「……で、ご用件は?」
似鳥鶏
「……で、ご用件は?」
あるかどうかは分からないけど、まず「ある」と信じてしまう。その方がうまくいくから。
「……なんだか、いいかげんですね」
「人間の叡智ですよ」
青藍病という、心の不安に根付いた異能を発する病気。
原因も不明、能力の表れかたもそれぞれ異なって。
周囲の動物に攻撃される能力とか、相手の年収が分かる能力みたいな使い道どこよ、みたいな能力があれば、危険な能力もあって。
念じるだけで生き物を殺せる能力みたいな、ヤバさしかない能力もありましたねぇ。
別々の能力者について語られた短編がまとまっている形ですね。
「犬が光る」、「この世界に二人だけ」、「年収の魔法使い」、「嘘をつく。そして決して離さない」の4章から構成されています。
元々が心の不安に根ざしているため、思わぬ事態になって慌てふためく、何て場面もあったりしましたが。
概ね能力と向き合って着実に前進したのは良きことでしょう。
青藍病を研究している静先生がいいキャラで好きです。
動物が好きで、相談相手がペットを連れてきていると途中で撫でまわしたりしていて、何というか和む。
あと、発症者達が静先生と話をして、他の発症事例を聞いて感想を零してるところが個人的にはツボです。「おかしな人もいるらしい」とか「とんでもないのもいるそう」とか短い言葉で他の話とのつながりが見える、こういう演出が好きなんですよねぇ。
「どちらかといえば、反対」僕は言った。「でも、亜理沙が自分で考えて決めたなら、どっちでも応援する」
「不正指令電磁的なんとか」、「的を外れる矢のごとく」、「家庭用事件」。
「お届け先には不思議を添えて」、「優しくないし健気でもない」。
以上五話を収録した短編集となっております。
葉山君が一年生一月の頃のエピソードから、収録してある最後の話の時点では二年生の十二月になっていたり、とどんどん時間は過ぎていますが……
葉山君は、変わらないなぁ。
高校に入学し、不可思議な事件に巻き込まれて。
『頼まれ葉山』なんて、あだ名がついたりしているとか。人がいいですからね……
携帯のデータ飛ばされたらもっと怒っていいと思うよ……?
卒業してからも、謎があると呼び出される伊神さん。まぁ、本人も楽しんでるからいいでしょうけど。
後輩たちから「そうだね。召喚しようか。あの人」「えっ? 何?」「式神か何か?」「人間離れしてますが人間です」とか言われる伊神さんよ……
今回掲載の話で一番楽しかったのは「お届け先には不思議を添えて」ですかねぇ。
OBたちが隠したかった過去の話、というか。いったい何をやってるんだ、みたいなオチがつくんですが、他人事だと笑えてしまいますねぇ。本人たちは本当に死活問題だったんでしょうが。あとがきでシリーズはまだまだ続く、と書いてありますので、7巻を気長に待ちます。
……これから警察に行く。決着をつける。ずっと昔から、この学校に取り憑いていたものに。
葉山君たちが通う市立高校には、七不思議があるとか。
超自然現象研究会なる集まりが「七不思議」の特集を発表したと思ったら、それにまつわる悪戯が発生して。
……取り上げられた七不思議の内、4つまで関わって事情を知っている葉山君は相当に変わった高校生活を送っていますよねぇ……
しかし「カシマレイコ」の件は放送室にパソコン置いて、放送されるように準備しただけでしたが……
口裂け女は、鍵の施錠が甘い部室などに入り込んで、演出するというもので。
演劇部だったら、小道具のマネキンの首をとり、マスクをつけ「わたしきれい」と文字を残す。鎌まで買ってきておいてあるあたり、細かいことに拘ってはいますが……
ジョークにしては趣味が悪いな、という感じ。
葉山君は、これまでの事件で慣れてるのか、また色々と捜査しています。
ただ、慣れてはいるけれど葉山君は決して名探偵ではないので、一部分は分かっても真相にはたどり着けず。
結局伊神さんに頼ることに。しかしまぁ、伊神さんはまた相変わらず気ままな生活していると言いますか……普段の食事はカロリーメイト、料理は気が向いた時。だから調味料も、最低限……どころか、醤油すらないとか、ツッコミどころばっかりだな……
とはいえ、伊神さんの方も葉山君の事よくわかってるので気を使ってくれたのは良かったかなぁ。
「それなら、先に君に真相を話しておくよ。君はいま言った七人の中から、呼ぶべきだと思う人間だけを呼べばいい」
と事情を聴き、三つの不思議の内のひとつの謎を解く、という場面で葉山君の判断に任せたのは、少し変わったのかなぁ、とか思ったり。
そうして、七不思議について調べて、今回発生した悪戯の謎を解き明かして……そこからさらに別の真実が導き出される、という展開は中々面白かったです。
まぁ、間に合わなかった部分もありますが、闇の中に葬られてしまうよりは、救いがある結末になったのではないでしょうか。
「……きみの考えてることくらい、分かるんだよ」
(略)
「私が半分、背負ってあげる。もし駄目だったら、一緒に落ち込もう」
文化祭目前のある日、生徒たちが登校するとそこには変なイラストが描かれた張り紙があちこちに張られていて。
目つきが悪いピンクの、ペンギンとも天使ともつかないそれ。
美術部には絵を描く天使、奇術同好会にはシルクハットから鳩を出す天使、とデザイン違いのものを何枚も。
その目的は不明なまま……天使はどんどん増殖していって。
そんな中で葉山君がまた厄介ごとに出くわしたりしていますけど……彼はなんだ、そういう星の元に生まれたのか。
変な張り紙を張るだけならいたずらとして笑ってみていられたけれど、HPの改ざんをしたり、科学準備室に侵入したりと、冗談で済まない様子になってきて。
食中毒騒ぎを起こす気かもしれない。犯人を文化祭までに捕まえるのは、簡単ではない。
葉山君はまた一人でグルグルと悩み……先生に相談して、飲食系の出し物を中止にするという方向に。
……クラスメイト達の努力を水泡に帰す報告をしたことに、かなり気落ちしていましたが……そこに柳瀬さんが来て彼に手を差し伸べて。
いや、格好いいなぁ、本当。そして、感極まった葉山君に抱き付かれて照れてる場面は可愛かった。いいキャラしてますね、本当。
各章AパートBパートがあって、視点が切り替わりますが……そこにも仕込みがして会って。すっかり騙されました。
「天使」事件の本当の目的は、実行者たちにとっては大切な……とても些細な願いで。こういう遊び心ある事件は、好きですねー。
「……柳瀬さん、可愛いですね」
芸術棟が封鎖された影響で、そこに根城を構えていた文科系クラブは居場所を失って。
葉山なんかは、美術室に移住して事なきを得ていたようですが。
……美術室あるのに芸術棟に引きこもっていたから、新入部員来なかったのではないか説。いやまぁ、芸術棟ある時期に葉山自身が部活に入ってるし、他の文科系部活も新入生確保してるからそれは無いか。
魔窟になっていた芸術棟には様々な部活があって、部室代わりに仕えそうな部屋を巡ってあちこちで調整していたそうで。
元は美術部の領地だったと思しき場所を、他の部が取り合っていて。
その騒動に巻き込まれている辺り、葉山君は本当事件を引き寄せてますな……
鍵を紛失して、開かずの間となっていたその部屋に「鉄道模型」が出現するという現象までついてくる辺り、芸が細かいというか。よくもまぁこれだけ引っ張ってこれるな……
その後にあった「シチュー皿のそこは平行宇宙に繋がるか?」は、調理実習の際に、三野が食べていた皿にじゃがいもが無かった謎を解く話。
また三野がしょうもないことしてるのかと思ったら、理由は真面目だったというか。ここで悪知恵働かせてる辺りひねくれてるよなぁ、彼。
「頭上の惨劇にご注意ください」は、一歩間違えば大惨事だったって言うのに、実行した相手に反省の色が見えないのがなぁ。
「嫁と竜~」は……マニアって業が深いものですよね……結婚早々こういう話題になるってことは、今後も大変だと思いますが、どうなるやら。
「今日から彼氏」は、葉山君に彼女が出来る話……なんですが。
相手は柳瀬さんではなく。向こうから声を掛けられて、という時点で怪しさはあった。
事件を引き寄せる彼は、こんな時でも変なものを引き寄せるんだから、流石というかなんというか。
ピンチのところに駆けつけて、助けられてるって葉山の方がヒロインだったかな……みたいな感じですが。柳瀬さんが格好いいから仕方ない……
葉山君はもうちょっと頑張れ。
「……子供、って、そんなに欲しいものですか」
(略)
「いなくてもいいと思う人はいるだろう。だが失っていいと思う人はいない」
伊神は卒業し、葉山は進級した。
美術部には新入生が入らなかったが……曲がり角でぶつかった少女の悩みを解決したことで、部室に一人って状況は減ってましたな。
まぁ元々、あちこちの部活から相談とか持ち込まれて彼が一人でいる場面って少ないですけど。
入学以来、怪しい男に後をつけられているという一年女子の佐藤さん。
ストーカー撃退に動き出してますが、世の中にはヤバい連中たくさんいるから、もうちょっと気を配ったらどうかな……
心配にはなりますな。演劇部のノリの良さは素晴らしいと思いますが。
ストーカー騒動以降、少女は美術部に入り浸ってるわけですが……
葉山君の学園生活も大概波乱万丈だよなぁ。なぜ教師の目を盗んで交錯する羽目になったり、脅迫を受ける目に合ったりしてるんだろうか。
変わった学友が居て、変わった出来事に巻き込まれる星の元に生まれたんだとしか。
巻き込まれるだけじゃなくて、ちゃんと近くに答えを出してくれる名探偵がいるあたりまだ運には恵まれてる方だと思いますけど。
恋愛の相談など友人にするものではない。そういう相談は親友にするものである。
次に出た「新学期編」と合わせて前後編の構成なんですよね。
タイトル通り、卒業式までのエピソードで、頼りになる探偵役の伊神も卒業する事に。
まぁ、今度も折に触れ葉山君が事件に巻き込まれて、相談を持ち掛けるので頻繁に登場するんですがね……
伊神のスペックなら不思議はないと言えますが……よく時間確保できてるよな大学生……
閑話休題。
葉山君が幼少期に書いたラブレター。
それをみた友人たちに閉じ込められた葉山君が脱出するために頭を凝らした謎をとく「あの日の蜘蛛男」。
そして再登場が早かった、葉山君の初恋の相手渡会千尋が登場する「中村コンプレックス」。
彼女は、愛心学園の生徒で。そこの吹奏楽部の部室に張られた「東雅彦は嘘つきで女たらしです」という怪文書を張った犯人として名乗りでたと言うが……
「猫に与えるべからず」は、実家で猫を飼ってるので、判りやすかったと言いますか。
当然気をつけないといけないことですからね……
四話目は卒業式のエピソード「卒業したらもういない」。
伊神は式の最中はいたはずなのに、退場の時には見失ってしまい。
葉山君が伊神を探してあちこち走り回ってますが。「卒業生は後輩に何か、残していかないと」という理由で開かずの部屋とかまで駆使して振り回された葉山はお疲れ様……
「葉山君、どうやら、謎が解けたぞ」
それを聞いて、僕はずっこけそうになった。……この人、スーパーコンピューターどころじゃない。
積読に埋まっていた最新刊を読むにあたって、既刊読み返しー。
1巻の刊行2007年ですって……凄い懐かしかったです。
「芸術棟」と呼ばれる建物がある、市立高校が舞台です。
もっとも、この芸術棟って何かに使うだろうから作ったけど、用途不明で文系クラブが占拠して部室を確保したので芸術棟と呼ばれてるだけらしいですけどね……自由だな……
市立高校では、この芸術棟にフルートを吹く幽霊が出るという噂が立って。
それを怖がった部員が練習に来ない、と吹奏楽部の部長が悩み……じゃあ幽霊が出ないことを証明しようと、夜芸術棟に残ると言い出して。
いい加減な顧問から芸術棟の鍵を預かり、戸締りを委任されている葉山も、夜の見張りを手伝う事に。
幽霊なんかいないと思っていたものの……葉山たちは、フルートの演奏と幽霊の影を見て。
翌日調べてみると、演劇部の部室に泥棒が入った、という話だとかも聞こえてきて。
文芸部の伊神部長が探偵役として、謎を解いたと思ったら……また別の幽霊が出てきて。
なんだかんだでノリがいい学生がそろってるなぁ。柳瀬さんとか結構面白いキャラで好きです。
東は痛い目見ればいいと思うし、三野はちょっと視野狭かったんではと心配になりますが。
「誰かに傷つけられた怒りや恨みを、その相手に似た誰かにぶつけるのって、簡単で楽な方法なんだよね。感情の処理の仕方として」
(中略)
「だから、そういう方法を取る人が、早く違う方法を見つけるといいなって願うばかりだけど。高畑君もさ、そういう人たちを見て絶望するんじゃなくて、自分に希望を感じさせてくれるものに目を向けて、それを大事にしたり、誇りに思ってみたらどうかなぁ」
一つ屋根の下で暮らす人々のアンソロジー。
読書メーターで他の方の感想を見ると、なんかスピンオフな短編を乗せている人もいるとかなんとか。
正直三上さん目当てで買ったからなぁ。
その内手を広げていきたい、と思わないではないですけど。
正直現時点で部屋に積読の山があるので、あれを消化しないことには、手を広げたら死ぬ。財布的にも、積読の消化率的にも。
流石にプロの作品。
同じテーマで手を変え品を変え魅せてくるというか。
それぞれの作家さんごとに個性が出てて、面白いは面白い。
掲載作の中できにいったのは、徳永圭『鳥かごの中身』、三上延『月の砂漠を』。
その次に飛鳥井千砂『隣の空も青い』ってところでしょうか。
『隣の空も青い』は、まとめると仕事と私どっちが大事なの、みたいな話といいますか。
すれ違いを感じ始めていたところに、出張の話が急にはいってきて、同僚と同室で過ごしながら、色々と考えていく話。冒頭に引用したセリフはこの作品からですねー。
ストーリーより、キャラの会話っていう要素がいい感じではないかと。
『鳥かごの中身』は、アパートの別の部屋で暮らしている少女。
母子家庭で母が帰ってこない。途方に暮れている彼女を青年は保護した。
少女を助けたつもりだったけレ度、交流を通して助けられていたのは彼の方だった。
まぁ、いい話だと思いますが。これ、一歩間違えると「少女を部屋に連れ込む事案発生」と警察直行コースだよな、ってツッコミ入れるのは野暮なんだろうなぁ。
『月の砂漠を』。
地震で妹を亡くしたのちに結婚した姉。
相手は妹の婚約者であった。亡くなったことを割り切れず悩んだり、とモヤモヤする部分はありますが。
色々と規約があって面倒な、住宅。どうしてそこを選んだのか。
ちゃんとキャラが立っていた感じがして好みではありました。
個人的には、作品ごとの色が違うので、評価上下して、平均するとなんかパッとしなかったかなぁ、みたいな結論になってしまうのがアレですけど。
まぁ、どれか1作くらいは気に入る作品あるのでは。
好きな作品と、そこまででもない作品が入り混じっていることがあるから、アンソロジーって難しいです。いや、気になって手に取っている以上、文句家立場じゃないと思いますがね。
ちゃか
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