「……で、ご用件は?」
創元推理文庫
「……で、ご用件は?」
「わかった。わたしがあなたを、助けてあげる」
ついに出た、小市民シリーズの最新刊!
実に11年ぶりだそうです。え、11年。そんなに……? でも秋期限定はリアルタイムで買ったから、そんなもんか……
今回は短編集で、公式Twitterによれば『冬季限定』は別に出す予定とのこと。ここにきて新刊が出たので、まだ待てる。
二人がまだ1年生だったころの秋から冬にかけてのエピソード。
小さな事件が4つ、収録されています。『巴里マカロンの謎』、『紐育チーズケーキの謎』、『伯林あげぱんの謎』、『花府シュークリームの謎』。
前三篇はミステリーズに掲載されていたもの、最後一つは書き下ろし。
待ちきれなくて、雑誌購入していましたが。『巴里マカロン』が初回2016年だからやはり4年ほどはかかる訳ですね……
『伯林あげぱんの謎』と『花府シュークリームの謎』が好きですね。特に後者の最後で、小佐内が珍しい姿を披露していて、可愛かったです。良かったね……
新規オープンした店舗を訪れて、マカロンを3種類選べるセットを注文した筈なのに……気付いたら更に4つ目が乗っていたり。
他校の文化祭で、小佐内さんが生徒に連行されて。手がかりを求めて、小鳩くんが消えたCDを探す羽目になっていたり。
相変わらずの日常で起きた謎に、筋道をつけて辿り着くのがお上手というか。二人のやり取りが楽しい。
「どちらかといえば、反対」僕は言った。「でも、亜理沙が自分で考えて決めたなら、どっちでも応援する」
「不正指令電磁的なんとか」、「的を外れる矢のごとく」、「家庭用事件」。
「お届け先には不思議を添えて」、「優しくないし健気でもない」。
以上五話を収録した短編集となっております。
葉山君が一年生一月の頃のエピソードから、収録してある最後の話の時点では二年生の十二月になっていたり、とどんどん時間は過ぎていますが……
葉山君は、変わらないなぁ。
高校に入学し、不可思議な事件に巻き込まれて。
『頼まれ葉山』なんて、あだ名がついたりしているとか。人がいいですからね……
携帯のデータ飛ばされたらもっと怒っていいと思うよ……?
卒業してからも、謎があると呼び出される伊神さん。まぁ、本人も楽しんでるからいいでしょうけど。
後輩たちから「そうだね。召喚しようか。あの人」「えっ? 何?」「式神か何か?」「人間離れしてますが人間です」とか言われる伊神さんよ……
今回掲載の話で一番楽しかったのは「お届け先には不思議を添えて」ですかねぇ。
OBたちが隠したかった過去の話、というか。いったい何をやってるんだ、みたいなオチがつくんですが、他人事だと笑えてしまいますねぇ。本人たちは本当に死活問題だったんでしょうが。あとがきでシリーズはまだまだ続く、と書いてありますので、7巻を気長に待ちます。
……これから警察に行く。決着をつける。ずっと昔から、この学校に取り憑いていたものに。
葉山君たちが通う市立高校には、七不思議があるとか。
超自然現象研究会なる集まりが「七不思議」の特集を発表したと思ったら、それにまつわる悪戯が発生して。
……取り上げられた七不思議の内、4つまで関わって事情を知っている葉山君は相当に変わった高校生活を送っていますよねぇ……
しかし「カシマレイコ」の件は放送室にパソコン置いて、放送されるように準備しただけでしたが……
口裂け女は、鍵の施錠が甘い部室などに入り込んで、演出するというもので。
演劇部だったら、小道具のマネキンの首をとり、マスクをつけ「わたしきれい」と文字を残す。鎌まで買ってきておいてあるあたり、細かいことに拘ってはいますが……
ジョークにしては趣味が悪いな、という感じ。
葉山君は、これまでの事件で慣れてるのか、また色々と捜査しています。
ただ、慣れてはいるけれど葉山君は決して名探偵ではないので、一部分は分かっても真相にはたどり着けず。
結局伊神さんに頼ることに。しかしまぁ、伊神さんはまた相変わらず気ままな生活していると言いますか……普段の食事はカロリーメイト、料理は気が向いた時。だから調味料も、最低限……どころか、醤油すらないとか、ツッコミどころばっかりだな……
とはいえ、伊神さんの方も葉山君の事よくわかってるので気を使ってくれたのは良かったかなぁ。
「それなら、先に君に真相を話しておくよ。君はいま言った七人の中から、呼ぶべきだと思う人間だけを呼べばいい」
と事情を聴き、三つの不思議の内のひとつの謎を解く、という場面で葉山君の判断に任せたのは、少し変わったのかなぁ、とか思ったり。
そうして、七不思議について調べて、今回発生した悪戯の謎を解き明かして……そこからさらに別の真実が導き出される、という展開は中々面白かったです。
まぁ、間に合わなかった部分もありますが、闇の中に葬られてしまうよりは、救いがある結末になったのではないでしょうか。
「ぼくにとって小佐内さんは、必要だと思う」
(略)
「うん、小鳩くん。また一緒に居ようね。たぶん、もう短い間だけど」
新聞部で取り上げていた連続放火事件はどんどんエスカレートしていき。
部長に就任した瓜野くんは、記事にするだけでは飽き足らず、自ら怪しいと踏んだ現場に張り込みまでしてました。
……瓜野自身も、もう止まる事なんて出来ないとこまで行ってるなぁ、という感じで。危うさばかりが目につきます。
小鳩君の恋人仲丸さんが、二股をしているという話を聞いて……
それでもそれまでと変わらない関係を続けられるあたり、小鳩君中々神経太いというか、大人物ですよね……
顔は覚えていたけれど、名前もよく知らないクラスメイトの告白を受け入れるくらいだから、まぁ、彼らしいと言えば彼らしいのかもしれませんが。
結局、変わらないままの小鳩に業を煮やして、仲丸さんから別れ話を切り出されてました。
……そんな小鳩君が、小佐内さんとの会話の時には、最後まで言わせるわけにはいかないと気を利かせてましたからねぇ。本当にもうあの小市民コンビは……
別口で連続放火事件を負っていた小鳩君と、小佐内さんと……新聞部の瓜野君。
小鳩君が犯人を追い詰めた脇で、瓜野君は見事誘導されて、全く違う答えを出して、追い詰められてましたねぇ。
まぁ、最初から役者が違うって言うのは分かっていた話ではありましたが。
そして、結局一年かけて小市民たちは元の形に戻ってきましたが……既に彼らも受験生。
残り僅かな時間の中で、さらに彼らの関係が変化するなんてことがあるだろうか。
冬期限定に期待したいところですが……未だ刊行されてないんですよねぇ。最近ぽつぽつとミステリーズに短編が乗っているので、書籍化を待ちわびているんですが。
さて、あと何年待てば、続きが楽しめるだろう……何年でも待つつもりではいるんですがねー。
「甘い衣の上に衣をまとって、何枚も重ね着していって。そうしていくうちにね、栗そのものも、いつかキャンディーみたいに甘くなってしまう。本当はそんなに甘くなかったはずなのに、甘いのは衣だけだったはずなのに。上辺が本性にすり替わる。手段はいつか目的になる。わたし、マロングラッセって大好き。だって、ほら、なんだかかわいいでしょ?」
別々の道を進む小鳩君と小佐内さん。
誤魔化しの技は磨かれていたので、特に大過なく日々を過ごしているようですが。
それぞれに告白して来る物好きな相手がいて。
……いやまぁ、二人の本性を知らなければ、それこそ無難な相手に見えるのかも知れませんが。
春期、夏期を見た側からすると、素人が手を出すと危険だぞ、と止めたくなるような。
小佐内ゆきに近づいたのは、一年生の男子。
小鳩の友人、堂島健吾が部長を務める新聞部に入っていますが……去年と似た記事を書くだけの部活に飽き飽きしていて、もっと違う事をしたい、と主張する子。
その題材に、最近あったって言う「誘拐事件」を持って来ようとするあたり、向こう見ずというか。石橋を叩いて渡るって諺を彼に送りたい。
壊れかけのつり橋だろうと構わずダッシュしそうで、見ていてハラハラします。
小鳩にラブレターを送ってきたのはクラスメートの少女。
夏休み以降、小佐内と行動する事が無くなって別れたなら、私とつきあっちゃおう、と割と軽いノリで交際がスタート。
文化祭やクリスマスと言ったイベントを共に過ごし、初詣にも行き、恋人らしい交流をしております。
ただまぁ、そんな中でも、小鳩君は気が付くと謎を見つけ、解こうとしてしまって。
そして時間が流れて……小佐内の恋人、瓜野君は市内の連続放火について新聞に載せたりして、どんどんとエスカレートしていってます。
連続放火の内の一件が、夏に小佐内をさらった連中が使っていた車を標的にした、という事を知り小鳩も少し興味を持ち調べ始めていますが。
春期、夏期は互恵関係の二人が中心だったので、ある意味では安心感がありましたけれど。今回はそれぞれの恋人という、どういう動きをするか分からないキャラが居て、心配でならない。
「ところで、ナンバー7.最良の嘘ってのは、どんなものだと思う?」
「最良?」
「そう。もっとも優れていて、もっとも強い嘘。そいつは意外に、真実なんじゃないかと俺は思うよ。これだけ嘘であふれた試験だ。本当のことまで嘘に聞こえる。誰もが嘘だと思っている。でも、実は真実だ。そんな言葉が最良なのかもしれない」
発売直後に購入してはいたんですけど、感想書けてなかったので。
都内に足伸して、サイン本を無事にゲットできたので満足しております。
世界的な大企業ハルウィンが「4月1日に年収8000万円で超能力者をひとり採用する」という正直ドッキリ企画だろ、みたいな告知を出して。
当然応募してくる「自称・超能力者」は多数いるわけですけれど。審査を経て7人にまで絞り込まれた候補者たち。
採用の前日、3月31日に街中で行われる最終試験に臨むことに。
たった1通の採用通知書。それを試験終了までに、所定の位置で待機している係員に提出する、という簡単なものですが。
まぁ、破格の条件ですし参加者はそれぞれに目的があって、「超能力者」としてこの試験に参加しているわけで。
嘘吐きばかりで、騙したり騙されたりして、時に協力したりもしていましたが。
作中には何人か自称ではない「本物の超能力者」も登場して。
その能力は、万能ではなく使い勝手が悪いものもありましたが、中々便利そう……というか超能力者が居るミステリってのが中々新鮮。
トリック偽装し放題だな……とか思いましたけど。タイトルにある通り「嘘」をいかにして扱うか、って部分が肝で。
それぞれにとっての最良を目指す、彼らの試験風景は呼んでいて中々楽しかったです。
「ぼくは、ぼくたちが一緒に居る意味はないとは思わない」
(略)
「ただ、効果的ではなくなってると思う。確かに、小佐内さんの意見には一理あるみたいだ」
夏休みに入り、互恵関係を続けている小鳩くんと小佐内さん。
初日に、お菓子屋さんの分布を記した地図を小佐内さんが持ってきて。
「小佐内スイーツセレクション・夏」。ベスト10だけではなく、選外ながら注目店をランクA~Bでリストアップしている渾身のデータ。
第一章「シャルロットだけはぼくのもの」は、小鳩君が小佐内さんと二人きりだったから、つい知恵試しをしようとして……あえなく失敗。
その代価として、あまり乗り気ではなかったスイーツセレクション制覇に付き合わされることに。
夏休みにまで積極的に交流する理由はない……はずなのに、何度も顔を合わせている。簡単な謎かけを出されることもある。
小佐内ゆきという人物は、果たして無意味に無目的にこんなことをするだろうか、と小鳩君の中で疑惑の念がどんどん膨れ上がって。
「何かを企んでる」という推測を立てていましたが。
実際、彼女は彼女の本質に従ってある行動をしていて。なるほど「狼」と例えられるわけだ、と言いますか。
互恵関係にある二人は……共にあることに安心感を覚えたり、その関係に甘えたりしていて。……けれど、相手の事を知っているから、甘えてしまうから。
二人でいる時に、それぞれの本性がこぼれることもあり……互恵関係の限界を見た二人は、別々の道を進むことに。
頭の回転は速い筈なのに、何とも不器用な感じがしてならない。まぁ、これもある意味彼ららしい青春模様なんですかねぇ。
「じゃあ、始めよう。ぼくが思うに……、これは推理の連鎖で片がつく」
恋愛関係でも、依存関係でもなく互恵関係を維持している小鳩君と小佐内さん。
高校一年生になり、これまでの自分達を隠そうと「小市民たれ」という目標を掲げている二人。
小鳩君の方は、頭の巡りが良く、探偵役よろしく謎を解くことが出来るけれど……「知恵働きはやめた」と宣って。
けれど、三つ子の魂百までと言いますし、それっぽい状況があればつい謎を解いてしまう
基本的には、日常の謎系のミステリーですねー。
無くなったポーチを探したり、美術部の卒業した先輩が残した絵の謎を解いたり。
日々の平穏を求めているはずなのに……二人は、どうしても、自分を抑えることが出来ずに行動に移してしまう事が多々あって。
推理を好む小鳩と、復讐を好む小佐内。
日常を過ごす分には、この二人の結んだ互恵関係は、割れ鍋に綴じ蓋って感じで上手くかみ合ってましたが。
あくまで小市民たらんとする共通の目的を掲げた二人の、利用しあう関係であって。相手を束縛するものではない。
だから、相手が下りるなら止めない、というドライな面も。お互いに判り合っている二人の会話が、好みなんですよねぇ。
短所を直そうと口にはしていましたが……筋金入りだから、曲げるのも一苦労だと思いますがねぇ。
「……きみの考えてることくらい、分かるんだよ」
(略)
「私が半分、背負ってあげる。もし駄目だったら、一緒に落ち込もう」
文化祭目前のある日、生徒たちが登校するとそこには変なイラストが描かれた張り紙があちこちに張られていて。
目つきが悪いピンクの、ペンギンとも天使ともつかないそれ。
美術部には絵を描く天使、奇術同好会にはシルクハットから鳩を出す天使、とデザイン違いのものを何枚も。
その目的は不明なまま……天使はどんどん増殖していって。
そんな中で葉山君がまた厄介ごとに出くわしたりしていますけど……彼はなんだ、そういう星の元に生まれたのか。
変な張り紙を張るだけならいたずらとして笑ってみていられたけれど、HPの改ざんをしたり、科学準備室に侵入したりと、冗談で済まない様子になってきて。
食中毒騒ぎを起こす気かもしれない。犯人を文化祭までに捕まえるのは、簡単ではない。
葉山君はまた一人でグルグルと悩み……先生に相談して、飲食系の出し物を中止にするという方向に。
……クラスメイト達の努力を水泡に帰す報告をしたことに、かなり気落ちしていましたが……そこに柳瀬さんが来て彼に手を差し伸べて。
いや、格好いいなぁ、本当。そして、感極まった葉山君に抱き付かれて照れてる場面は可愛かった。いいキャラしてますね、本当。
各章AパートBパートがあって、視点が切り替わりますが……そこにも仕込みがして会って。すっかり騙されました。
「天使」事件の本当の目的は、実行者たちにとっては大切な……とても些細な願いで。こういう遊び心ある事件は、好きですねー。
ちゃか
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