「俺だって好きで殺してる訳じゃない」
誰にいうのでもなく、ウォルムは小さく言葉を放つ。実に滑稽だ。皮肉だ。死体で埋まった森の中では誰も信じてくれない。人類の天敵種たる魔物だけと戦ってさえいればこんな葛藤をしなくて済むが、ハイセルク帝国の兵士となってしまったウォルムには、考えても仕方ないことだった。
平凡な会社員だった主人公が病により倒れ……気が付いたら異世界に転生していた。
ウォルムという名で農民の三男として生まれた彼は、家族への支度金と引き換えに兵士として前線に送り込まれる事となって。
スキルや魔法が存在する世界ではあるけれど、一介の農民だったウォルムには縁遠いもので泥臭く戦い続ける毎日。
同じ分隊に所属していた顔見知りが死ぬのなんて当たり前で、拙い言い訳をする捕虜が居たとしても私怨では殺さない。
あくまでもこれは戦争であり、自分は兵士であるという立場を崩さないウォルムの在り方は戦地にあって尊いとおもいますが……。
繰り返しになりますが、これ戦争なんですよね。彼個人が品性までを捨てたつもりがなかったとしても。
敵側にだって退けない理由を抱えた人は居て、同胞の命を奪いに来るわけですよ。そうやって多くの死線を潜り抜けていく中で、ウォルムは戦士として成長し才能を開花させていくわけですが……。
強力なスキルを与えられた転移者が存在していたり、個の武勇では超えられない事態に遭遇したりもするわけです。
これは決して華々しい戦いではなく、むしろ真逆の泥臭く澱んだ空気さえ感じられる戦記物であり、ウォルムの道行きの厳しさに思わず天を仰ぎたくなる気持ちになることも。
そもそもが彼の生国であるハイセルク帝国が、帝国とは名ばかりの小国であるために課題が募るばかりなんですよね……。
幸せになってほしいとかよりもまず、どうか生き延びて欲しいという感想が第一に来る戦物語。お好きな方は是非。