「未練に足を引かれながらここまでやってきた身だ。忘れろなどとは口が裂けても言えん。それでも、区切りというのはどこかで付けないといけないのだと思う」
「だから、けじめですか」
「ああ。そして恋の話だ」
夜の女が集まる鳩の街。かつて存在した花街ではあるが……売春禁止法の施行によってすべての業者が撤退し、その役割を終えた街。
しかし甚夜は消えたはずの鳩の街に「花の名前を冠し、特殊な力を持つ娼妓」の噂を聞いて……。
花街特有のドロドロはなく、悩みを抱え迷う女が行き交う不思議な街がそこにはあった。
そこで甚夜は確かにマガツメの娘、七緒を見つけて。
青葉という少女や、ほたるという娼妓。一線引いて人々を見守っている店長なんかと交流しつつ、真相に近づいていくわけですが。
南雲みたいな分かりやすい悪役が、悪意を持って作り上げたというわけでもなく。夢みたいな空間で、本来会うはずが無かった人々の縁がたまたま結びついただけ、みたいな感じで全体的に穏やかに進んでいってましたね。
七緒もマガツメの娘ではあって、鬼の異能は持っていたけれど……マガツメが切り捨てた感情の中でも、特に遠ざけられるようなものが根幹であったから、最後に「同化」することになってましたが、そこに至るまでも少しずつ会話して相手の事を知っていく、という流れでしたし。
店長相手に甚夜が、探していた娼妓は姪だが、妹と折り合い悪いから顔を合わせたくはなかったと愚痴をこぼししていたシーン。それなのになぜ探したのか、と問われて「……多分、迷っているからだろう」と返した場面が結構好きですねぇ。
様々な出来事を過ごしてきてなお、彼の心は定まっていない。どこぞの剣鬼に言わせれば濁った剣でありつづけてた。ただ、今回のエピソードでそんな迷いの中にある濁った剣だからこそ「斬らない」未来を選べたのは彼らしくて良かったですね……。
まぁその結果、しばらくキネマ館へ帰還できない状況に陥っていたのは彼の失態ですが……。
甚夜が「刀さん」してる時のやよいちゃん達との交流のシーン、ほのぼのして好きなんですよね。彼の人の好さが出てますし。
あとはいろいろと事情を察しつつも、はっきりと告げることはせず胸に秘めてくれた店長さんのキャラが地味ながら良い味してて好きでした。