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「言葉にしろと、言ったのは……貴方の方じゃありませんか……」

 

BOOKWALKER読み放題にて読了。           

キャンペーン追加タイトルで、対象期間は7月末日まで。

 

一万五千人以上の犠牲を出しながら、辛くも戦争に勝利したペリドット国。

終戦から二年が経ち、狙撃兵として作戦に従事していた青年、キャスケットは遺品返還部に異動し、遺族に兵士たちの死について伝える業務に励んでいた。

彼らが来るという事は、家族の誰かが死んだという事。それ故に、死神と呼ばれ忌み嫌われる業務のようですが。

 

同じ戦場で戦い、最期を見届けた友人の遺書を届ける時も。

家族を亡くし自らを売るしかなくなった女に、想い人の死を伝える時も。

前線にいた軍関係者に、或いは自分が兄官と呼ぶ相手と対面する時も。

キャスケットは不器用なりに、誠実に業務に当たっていて。

 

「生き残った魂の嘶きを届ける仕事をしている」と彼は言う。

地の文は「けれど魂だけはきっと、行きたいところに行って会いたい人に会う。そう信じることだけが、残された人間の救いになるのだ」と紡ぐ。

国同士の戦争は終わっても、家族の生死が確定するまで、民の中で戦争は終わっていない。

仮に生き残ったとして、戦地で心を病む事だってあり、そういう意味ではこれからも戦いは続くんでしょう。

 

本名が訳アリで、キャスケットという偽名を名乗る彼。

そんな彼の事情についても、間章や四章でふれられるわけですが……

人の醜悪さを見せつけられるようで、真実を語れなかった兄官の気持ちが分かるなぁ。

戦争の悲惨さ、命が失われたもの悲しさ。それに加えて、人の業。

どうしたって重く暗い展開になりがちですけど、遺骸が届かないよりはよっぽど良いと思うんですよね。

曇天の中、雲の切れ間から刺した日差しのような、寂寞とわずかの温かさを感じる良いお話でした。