「隠居のために、信頼できる引っ越し屋を探していたんだ。すると君の魅せに辿り着いた。……ある噂を聞いてね。王都の郊外にある、魔法使いの引っ越し屋」。そこに行けば、どんな悩みを抱えていても素敵な旅立ちにしてもらえるとか」
(略)
「私のお客さんになった以上、勇者様の旅立ちも素敵なものにしてみせましょう」
平民にも関わらず王立魔法学園で名前をとどろかせた天才魔法使いの少女が居た。
様々な栄光と同時にはた迷惑な騒動を起こしたこともあったようですが、卒業後何をしているのかを知るものはほとんどいないとか。
なぜならその少女、ソフィ=イザリアは卒業後、誰にも行き先を告げずにふらっと姿を消し……なぜか魔法を駆使した引っ越し業を営んでいた。
と言いつつ王都に店を構えているし、同期で首席を争った少女が度々足を運んでいるから、最終的に国の一部には動向を把握されてそうですけど。
有象無象の注目からは逃れることには成功してるんじゃないですかねぇ。……難しい浮遊魔法を駆使して空から荷物運びしたりしてたので、そう遠くない未来に普通にバレそうな気もしますが。
後に彼女の持ってる称号が影響してそうだなぁ、という納得をしました。バレてるけど、放置されてるのか。
そんな彼女のところに持ち込まれるのは普通の配達ばかりではなく……。サブタイトル通り、勇者や龍といったトンデモ依頼人たちからの願いもあって。
魔王を討伐しその後50年も戦い続けている勇者に、「当時に出会っていたら間違いなく仲間にしていた」と言われるあたりソフィの才能はずば抜けてるみたいです。
……そりゃまあ普通は魔法にたけているからと言って、「屋敷丸ごと運ぶオプションもありますよ」って言われる想定はしないのよ。
国王は勇者の引退を認めてくれていたけれど、彼の実績を見て育ってきた宰相や騎士団長とかが反発して引き留め工作があったりもしましたが……それを踏み越えて引っ越しを成功させたのはお見事。
その後も、神獣の引っ越しを請け負ったり、特殊な魔法が作用している魔法図書館の引っ越しに関わったり。特殊な事例ばっかり引き受けて、その状況下での苦労も当然ありましたけど、その都度適した対応をしていっているのが、『時代の魔術師』という称号を持っているだけはあるなぁと感心してしまった。
魔法図書館の引っ越しで、失われた魔法の復活まで成し遂げていたのはお見事。核となる物を見つけただけで、完全再現まで出来たわけじゃないから……と発表を控えていたあたり、自分へのハードルが高いなぁ。
どの引っ越しにも物語があって、そんな引っ越し屋をすることになったソフィにもそれを志した過去がある。うん、1冊で良くまとまっている感じがして好きでした。