「コルドゥラ、それから、皆。ローゼマイン様やヴィルフリート様と変わりなく接して、笑い合える関係が、わたくしにとってはなにより大事なのです。わたくしも自分が浅慮で思い込みの強いことがよくわかりました。そんな今でも、自分の境遇よりもよほど価値があると思っています」
「本好きの下剋上」本編後を、ハンネローレを主役に描いていくシリーズ。
タイトルにある通り、ハンネローレが貴族院の五年生になった時期の話ですね。
新たなツェント・エグランティーヌが立ち、ダンケルフェルガーの領地の順位が1位になったことで、最上位の領主候補生としての振る舞いを求められるようになった。
同時に、未成年アウブでありながら女神の化身としてツェントに強い影響力のある、ローゼマインの友人であるためにかけがえのない存在でもあって。
ハンネローレの母ジークリンデはハンネローレの決断を少しでも待ちたかったみたいですが、そろそろ限界が来たということで婚約者候補が樹立されることに。
アウブの決断で婚約者として決定事項を通達されるのではなく、あくまで候補として伝えられているあたりが、母の優しさらしいですけど。
結構気遣われているみたいですけれど、色々な思いはハンネローレには届いておらず。
彼女の口癖「間が悪い」が正しい時もありますが……レスティラウトの側近でもあり婚約者候補となったケントリプスに指摘されているように、彼女の性格上足踏みしまくってるのも問題ではありますよねぇ……。
「決断が遅くて気持ちを伝えそこなっただけ」とか、かなり鋭く言いますよねケントリプス。でも時期領主の側近でもある文官として、しっかり情報収集をして、ハンネローレの行動を見て来た結果、「お慕いしていても信用できません」と言ってくれるのは、かなり真摯とすら言えるのでは。
ローゼマインは好きなコト、大切なものが関わった時のブレーキが壊れた車でしたけど。
ハンネローレは悩みまくって視野が狭くなったりして、行動するタイミングを間違えたり逃したりする、アクセルが暴発する車って感じではありますね……。
もう一人の婚約者候補であるラザンタルクは実にダンケルフェルガーらしい男というか。
候補になったことで猛アピールしてくるところは微笑ましいと思いますけど。ハンネローレとの相性は悪そう。
恋物語を好み、今なおヴィルフリートの事が気になっている彼女は、後ろ髪惹かれまくりで前に進めない状況で。ケントリプスが、だからこそヴィルフリートとの時間を確保して決断を迫ったのは、的確だった気はしますね。……女神の干渉が発生したのはあまりにも予想外だったでしょうけども。
巻末にジギスヴァルト視点の「コリンツダウムの執務室にて」がありましたが。
……今はもうアウブだというのに、どこまでも王族思考が染みついているというか。フェルディナンドの計画が変更になると大変だから、とローゼマインの慈悲が与えられた(様に演出された)わけですが。アドルフィーネが言っていた「アウブは荷が勝ちすぎる」というのが、本当に的確な評価だったしアドルフィーネは泥船から見事なタイミングで逃げおおせたなという印象ですね……。