「……そんなの、当たり前のことだろ」
「良くんにとっては当たり前でも、私には違いますから」
「それを言うなら、僕にとっての静葉も同じだ」
10年前、キャンプ場で起きた火災。
それにいくつかの家族が巻き込まれ、複数名の死者が出た。
両親を亡くしてからも変わらず市内に住んでいた「僕」の前に、10年振りに事件の生存者である少女、静葉が現れて。
「事件の犯人を知りたい」という彼女に、手を貸すことに。
最初は、再会したのにリアクションもないため、もう過去のことを忘れているのではないかと思えたようですが。
あらすじにもある通り、それは静葉が「人の顔が分からない」――相貌失認の症状を抱えていたためで。
僕が火災で負った傷で判別が出来たのは、不幸中の幸いと呼ぶべきでしょう。静葉が一人で無茶する事にならず良かった。
改めて再会した二人が、事件について情報を集めていって。
とはいえ……そう簡単に警察が調査したのに犯人が捕まっていない、未解決事件に答えが出るはずもなく。
その辺りも、高校生になった以上はある程度わかっていて。それでも。生き延びて、疑問を抱いてしまったからには、調べずにはいられない。
結局のところ、必要なのは全てを明らかにする真実ではなくて。不安を和らげるための「納得」だったということでしょう。
暗中模索と言うか試行錯誤と言うか。光に向かって、時に足踏みしながらも進もうとする気概を感じられる良質なお話でありました。敬語系ヒロインな静葉ちゃん好きだな……。