラストなんかも収録されてましたが、編纂版イラスト担当の大熊先生のマイカちゃんがウィンクしてて可愛かった。

フシノカミ~辺境から始める文明再生記~5

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「待ってて、アッシュ君! あたしの想いを絶対に受け止めてもらうんだから!」

 

カバーイラストからもうマイカちゃんが可愛い一冊でしたね……。

編纂版(書籍版)で追加されている、アッシュ以外のキャラの視点もほとんどがマイカちゃんで、彼女がどれだけアッシュ君が好きなのか、を改めて示される形となりました。

それ以外の視点では、例えばユイカ夫人が領主一族の目線でアッシュ君の評価をするシーンや、サキュラ家の面々の間で「マイカの婿に相応しいか」を話し合う場面があったりしました。

 

……出自こそ寒村の農民と言うことで、かなり低いわけですが。サキュラ辺境伯領以外からも勲章をもらって、実績が十分ですからねぇ。アレがもたらした技術革新で、多くの利益も得られているわけですし。これを出自の一点で切り捨てるのはあまりにも惜しいでしょう。

サキュラのトップが、そういう建設的な判断を下せる人々で本当に良かった。今回初めてアッシュ達が王都に踏み込んで、かつてアーサーの口からも出た王都の空気を感じる事になるわけですが。

 

……なるほど。これは確かに。煉瓦とか新しい技術をアッシュが生み出したとしても、サキュラほど活用されることは無かっただろうなぁ、と思わされる状況でした。

まぁ、王都の人間全員がダメな訳では無くて。厳しい環境でも必死に知識を身に着けてる神官や、地方関係者だけと王都に滞在しているサキュラ家よりの人々とか、なにより忘れがたい王女様とかも居て。

今回故あって王都に向かうことになるアッシュ達ですが、いい感じに楽しんでた感じがしました。

 

……そもそもなんで王都に行くことになったかと言えば。サキュラ家での話し合いを通して、マイカの婿にふさわしいと認められたわけですが。

これまで態度を示してこなかったアッシュでしたが、肉体が成長したことで彼女への想いをハッキリと自覚する事になって。けれど、自分が夢に向かって突っ走る暴走特急だっていうことも自覚しているからこそ、好きな相手の傍に居られないと判断してしまう辺り、まだ理性が強い感じもしますね。

 

好きと言われて。でも好きと言わせてもらえなくて。涙を流しながらも、すぐさま次の手を打てるマイカちゃんがとっても好きです。

武芸王杯大会、という約5年ごとに開催される誉有る大会を利用した彼女の活躍は、格好良かったですし……終盤は終盤で可愛くて、マイカちゃんの魅力が詰まってましたね。

本来の名前で二人の前に立ったアーサーも、成長著しくて、幸せになってほしいなぁと思いましたけど。

 

あと、地味にスクナ子爵領のセイレ嬢好きなんですよねぇ。今回も、アッシュを外部から評価する視点が入ってましたけど。情報収集に心血を注いでいるスクナ領からすると、アッシュの暴走特急っぷりは本当に信じがたいものだったのが良く伝わってくるし、彼の優良物件さも明らかなのが良かった。

これ以降のWEB版でも、たまに登場して要所を抑えてくれるのが頼もしいんですよねー。サブキャラの中ではトップクラスに好きです。
加筆で更に面白くなってますが、マイカちゃんの描写が増えた分カットされたシーンもあったのは惜しくはありました。スクナ領でアッシュ君が料理するエピソード好きだったので……。皆WEB版も読もうね!

フシノカミ~辺境から始める文明再生記~4

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「いいよ、アッシュ君――やろう」

(中略)

「ここから先は、あたしも命をかけるよ」

 

2年の軍子会を終え、働きはじめたアッシュたち。

領地改革推進室という新しい部署が設けられ、マイカが室長としてアッシュを始め、軍子会のメンバーなどが参加していた。

「実質アッシュ君の巣」なんて噂されているようですけど、それだけの実績挙げてるからな彼ら……。

 

農業改善計画と工業力向上計画の管理・運営・実施・調整および付随業務全般とか担当範囲が広すぎる。

それでどうして結果を出せるんだ。まぁ、大体アッシュの無茶ぶりに適合して、周囲も能力を伸ばしていった結果ですよね。

 

彼らは、領主代行の支持があることもあって結果を出しています。

けれど、その手がどこまでも届くわけでも無くて、どうしようもない部分は切り捨てる判断が必要になることもある。

その判断を、切り捨てる側が理解して受け入れてくれるとは限らないのが、難しい所ですけど。

 

税収の推移や、現地の状況を確認した結果、農村としての体裁を保てなくなっており「放棄した方が良い」と理性では判断を下す村を見たアッシュ。

しかし、彼の胸には憤りがあった。

該当のアジョル村は、見捨てられたと嘆くばかりで改善する気概がなかった。

それまで手助けしていたが、自分たちの村も危うくなり支援を切った相手を逆恨みすらしていた。

 

「あの村を見捨てないと言った、その覚悟を見せていただきましょう」

勢いのままにアッシュが言い放っていましたが。これまでずっとそばにいたマイカが、今回は止める事を選ばなかった。

目の前に問題があるのに、逃げることは出来ないと。一緒に抗うのだ、と。

 

アッシュと言う暴走機関車に引っ張られるのではなく、自分も並ぼうとする彼女の覚悟が、本当に強くて素敵。

……まぁその結果として、推進室の周辺に善意に寄る地獄への道が敷設され、開発メンバーを筆頭に悲鳴を上げる羽目になってましたが。

 

流石に全てが順調とはいかないまでも、不可能に近かった村の再建に近づく所まで行ったのは流石です。予想外のトラブルに横殴りされてましたが。

それはそれでアッシュの功績がまた一つ積み上がったわけだしなぁ……。振り回されまくってるイツキがアッシュに大分慣れて来てるのが分かって楽しかったです。


フシノカミ~辺境から始める文明再生記~3

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「私、嘘って好きですよ」

 

幼少期から疑問を抱いていた「魔物」。その一角である人狼と相対したアッシュ。

死にかけた彼は、療養のためという名目で故郷のノスキュラ村に帰還して。

まぁ、怪我から目覚めた直後も懲りてなかったし、動き回れるようになったならなおさらですよね……。

昼ご飯を持って行ったら脱走していて、村中探し回るユイカ夫人の視点からスタートしていて正直笑いました。

 

3巻では大きなイベントが2つおきます。

1つは、軍子会のメンバーであるヘルメスの夢である「飛行機」作りに手を出したこと。

もっとも、様々な技術が失伝している中でいきなり人が乗れるような大きさのものを作ることが出来るはずもなく。手に持って運べるような小さな模型を作ることに。

豪商が秘蔵してた石鹸作ったよ、とか。人狼討伐の第一功貰っちゃった、とか。アッシュ君の齎すイベントに殴られまくってるイツキが、また心おられかけてましたけど。

「経験が活きている!」とか思ってる場面が中々愉快でした。

 

本の知識や、再現に向けた情熱があるとはいえ試行錯誤の連続ではあったようですけど。夢に向かって突き進む、アッシュ君の同類ではありますよねヘルメス。

夢物語だと馬鹿にされても、諦めず足掻き続けた彼が、味方を得て夢の片鱗を掴み取るのは本当に熱い。

そんな彼の勢いに惹かれる子もいるようですし。レイナ視点で、関心が向く様子が描かれましたし、挿絵もちょうどいいタイミングで入ってて、書籍化最高だなって思ってました。

 

そして、もう一つの大きなイベント。

それはアーサーの秘密に関して。聡いアッシュは、初対面の時から気が付いていましたが。

イツキの弟とされている同室の友人は、実は女の子で。性別などを偽るだけの事情を抱えている証明でもある。

 

そんな秘密を探る動きを察知したアッシュはイツキに報告して、「詳細を聞かない」という選択をしたうえで、協力しているのが良いですね。イツキ視点の「弟には、なんと兄貴と友達がいるんだぞ」という、当たり前の一文がとても尊く見えてよい。

 

結果として、密偵と荒事をする羽目になってましたが。今回は地形を利用できた事などもあって、危な気なく勝利。

その後のアッシュの「嘘」についてのアーサーとの会話とかも好きです。アッシュ、夢に向かって進む熱量も凄いんですけど、彼の中にある哲学がかなり好感が持てるので、シリーズの魅力が増してる。

 

身内は大事にするけど、敵には容赦しない割り切りも出来ますし。捕えた密偵相手の演技も中々堂に入ってましたし。……あれ、口を割らなかったら本気でやったんだろうなぁというのも分かるので、こう、怖がられるのも分かりますけど。

プロフィール

ちゃか

 ライトノベルやコミックを中心に、読んだ作品の感想を気儘に書き綴るブログです。
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