だから、雨坂続が完成したとき、編集者としての佐々波蓮司は必要なくなるだろう。
それは悲しいことではない。
むしろ、夢のような。奇跡のような、喜ばしい未来だ。
シリーズ完結巻。
作家と編集者の業が描かれているように感じられて、好きな作品です。
それが一番濃く感じられる4巻の「感情を売る非情な職業」が一番のお気に入りではあるんですが。
完結となる今回も作家の我がままな面、人間味のある面など多くの顔が見られて楽しかったです。
二年の時が流れたところから始まる本編。
佐々波は喫茶店店主から編集者に戻ったし、北野坂の店は、パスティーシュが運営する形になった。
ユキは女子大生になって、ノゾミは幽霊の身で色々と状況を動かそうと手を打って。
雨坂続は病院のベッドで寝たきりで、指先の世界で、文章を書き続けていた。
好きな場面がたくさんあります。
冒頭の天才についての佐々波と作家のやり取り。小暮井ユキが「落書き」をした所。
佐々波のプロッフェショナルについての言葉遊び。
ユキがノゾミの依頼に躊躇わなかったところ。彼女が、答えを考え続けていたこと。
聡一郎が語る「人間には書けない本物の小説」の話。
「錯覚でも、わかると答えたいことだって、あるじゃないですか」というユキの言葉。
佐々波の「天才は、祝福されていなきゃいけないんだ」という願い。
2年の間で変わった事があって、もっと超然としてるかと思った作家が迷ったり、パスティーシュさん好きだったので、出番少なくて悲しかったりしましたが。
やっぱり河野さんの文章が好きだなぁ、と実感しました。
凄く雑にまとめてしまうと、書けない作家がもがいてる、って話なんですが。葛藤している様子ですら、美しいと思う。思えることが、とても幸せで。
これだから読書は止められないし、出版不況の中で書店員続けられるんだよなぁ。