「(略)見て見ぬふりをいつまでも続けたら、気持ちの方がすっかり腐ってしまうんよね。――魂の問題やから。だからうちらも賭けてみる。教えて、シロ坊。その方法を。もしそのために何かができるときに、何もせえへんかったら、うちらずっと後悔しそうやから」
ススキノからアキバに帰り、その変化を知るシロエ。
大規模ギルドの台頭。中小ギルド連合の失敗。新人を利用している悪徳ギルド。
その中でシロエは悩みを得る。
この異世界に最初から感じていた不安。
「法」が存在しない無法の異世界であるということ。
ゲームシステムに沿って構成されているようで、細部に違いが見える異世界の事。
シロエの頭の中にはいくつもの悩みとそれに合わせた解決につながる回答が考えられている。
しかし、自分にこれらの悪を糾弾する権利があるのか、と足は止まってしまう。
柵を嫌い、ソロであり続けた自分。
それは、見方を変えれば集団に属さず、面倒事から逃げ続けて、責任を放棄したことにつながる。
考え過ぎなようにも見えますけど、ここまで考えているからこそ、シロエはそれでも自分の中にある、大切なもの。無視しがたい違和感。譲れない理念と向き合い、問題と相対する選択を最後には選べるんですよね。
今回のMVPは、シロエに選択肢を与えたにゃん太班長でしょうか。
「誰もがなにもせずにただ得られる宝は、所詮、宝ではないのにゃ」
彼の発見が無かったら、シロエは今回の結末を導けなかったかもしれない。
彼の導きが無かったら、シロエは足踏みをしたまま進めなかったかもしれない。
こういう人脈があるっていうことはそれだけシロエが認められているってことですけど。
セララに慕われるのも、アカツキが評価するのも納得の貫録ですよね。
それだけではなく、シロエの願いに応じ力を貸してくれた三日月同盟の存在も忘れてはいけないですよね。
生産系三大ギルドを相手取った交渉も見事。
ヘンリエッタが感じたとおり、協力が得られなくても、きっとシロエはやったんでしょう。
でも、彼女たちの協力があったからこそ、シロエは自身の理想とする場所に、たどりつきやすかったはずだと思うんです。
この巻は、シロエが行動を起こす転機となるエピソードであり、アキバの街に変節を招く革新の話でもあるんですよね。
別に物語的にラスボスが出てくるわけでも、武力で持って無双するわけでもないけれど。
じわりじわりと根回しをし、いくつもの手を打ち、望む結果を引き入れる。
その展開には、ぞくりと来ましたね。
腹黒なんてもんじゃない。清濁併せのむシロエという存在の恐ろしさが見えたようにも思います。
シロエの我が儘ではじめた戦いだが、シロエは勝ちたかっただけで、誰かを負かしたかった訳ではない。勝利を得たかっただけで、奪いたかった訳ではない。
きれい事をいうつもりはないが、できれば、全員でそこに辿り着きたかった。アキバの街に住むすべての人々と、という意味だ。
このあたりも結構好きですよ。
シロエが準備していた「作戦」を聞いた時の恐慌じみた騒ぎとか、腹黒の名に恥じない策謀で。
心情の描写が細かいので、アニメとかだと、ミノリとシロエの最初の念話のシーンとかがちょっと物足りなさがありましたけど。
こういう細かい所の積み重ねが、この作品の魅力を最大限に発揮していると思うのですよ。