「私は誰ですか!」
(略)
「あなたは私を忘れないと誓った! ならばあなたはっ……あなた、だけは。この問いに答えを提示し続けなければならない。そう、言ったでしょう? 私に、そう言いました。だから、エーレ」
謎の術によって顔を焼かれ、さらには元自室であるところの聖女の部屋に転移させられたマリヴェル。
同様に転移してきた男たちに襲われかけたりもしましたが、助けを呼んで上手い事回避して。戦闘能力こそないですけど、立場が悪かった聖女として暗殺者に狙われまくった経験からか、かなりタフで強かですよねぇ。
トラブルが起きても、優先順位を決めて動けるし。でも、冷静に対処できることは怒ってないのと同義ではないんですよね。
自分の身が汚されたかもしれないことより、その出来事が自らの庇護者だった神官長の汚点になって追及されてしまう可能性に怒るマリヴェルは、本当に周囲の人々を大切にしていたんだな、と言うのが伝わってきます。
……こういう描写を見る度に、今はそほとんどから忘れ去られてしまった彼女の寂しさを思わずにはいられないんですけどね……。
マリヴェルの隣に居るエーレが、マリヴェルが自分を大事にしなかったり間違った方向に行こうとしてたりすると、逐一指摘してくれるので、なんだかんだ良いコンビではあるんですけど。
忘却された状態でもなおマリヴェルは変わらず気ままで、記憶があったころの神官たちはよく振り回されていたんだろうなぁと言うのも分かってその心労を労いたくもなりました。
1巻でもそうでしたけど警備されているはずなのに、察知されずに抜け出したり王族居住区に潜入したりと、野生動物もびっくりな特技持ってる聖女って何……。
彼女の性格以外にも、先代聖女の行いがあったために当代の神殿はかなり苦労しているというのは語られていましたが。
マッチポンプにもほどがあるというか。この国はいまこんな問題を抱えてますよね! って国民を煽って、「私が指摘したからようやく対応した」と自らの功績にする、なんてことをやっていたそうで。
本当はその問題を王城も認識していて、手間と時間をかけて対処したというのに。……そんなこと繰り返したんだったら、そりゃあ神殿と王城の間も険悪になるわ。
先代聖女エイネの振る舞いを見ていると、マリヴェルの方がよっぽど聖女として相応しいと思いますけどねぇ。……定期的に脱走したりしてるし、問題がないとは言いませんけど。
先代の側近で会った前神官長を確保して、情報を引き出したりもしましたが……まだまだ全容解明には遠いというか。道のりは厳しいですねぇ。
マリヴェルの中には、「当代聖女を忘れる」のとは違う形の忘却があることも明らかになって。異質な存在の関与があることもハッキリしましたが。謎が増えていくばっかりで、どうにももどかしいですな。
でもこの先に望む事だけはハッキリしていて、どうかこの心優しい少女の記憶を人々が取り戻して、ハッピーエンドに辿り着いてほしいなと思っています。
エーレが終盤に言った「私の報告などより聞かなければならない言葉がある」とか、本当に刺さるんですよね……。
そこからの巻末書き下ろし「忘却神殿Ⅱ」。保護されたばかりのマリヴェルが、神官長の肩に座って本を読んでる微笑ましい場面から始まるんですが……。この当時の彼女は、今以上に自分に価値を見出してなくて、痛々しい。神官長が届かぬ言葉に無力感を覚えたのも無理はない。
エーレとマリヴェルの交流が間に挟まり、マリヴェルが意識を失った本編後、神官たちとエーレが話すシーンが入ってたのは嬉しかったですねー。結びの言葉がこれもまた痛い。