「好きだという感情は、複雑かな?」
相馬は首を振る。
「私は、シンプルだと思う。とてもとても、シンプルなものだと思う」
「僕もだ。好き。たった二文字だ。でも例えば、人を好きになるという感覚を知らない相手に、言葉でそれを伝える方法が分からない」
あらゆる言葉で説明しても、きっと何かが少し足りないのだと思う。
2年前に死んだ、猫のような彼女、相馬菫。
未来視の能力を持つ彼女がどうして死んだのか。
そして、彼女はなにを思って、ケイや春埼と出会ったのか。
3人の出会いと、最初に関係した事件について触れられる話。
やたら哲学的な話題をしたりしてますが・・・
そんな中学生がいてたまるか、っていう気持ちが無いわけではないです。
まぁ、独特の価値観とか、そういった空気が、嫌いじゃないんですよね。
ところどころで、相馬の内面というか、内心について触れられているのも個人的には好印象。
智樹もなんだかんだで付き合いがいいというか、やっぱりいい奴ですよね。
「不謹慎だと思うか? でも、それくらい大げさな方がいいんだよ。必要なのは、いつだって笑顔とテーマソングだ。きっとケイも賛成する」
なんて春埼と話しているシーンは、なるほどケイの友人だなぁ、という印象を持ったんですが。
ケイの事を理解している感じがして、結構いい場面だと思いましたよ。
二年前の春埼は、なるほどロボットみたいな感じですなー。
「泣いている人を見たらリセットを使う」という、システムみたいな感じ。
自分自身にも作用するから、結局その「誰かが泣く」という結果を変えられず、静かに悩んでいるようですが。
その能力によって、無自覚に救われた経験をケイは持っていたようです。
春埼に自分の理想とする善の形を見たケイは、能力を求めているという言葉を建前に、少女に近づく。
この辺は、相馬菫にも指摘されていましたけどね。
一方で、その相馬菫も、ケイに対して同じような気持ちを持っているようで。
春埼美空のように、純粋ではない。だが混沌を知りながら、それでも純粋な願いを忘れられない彼が、最も美しいのだと相馬は思う。
随分と色々と考えているなぁ、とは思います。
ケイもそうですけど、誰も彼も中学生にしては、思考が難しい方向に触れてないかなーと。
でも、相馬は未来視を持っていますし、色々と嫌な未来も見て、望む未来に持っていくために、今、本心とは違う台詞を吐くという事を繰り返してるみたいですから、達観するのも仕方ない事か。
異能のある町、桜良田。
この街を出た能力者は、能力に関する記憶を失うという情報も出てきたりしますね。
しかし、ケイの能力の強度は本当に強いんですね。
リセットでも失われず、その街を覆う記憶操作の能力ですら失われない。
能力の強度がどうやって決まっているのかは、釈然としませんが。
純粋であるのは、確かなんだろうなぁ、と思います。
少女を助けるために、全力を尽くしたケイ。
その結果春埼の信頼を得ることに成功し、今の関係の基礎を確立します。
一方で、暗躍していた相馬は、その能力によって、ケイが手を打てないタイミングでの死を選ぶ。
現在のケイも途中で思っている事ですが、相馬菫がもう少し弱かったら、別の道もあったんだろうなぁ、と思います。
ケイもそうですが、この作品のキャラクターたちは、それぞれの考えに純粋すぎて、強すぎる。
たまに弱さを見せるところもありますけど、それでも乗り越えていく強さを持っている。
その辺の理想の在り方っていうのが気に入っているんですけどね。