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「うむ、そうだ、おれの行くべき道がみつかった。礼を言うぞカイル、お前のおかげだ」

 

このラノ2021、新作ランキング7位(総合11位)に入った作品ですね。

久しぶりの犬村先生の作品で、「飛空士」シリーズと同様の空を舞台とした話で、もうそれだけで古のラノベ読みは喜ぶやつですよね……。

戦闘機モノではなく、「浮遊石」という構造物によって飛翔する、航空艦隊モノですが。

地球に似ているけれど、セラス粒子層が上空を覆って居たり、メイン2人には特殊な異能が宿っていたり少しずつ差異がある世界が舞台。

 

傍系の日之雄王族であった黒之宮家は、しかし謀反を企てたとして地位をはく奪された。

国許には安らぎが無い、と自由を謳うガメリア合衆国へと父子は逃れ……

未来において、日之雄とガメリアの間では戦争が開幕する運びになった時、異国に逃れたハズの少年は、日之雄軍人として戦場に立っていた。

そのシチュエーションだけでも中々美味しいんですけど、そこに至る経緯がまたいいんですよね。

 

黒之宮家が没落したのは、幼少期のクロトが父母に言われるまま、正統の姫であるイザヤに求婚し、常日頃の発言から反意ありと判断されたからですが。

異国の地にあって、日之雄人としての想いを強くしたり、そこで見た怪物の存在から彼女を守りたいと思ったり。一度落ちてから再起する、主人公として王道の展開を歩んでいる気がする。

異能が「隔絶した知能」って言う、直接敵を排除するようなものでなく、使い方を工夫して武器にしてるって言うのも好き。

 

一方のイザヤも、守られるだけの姫ではなく、自国の不利を知りながらも神輿として戦場に贈られた子で。その事情を知りながらも、誇りを持って立っている姿は美しいと思う。

後半明かされた、彼女の内面についても良かったですし、幸せになってほしいなぁ、と素直に思いますが。

 

国力の差は如何ともしがたいんですよね。敵はレーダーを開発して、的確に狙ってくるのに、日之雄側は下から上がってきた見解を「ありえない」と握りつぶして大損害を受けたわけですし。

敵を過小評価し、かつての戦果を妄信し、愚かさを発揮してたのもいただけない。それで上層部のほとんどが脱落して、イザヤ達が昇進したのは皮肉ではありますが。

クロトの意見具申を聞ける懐のひろい人なども一緒に堕ちてて、資源不足に加えて人材も欠けていくとなると、勝ち目が見えなくてハラハラする。

その上、ガメリア側の怪物はまだ裏から手出ししているだけで、打って出る準備をしているところとなれば、先行き不安になりますが。

絶望的な状況で逆転を果たした今回のように、希望を見つけてくれることを願いたい。