気ままに読書漬け

とりあえず気が向いた時に読んだ本の感想などを上げてます。ラノベメインに、コミック、TRPGなど各種。推しを推すのは趣味です。 新刊・既刊問わず記事を書いてるので、結構混沌しているような。積読に埋もれている間に新刊じゃなくなっているんですよね。不思議。ま、そんなノリでやっているブログですが、よろしく。 BOOK☆WALKERコインアフィリエイトプログラムに参加しております。

単行本

鬼人幻燈抄 昭和編 花街夢灯篭

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「未練に足を引かれながらここまでやってきた身だ。忘れろなどとは口が裂けても言えん。それでも、区切りというのはどこかで付けないといけないのだと思う」

「だから、けじめですか」

「ああ。そして恋の話だ」

 

夜の女が集まる鳩の街。かつて存在した花街ではあるが……売春禁止法の施行によってすべての業者が撤退し、その役割を終えた街。

しかし甚夜は消えたはずの鳩の街に「花の名前を冠し、特殊な力を持つ娼妓」の噂を聞いて……。

花街特有のドロドロはなく、悩みを抱え迷う女が行き交う不思議な街がそこにはあった。

 

そこで甚夜は確かにマガツメの娘、七緒を見つけて。

青葉という少女や、ほたるという娼妓。一線引いて人々を見守っている店長なんかと交流しつつ、真相に近づいていくわけですが。

南雲みたいな分かりやすい悪役が、悪意を持って作り上げたというわけでもなく。夢みたいな空間で、本来会うはずが無かった人々の縁がたまたま結びついただけ、みたいな感じで全体的に穏やかに進んでいってましたね。

 

七緒もマガツメの娘ではあって、鬼の異能は持っていたけれど……マガツメが切り捨てた感情の中でも、特に遠ざけられるようなものが根幹であったから、最後に「同化」することになってましたが、そこに至るまでも少しずつ会話して相手の事を知っていく、という流れでしたし。

 

店長相手に甚夜が、探していた娼妓は姪だが、妹と折り合い悪いから顔を合わせたくはなかったと愚痴をこぼししていたシーン。それなのになぜ探したのか、と問われて「……多分、迷っているからだろう」と返した場面が結構好きですねぇ。

様々な出来事を過ごしてきてなお、彼の心は定まっていない。どこぞの剣鬼に言わせれば濁った剣でありつづけてた。ただ、今回のエピソードでそんな迷いの中にある濁った剣だからこそ「斬らない」未来を選べたのは彼らしくて良かったですね……。

 

まぁその結果、しばらくキネマ館へ帰還できない状況に陥っていたのは彼の失態ですが……。

甚夜が「刀さん」してる時のやよいちゃん達との交流のシーン、ほのぼのして好きなんですよね。彼の人の好さが出てますし。

あとはいろいろと事情を察しつつも、はっきりと告げることはせず胸に秘めてくれた店長さんのキャラが地味ながら良い味してて好きでした。


君の膵臓をたべたい

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「生きるってのはね」

「…………」

「きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ」

 

主人公の少年は病院で1冊の文庫本を拾う。

それは、クラスメイトの少女が綴ったある秘密に端を発する日記で。

親しくしている友人もなく、いつも一人でいた「僕」が少女と交流してく中で影響を受け、変わっていく。

 

ヒロインの桜良が自身の状況に挫けず―少なくともそれを表に出さないように努力を重ねて―必死に生きていく姿には胸を打たれる。

彼女との交流は、予想がつかない方向へ転がることもあり、騒がしく楽しく、そして終わりが決まっている切なさ。

そのあたりが上手くブレンドされて、良質な青春小説になっていると思います。

 

秀逸だと感じたのは、あくまでこの話は僕と彼女を中心にしたものとして終わっているところ。

彼女の事情とは全く関係ない処からやってきた終わり。要素だけ拾えば、このくだりを最初に持ってきて、犯人捜しをするミステリーとして描くこともできなくはない。

でも、そうした事情は枝葉末節で、誰がとかどうしてとかは触れられず。ただ結果だけがあって、それを受けてどうするかという「僕」の話としてまとまっているのが良いなぁ、と思いました。

 

あと主人公の母親が、多くを語らず、でも自分の息子のことを信じて見守ってくれていた事だとか。

桜良の母が、「僕」のことを受け入れ本を託してくれたことだとか。

喪われてしまったものは確かにあるけれど、彼の周りには優しさが溢れていて、傷を負った彼をしっかり受け止めてくれたことには安堵しました。

良い話だった、と素直にそう思います。

君の膵臓をたべたい
住野 よる
双葉社
2015-06-17
 

文豪ストレイドッグス外伝 綾辻行人VS京極夏彦

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「探偵冥利に尽きるというものだ」

 

文豪がイケメン化して異能力バトル、がコンセプトの文豪ストレイドッグスの外伝。

今回は、現代の作家である綾辻行人、京極夏彦、辻村深月と豪華なメンバーをキャラクター化させて原案の朝霧カフカが小説家しています。

各作家さんからの推薦文も帯には入っていましたね。

 

殺人探偵・綾辻行人。異能課所属のエージェントで綾辻の監視役の辻村深月。

そして多くの人を焚き付け、知識を与え犯罪に導くが、自分の手を汚さぬ黒幕、京極夏彦。

この中で何がひどいって「殺人事件の犯人を見抜くと犯人が必ず事故死する」という綾辻の異能でしょう。

 

発動したら回避不能の因果を縛る異能。事件を起こした犯人にしか使えないという限定的な異能ですが……

限定されているだけに、逃れようがないというあたりが恐ろしいなぁ。

事件の真相を見抜く観察眼と知識もしっかり持っているので、的確に犯人を見つけてしまうあたり、異能課もかなり扱いには困ってるんだろうなぁ。

実際、定期的に「危険だから処分するべき」という議案が出されているそうですし。

 

殺人探偵と呼ばれる綾辻に教唆した犯人を仕掛けて楽しんでいる黒幕の京極夏彦も中々いい感じでした。

悪役としての迫力がちゃんとあった、といいますか。自身の異能と知識をよく把握し、それを十全に使いこなしている。……使いこなして犯罪教唆するんだから、殺人探偵とどっちが厄介か、って話なんですけど。

 

その二人の対決に巻き込まれ、振り回されるエージェント辻村。

彼女は異能を制御出来ていない状態で。……それが伏線になっているとは思いませんでしたねぇ。

京極の仕込みだろう内通者の存在については割とすぐにわかったんですけど。配役的にこの人が適しているなぁ、というだけの話ではありましたが。

それぞれのキャラクターが上手くかみ合って物語が回っている感じがして、良かったです。

 

 

江ノ島西浦写真館

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「その服は桂木さん自身が選んだんでしょう。どんなものであれ、自分の意志でしていることには価値があると思います」

 

「ビブリア古書堂」の作者の新作。

舞台はビブリアと同じく鎌倉ですが、こちらはタイトルにある通り江ノ島がメイン。

亡くなった祖母が運営していた写真館。

孫の繭は、遺品整理のために館主の死と共に歴史に幕を下ろしたその場所を訪れる。

 

彼女自身、かつては写真が好きで、色々と撮っていたがある失敗をしたために写真から離れていた。

本当は母も来るはずだったが仕事の都合で、来ること叶わず。彼女は一人、残された物を整理していく。

そして見つけた注文されたものの取りに来ない「見渡し写真」の缶。タイミングよく一人受け取りに来たことを皮切りに、彼女はそれらの写真に隠された謎を解き、自身の過去と向き合うきっかけを得たりするわけなんですが……

 

全体的にもやもやすると言いますか。

繭のやらかした過去は確かに、カメラを置く決断するのも納得できる感じでしたが。

納得しやすいのは、彼女の過去ぐらいで、真鳥家の問題なんかはちょっと大事過ぎるというか、無茶が過ぎる感じがしたのは残念と言いますか。

普通だったらそこに切り込まないだろう、ってところに踏み込んでいくあたりは好ましくはなかったかな。

結果的には上手くまとまった感じがしてますが、実際なんの解決もしてないような気がしますし。

繭の大学での知人から「(前略)言うことがいちいち無神経で、敵の多い人だったよ。俺も君のことは嫌いだった」と評されたところから変わってないんじゃないか、と思えてしまう。

最後、過去起こしてしまった過ちとそれによって傷付けた相手と対面する場面で終わってますが……傷を広げないことを祈るばかりです。

 

 

ウユニ塩湖 世界一の「奇跡」と呼ばれた絶景

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「旅に出るすべての人に勧めたい。
そこには汚れたモノなど何もなくて、
ただ、圧倒的な美しさと
世界の大きさにココロを救われる。」
     ――ある世界一周者の言葉

ジャンルに困ったので文芸に入れたけど普通に写真集っていうか旅行書っていうか・・・
実際にウユニ塩湖を訪れた100人の旅人がとった写真から選りすぐった写真と、感想の言葉が乗せられた写真集です。
後半には、遊んで取ったネタ写真なんかも乗っていて笑えます。
まぁ、それはさておき。

もう一言、美しいとそれだけしか出てこない。
世界一の絶景と言われるのも納得できる感じです。
限られた条件下でしか見られない、鏡張りの空。

そもそもが高地にあるので行くのも大変。
弾丸ツアーのプランが紹介されていますが、適応も考えて最低7日とか取らないと大変なようで。
近場に空港ができたから、これでもマシになったとかなんとか。
昔は、悪路を13時間バスに揺られないとたどり着けなかったそうで。
それでも30時間近くはかかるようで何とも大変な道のりです。
日本から直通便もないのでいろいろ回らないといけませんし。

けれど、多分そこまでしてでも行く価値はある場所なんだろう、と写真を見て思います。
死ぬまでに、一度は行ってみたい。そう思えるのも確か。
写真でも十分にきれいだけれど。本物を見ることができたら、それはどれほど美しいんだろうか。
良いなぁ・・・

 

紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場

「8号(出版用紙を製造する巨大マシン)が止まるときは、この国の出版が倒れる時です」

本の紙を印刷している工場は、石巻にあった。
……当然、あの震災の折には被害を受けたわけで、復興は難しいかと思われた。
しかし、この工場は生命線のようなもので、ここが止まってしまうと、大変な事態になる要所でもあって。

東北で紙が作られているなんてことは全く知らずに読みました。
表からはわかりにくいものだけれど、紙がないことには本は成り立たない。
それを理解して、半年復興を誓って行動を起こしていく人々の姿は、格好いいし、目の前の問題に言い訳も妥協もせず目的へ向かう行動力に学びたいとも思う。

工場から出る白煙が好きではなかったという人がいた。
しかし、震災後なくなってみると寂しいものがあり、煙突から煙が出始めたのをみて勇気づけられた、というメールも届いた。
被災したとき、家を、家族を、命を失くしたものと、残したものがいて、それぞれ何らかの複雑な感情があって、仕事に明け暮れていた。没頭できる何かがあるのはむしろ気が紛れた。
いい話ばかりではなく、被害を受けて流出した備品の回収に赴いた際、瓦礫処理も同時に行っていったら、話に尾ひれがついて広まり、仕事が増えた話。やり場のない怒りがぶつけられた話なんかも書かれていた。
美談でまとめるのではなく、あの当時に起きた事を書き連ねてある姿勢には好感が持てる。


ブランコ乗りのサン=テグジュペリ

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芸のために、捨てられるものの多くを競う私達。若さ。時間。肉体。感情。青春と呼ばれる日々。
そしてそれと引き換えに手に入れるのはひとつだけ。
「美しくありなさい。ほんのひとときで構わないのです」
私はまぶたをおろし、ひととき、という言葉を考える。
「そのひとときだけが、あなたがたを、永遠にするのですから」
そうして、永遠を手に入れた者は、その先に何を見るのだろう。(後略)


天災後に設置された、復興のためのカジノ特区。
そこにある、少女サーカスの物語。
少女たちの、想いが痛いほど伝わってくる文章。
誰もが真剣で、形は違えど、逃げていないんだろうな、とそう思いました。

サーカスの演者たちは、過去の作家の名前を襲名して演技をしていた。
ブランコ乗りはサン=テグジュペリ。
猛獣使いはカフカ。歌姫はアンデルセン。
他の生き方を知らないといい、人生を、命を、全てを賭けている少女
その身と愛情でサーカスを守る決意をする歌姫。

サン=テグジュペリを襲名した少女は、練習で失敗し怪我を負う。
舞台に立てない間、彼女は双子の妹に代役を頼む。
姉は曲芸学校に通い、演者となるために全力を尽くしていた。
妹は、学校には通っていなかったが、その天賦の才で演技を行うことができた。
涙海と茉鈴が交わしていた会話。妹の方が才能がある、けれどブランコ乗りになるのは私だ、というものが印象に残っていますが。
代役としてたった愛涙。周囲の状況に圧倒され、怯えているような部分もありますが。
それでも最後、決断を下したところでは、花開いた、美しさがあったと思います。

誰も彼もが、歪んでいて、だけど魅力的で。
こんな少女たちが演じているからこそ、襲名を目指す学校に、人が集まっていくんだろうな、と思います。
綺麗なだけじゃない、嫉妬や羨望、果ては陰謀まで渦巻くけれど。だからこそ、そこで咲く少女たちの演技は、美しく、「花の命」という喩えが輝くのでしょう。

ブランコ乗りのサン=テグジュペリ
紅玉 いづき
角川書店(角川グループパブリッシング)
2013-03-01

プロフィール

ちゃか

 ライトノベルやコミックを中心に、読んだ作品の感想を気儘に書き綴るブログです。
 新刊・既刊を問わず読んだタイミングで記事を作成しております。
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