「峰康君。人を怖がるのはいいよ。誰だって、きっとどこかで、臆病な自分を抱えてる。だけど、逃げて逃げて、それで一体君は何処に行けるの?」
「――――」
「人と人は、ずっと同じ場所になんて立ち止まってはいられないよ。だって、時間は過ぎるし、季節は巡るし、年は取るし、人は変わる。暖かい場所にだけはいられないの。(中略)逃げた先に、きっと幸せなんてないんだよ。一人で生きることに、幸せを予感できないから、だから寂しいんだよ」
あらすじを読めば大体内容が分かります。
夏休み、クラスメイトの桜間さんが記憶を失った。
風紀委員を務めていた完全無欠の「正義の人」。
そして主人公、峰康の「カノジョ」。
彼氏がいたことも忘れてしまった桜間さんは峰康をみて「あなたはい、私が一番嫌いなタイプの人間だと思います」と言い放つ。
順当に青春モノですね。
唐突に異能発言したりバトル展開になったりはしない。
それぞれが欠点を持っている、等身大の少年少女の物語。
彼女、桜間さんは「正義の人」と評されるだけあって、曲がったことを許せない。
風紀委員としてルールを守れない相手には厳しく当たるし、言葉も鋭くなる。
彼氏、峰康は事なかれ主義で、何事もあたりさわりなく対応し、仮病で授業を休んだりする不真面目で、臆病な少年。
彼氏彼女の関係だったことは知られているわけでクラスメイトにからかわれたりとかはしていますが。
二人とも、お互いのタイプが違うことを知っていて、うまくかみ合わずにいます。
峰康は、自分の行状から桜間さんを怖がっている部分があるし。
桜間さんも、峰康のことが分からずに戸惑っていますし。
記憶喪失で関係がまっさらになり、「嫌いなタイプ」とばっさり切られる。
記憶を失う前も、世間一般のカップルみたいにくっついていたわけでもなく、微妙な緊張感を持っていた状態のようですけれど。
ともあれ、壊れてしまった関係。
周囲からのお膳立てもあり、なんとか修復したり、また亀裂が入ったり、と。
青春してるなぁ、という感じです。
峰康がグダグダと悩んだりしている部分は、好き嫌い分かれるかもしれませんが。
多感な年ごろだしああいうのもいていいんじゃないかなぁ。
たまにこういう青春一直線な話を読むと、安らぎますね。
いや、異能モノとかも好きですけど、同じ料理ばかりだとさすがに飽きが来ますし。
なかなか良質な物語だったと思います。