「それに、メルフィーナ様もご自分は気にしないのに、私には水仕事をさせませんよね。それは、私が「侍女」であることを慮ってくれたからというのは分かっています。それなのにメルフィーナ様ご自身はここで公爵夫人ぶっても仕方がないとおっしゃいますし……。私は、それが、羨ましかったんです」
「ええと、羨ましがるようなことないわよ? むしろ貴族夫人としては夫にどこでも好きにやれと言われるのは、まあまあ侮辱にあたるというか」
主人公のメルフィーナ・フォン・クロフォードは受難の人生を送ってきた。
奔放な母親が産み月だというのに外に出て……そこで産気づいて出産。DNA検査などない作中世界では、子供の入れ替えなどを警戒して信用できる複数の人間の目のある、保護された場所で生むのが鉄則であったが、それが守られなかった。
そのためメルフィ―ナには父である侯爵から「本当に自分の子供か」という疑惑を持つことになってしまった。
さらに、隔世遺伝かメルフィーナは両親とも違う髪と瞳の色を持って生まれており……血統に疑義のある娘を母親すら疎んだ。
その後に生まれた弟は両親に似ており、両親の興味は弟にのみ注がれた。それでもメルフィ―なは折れずに高位貴族の令嬢として相応しくあろうと努力しましたが……結局は認められることもなく。
政略結婚の駒として南方にある実家から、風土・風習も違う北方のオルドランド家に嫁に出されることに。
生家では愛情を貰えなかったが、嫁ぎ先でならあるいは……と思ったものの、夫となったアレクシスは初夜を共にせず「君を愛することはない」と言い放つ始末。
そこでメルフィーナは相手に希望を抱くのを辞め……自分の道を自分で切り開こうと、アレクシス相手に交渉して、僻地故に扱いかねていた領地を譲ってもらうことに。
その領地に向かう際に、メルフィーナは自分が転生者であることや、この世界が異世界から訪れた聖女を巡って巻き起こるイベントを描く乙女ゲームの世界であることに気が付いて。
メルフィーナはゲーム主人公をいじめる悪役令嬢ポジションで会ったことも思い出したわけですが、そんなルートは辿らないと原作知識や前世知識を活用してさびれた領地を発展させていくことに。
色々と常識外れの行動をとることで、周囲を驚かせまくってますが……発展に繋がってるのは良かったですね。ゲームイベントも迫っていて、順風満帆とはいきませんでしたが。
聖女の力を見せつけるイベントとして発生する飢饉。
それはゲーム開始の2年ほど前の現時点から兆しがあった……どころか、大陸全土で芋があっという間に枯死してしまうとかいうヤバさで。
それでいて聖女降臨2年後とか……イベント発生早すぎて、メルフィーナが対策をしてなかったらどれだけ多くの人が死んだやら。
書類上の夫である公爵アレクシスが、メルフィーナの領地が豊作であることに気付き、領主として交渉をしなくてはならないとなっていましたが。
……側近から「奥様から恨まれている可能性ありますよね」といわれて「そうなのか……?」とか言っちゃうの、政略結婚とは言え相手を軽視し過ぎててなんだかなぁ。
汚職や犯罪は緩めば広がってしまうから苛烈に対応していたり、実りが薄い北方の領地を治めるストレスと向き合っていたり、必要であれば城塞都市の門を閉ざすことも視野に入れるが、その前の手段として公爵家の備蓄庫を開けることもちゃんと考えているあたり、政治と統治はそこそこ出来るんでしょうけど、書類だけで人を見てると言うか、心を慮るの駄目すぎるな……という感想しかない。