「……その方法を採れば、恩義のある相手を裏切ることになる」
相変わらず、派手さはなく地道に進み続けるファンタジー。
表面だけ見れば、イクスは職人と杖論議してて、ユーイは会議に出席させられてるだけですからね。もちろんそれだけじゃないし、そこが面白くて好きなんですけど。
“神の街”エストーシャ。
魔法杖職人の祖でもあるレドノフの伝説が残る街に、イクスは杖を作るために、ユーイはノバと一緒に新派との付き合いで足を運んで。
別の事情で町に来たこともあって、それぞれの視点で別の話が進んでいきます。
イクスはまだ見習いの身ではあったが、「同一状」という特殊な保証書を義姉から預かり、修道院での杖を作ることに。独立間近の見習いがもう一人と、監督役の職人が一人いましたが。
修道院からの依頼は、労力の割に儲けが少なく……さらに、修行の一環として素材は修道院側が用意する、という条件が付いていて。
職人側からするとかなり面倒なので、断られる事もあるとか。
実際、今回イクスともう一人の見習いシュノに渡された木材と芯材も、間違った加工がされていたり、相性が悪い素材があったりしたようです。
それでもその場で回答を思いついている辺り、どちらも杖作りに関しての才能はあるんでしょう。
互いの担当分に混じっていた「どうすれば杖に出来るだろうか」という難物。
それへの回答が分からず、相手に直接聞いて、その発想を褒めたたえる。逆に、自分のアイデアに関しては、過小評価する。言い合いをしながらも、仕事はしっかりこなしている辺りが、見習いだろうと職人だよなぁ、と言う感じで好き。
職人と言えば、今回新たなムンジルの弟子が登場していましたが……いや本当に、癖のあるやつしかいませんね! ユーイには「ムンジルの弟子の行動など、考えるだけ無駄」とか思われてましたし。
複数の弟子と接点を持ってきたうえでの判断ですし、間違ってないんだよな……
一方でユーイが参加させられていた会議は、旧派に対抗するべく新派として統一の解釈を出す、その準備のためのもので。
極力秘されていたにも関わらず脅迫状が届き、参加者にユーイが話を聞きに行ったりしていましたが。
宗教家であるのは間違いないですが、政治家になってもやってけそうだよな、と言うか。
色々と思惑が入り混じっていて、気が付いたら絡め取られていそうな、粘着的な怖さを感じた。
そんな会議に巻き込まれて、自分のできる手をちゃんと打っていたユーイは見事。
……ではあるんですが。エピローグが、どうしようもなくもの悲しさがあったなぁ。
生きている以上、人と交流していく以上、ある程度の変質は避け得ないものですが。純粋さは僅かに損なわれ、代わりに強かさを得たように感じる。
ここで終わっても美しいとは思いますが、続いてほしくもあるような。あとがきに区切りとか書かれてますし終わりかな……
それはそれとして。メイン2人推しなのは良いんですが、リースやシュノのイラストは見てみたかった。