「できません。僕も、彼女も、いつかなんてものを信じていない。そんな不安定で不確実なものはいらないんです。彼女の所有権を主張するような真似はしません」
人形は、ひとりで作ればいい。この世の果てであっても。世界が終わる時が来ても、たったひとりになっても作ればいい。けれど。
「けど、ひとりで、誰も知らないところで、泣かせるつもりはないんです」
人形師平田開闢のアトリエと、カメラマン宮本晴久のスタジオは隣り合っていて、開闢の指には晴久から贈られた指輪が光っている。
相変わらずそれぞれの仕事には真剣で、変わっていない部分もありますけれど。2人で過ごす中で、変化している部分もあるなと感じられるのが好き。
晴久がアシスタントとかを伴った仕事をするようになっても、撮影の瞬間には沈黙を守らせる流れとか。
そうやって撮影で晴久が出かけている間に、開闢は真木のエッセイのための対談を申し込まれて。ファミレスで話をすることになっていたわけですが。
インタビューの会話本当に良かったんですよね。あそこも好きです。「貴方は貴方以外になりたかったですか?」と聞かれてるところとか。晴久も開闢も軸がしっかりしてるキャラなので、恐らくはそれを指して真木は「変わらない人」と評していましたが。
その上で、開闢のとある振る舞いから「女の子は変わり続けるな」と口にするのとか、良いですよねぇ。
他には、真木の担当さんが奮闘している、BGM付の小説という企画について。小説家真木遊成の傲慢さだとかが見えるエピソード。音楽家もまた癖の強いキャラが出てきたなぁって感じでしたが。
恋愛小説家真木の企画なのに、小説は読めないからと聞かずに別れの曲を出してこられては真木もあらぶるでしょう。才能の尖った人で出来は良かったみたいですが。
作曲側からすれば、こっちの才能に頼って先に曲を出させたのにクレームつけてきてるように見える(実際形式はそう)から険悪になるのも無理はないというか。
最終的に互いの事を知って、見えていなかったものも見て、謝罪の言葉を口にできたのは偉い。真木、才能はあるけれど、藻掻いて暴れてその上でつかみ取っているような感じがあるから、彼の葛藤が良く見える一連のエピソードは良いけど重くて痛かったですね……。
エクストラエピソード「Gold Fish」は下巻で初登場したセージくんが、親の決めた婚約者と交流する話。彼が果たして誰だったのか、というのは後のエピソードで描かれるんですが。繋がっていくのが良いですねぇ。
晴久と開闢、互いに互いを好き合っている2人の話が本当に好きです。約束が苦手な開闢と晴久が約束を交わして……その後に、彼女の心情が乱れて失踪。
探すために手段を選ばなかった晴久が、真木に連絡するのが最後になったため「殴らせろ」と友情から憤るシーンとかも良かった。