「あの時お前は、俺と戦うために塔から跳んだな」
「はい」
「ならばその命をもう一度使え」
雫がキスクに言っている間に、「出来そうだから」で英語の勉強を続けて雫を追い抜いてしちゃうエリクのスペックの高さが凄い。追い抜かれたかも……って雫はショックを受けていました。
無事にファルサスに帰ってきた後は、キスクでやっていたような子供向け勉強グッズの作成をしたり、研究者っぽくなってるなぁという感じ。
言語に関する病気の研究はファルサスでも進められていて、雫はこれまでも示されていた通りこの事象を病気とは考えてないけれど、こちら側の魔法士には違う人も居るというのをリラとの会話で示してくるんですよねぇ。
すれ違いがあったけれど、リラが研究に熱を入れているのは妊娠している親族がいるからと言う、一概に責められない事情もあって。
それを思うと雫と交流して色々と情報を得ていたとは言え、「いつかそれが当たり前になるかも」と考えられるエリクの考え方は、とても尊い。今回もある部分で引用されていた「混入された便利さよりも、あるべき不自由を望む」って言葉を初期に彼女に伝えてくれていたのも、とても大きいと思います。
エリクとの対話を重ねて来て、旅路の中で多くの人と知り合ってきた積み重ねは、雫の糧になっている。
それをシンプルに成長というのは簡単ですけど、カイトに指摘されたように変化・変質でもあるんですよね……。痛いところを突かれて、それで激昂するのではなく「痛みに鈍感で居たくない」と思える彼女の強さが好きです。
そんな「強さ」を持っているからこそ、新たに現れた七番目の魔女の居城に踏み込んじゃうんですけどね……。
まぁそれは、今回明らかになった彼女の抱えていた秘密と、ファルサス国王ラルスからの命令が上手く合致して、行かないって選択肢が無かったからでもありますが。冒頭で引用した、改めて彼女が覚悟を示すシーンが好きなんですよねぇ……。
エリクの心情とかが加筆されていて、かなり分かりやすくなっていた印象がありますね。彼、超然としている……とまでは言いませんが。苦労する事が分かっているから、止められないって判断を下せてしまう理性が、憎らしかった。
普通に考えるなら、あの考えは正解なんですよ。幸福を願うならば、見送った方がいい。それは間違いなくて、だからこそ最後の雫の判断がまた輝いて見えるんですよねぇ。
あとは、塔外部のエピソードも追加されてたと思います。オルトヴィーンが伝手で連絡を取ってる下りとかもそうですかね。
WEBからの書籍化である『Babel』には後日譚となるエピソードも結構掲載されているので、小説家になろうなどもご覧になって下さいな。レウティシアのその後を描いてる「飛ばない鳥」が好きなんですよ、私。
巻末の「手紙」も、姉・海の視点がメインになってますけど、WEBだと他の家族の反応も載ってたりして差がありますし。481Pであっさりと関係が変わったことが明かされた二人の経緯が描かれた「幸福の色」なんかもあります。
作者さんのサイト「no-seen
flower」に行けば、SSも結構ありますね。「企画作品」内部の「幕間のおはなし」とか、逸脱者側の状況がちょっと描かれていますし。他にも「百題に挑戦」の中にもBabelのエピソードありますので。