「……それでも止めないの? 死ぬかもしれないんだよ?」
ナナが問うと、当たり前だ。と、グレンは言い切った。
「これからアイツらは地獄を見るんだ。その入り口で躓いてたらそれまでだ」
グレンの言葉はどこまでも容赦なく冷徹で、そして救いようがないほどに正論だった。
WEBでタイトルは見た事ある作品ですね。あらすじが微妙に合わなくて手を出してなかったんですが、フォロワーが熱心に推してて書籍化に際して読んでみることに。
結果、面白かったです。なんでも食わず嫌いはせずちゃんと読んでみるべきですねぇ。感想ブロガー10年目にして改めて思うなどしました。
栄華を誇っていた人類は、けれど地中から突如現れた迷宮とそこからあふれ出た魔物によって、支配領土を大きく失った。
安全な土地に棲める人数は限られ……主人公のウルはまさに、都市と都市の間を放浪する【名無し】と呼ばれる、作中でも最底辺の世界で生きる少年だった。
一日一日を生きるのに必死な中でも幼少期に出会った老人が彼に道徳を教えたことで、常識を持って過ごしてきたようですが。
ロクデナシだった父が借金を残して死亡。妹を借金のカタに取られることになってしまい……ウルは、それを阻止するために奮闘することになるわけです。
最初は、父が遺した借金分の金貨10枚をどうにかしようと迷宮鉱山に就職して。
そこの上官は魔石の横流しとかやっていたみたいですが、その隠し場所に迷宮が発生。相手の弱みを突いて、その迷宮を攻略することでどうにか妹を取り戻すきっかけにしようとした。
しかし、命の危機を乗り越えた彼を見たのは、不正が発覚した彼が失脚している様子と……さらに上の立場の人間が出てきて、隠し通したかった妹の秘密がバレてしまうことになって。
そのお嬢さん……ディズは「妹を金銭的に取り戻す交渉につくとして、金貨1000枚」という銅貨数枚に苦慮していたウルの生活からは想像できない金額を提示してくることになって。
それでも妹のためになにもしない、なんてことを選べなかったウルは当人の希望とは違って迷宮に挑む冒険者としての道を進んで行くことになるわけです。
ウルの冒険者としての資質はあくまで並みでしかなくて。ひょんなことから知り合い、パーティーとして行動することになった少女シズクのように魔法の才能もない。
彼の教官となったグレンは、真っ当に生きる分には良いことである常識的な部分がウルの枷になっていることにも気が付いてましたが。
厳しすぎる篩にかけて誰も残らない。それでも食らいつく相手にはしっかりと教えてくれるグレンと会えたのは、ウルたちにとって良い経験になったのではないでしょうか。
ディズが、ウルの妹アカネの権利についての交渉を継続するために、ウルがその価値に値する存在だと示してくれ、と課題提示したりもしてきてましたし。
全てが順調とは言えず、トラブルの類もまぁまぁあったり常時綱渡りみたいなこともしましたが、それでもなおわたり切ったのはお見事。
まぁハードル一個超えただけでまだまだ先は長いようですけれど、ウルのその難解な挑戦を見届けたい、という気持ちにはなりましたね。良かったです。