「司書さん。その本は――魔導書は。貴女が完璧に直した場合、戦争に使われるかもしれません。それでも、やりますか?」
(略)
「殺すために直すんじゃない。直した結果がそうなるとしても」狩あの声には逡巡も恐怖もあった――しかし、覚悟と意思も同時にあった。「この子を――本を治せるのは、島なんじゃないが今この国にあたしだけだ。だから、やめない」
人が科学の道へ進み、様々な神秘はそのまま歴史に消えていくはずだった。
しかし、人類が忘れつつあった魔力を操る魔族とその集まりである魔王軍との戦争がはじまってしまって。
魔王が三か月おきに放つ「魔王雷」によって各国の都市が破壊されていく中、人類は神秘の残滓である「魔道具」や「勇者」という存在を頼って戦争を続けていた。
そんな中で新たに注目されたのが、『魔導書』と呼ばれる遺物であった。時の流れの中で破損してしまっているものの、修復すれば魔力持ちの扱える武器になるだろうと期待されていた一品。
しかし、魔力を持ちつつ稀覯本の修復技術を身に着けている人材なんてそういるハズもなく……帝国の皇女の友人であった、本を愛し、それゆえに職を失った主人公、女司書カリア=アレクサンドルが「魔導司書」という役割を与えられて戦場に送られるわけです。
『凄惨な光景、残忍な高位。だが自分は本を読んでいるのだからまだ人間なのだ』という名言を作中の将軍が遺していたとか。どうしたって命の奪い合いをする場であるけれど、人間であろうと踏みとどまっている覚悟が分かる。
他にもカリアの属する帝国、ひいてはそこが属する連合王国においては前線基地に図書館を設置し、兵士のメンタルケア用の施設としていたそうで。実際に作中で効果出ているのを見ると、良いなぁって思いますね。読書好きとして設定が刺さる作品でした。
カリアが着任した当初の、第11前線基地の図書館は前任の役職持ちが戦死した為に無法地帯と化していましたが。兵士たちに一歩も退かず、ルールを守らせるように動いたカリア、良かったですねぇ。
本の延滞なんかも日常茶飯事で「明日戦場で死ぬかもしれないんだぞ」と言ってきた相手に、「その本には予約が入っていて、同じ境遇の相手を待たせている」と言い返したシーンが好きです。通常の司書としての業務を行う傍ら、「魔導司書」としての仕事もしっかりしていて……。
あくまで本を愛しているだけの女性だったのに、戦場での命のやり取りに触れることになって、感情を揺さぶられながらも役割を全うしたカリアが良いキャラでした。
図書館利用者の兵士たちも、戦場である以上一回登場してから「次」が無かったりするんですが。彼らの心の支え、その一つに本がなっていたのは間違いなくて、痛くも面白いストーリーが描かれていて良かったですね。