「さすがに見過ごせないわね。同じフラメルの使徒として。あんたの振る舞いが、師匠の顔に泥を塗る。それを姉弟子としては見過ごせないわ」
あのろくでなしの師匠のことなんて、別に好きでもなんでもない。
ただ錬金術師としては尊敬してる。
史上最年少で宮廷錬金術師になった天才、セイ・ファート。
彼女は伝説の錬金術師の弟子であり、弱冠20にして宮廷錬金術師となった、ということを妬まれて所長から「明日までにポーション1000本、追加で作っておきなさい」なんて無茶ぶりをされるような社畜生活を送っていた。
元は師匠の無茶ぶりから逃れたくて、宮廷での働き口を見つけたみたいですけど。若さでねたまれて仕事を積み上げられて。それを実際にこなせてしまうから、なおのこと嫉妬されるんだろうなぁ……。
ちなみにそんな無茶ぶりされて辞めてないのは、やめるのもダルいし、辞めた後に野良で錬金術師やるとなれば自分で商人と交渉して素材を仕入れたり、販売の契約を取り付けたりしなくちゃいけなくて面倒だって言う無精な性格ゆえでしたけど。
一応、最低な面が多いけど恩義がある師匠が推薦してくれたからって義理もあるとは言ってましたが。
「隕石で職場なくならないかなぁ」なんて、ありがちな夢想を愚痴で零して、まだ頑張ろうと奮起したその日に、魔物の大群が王都にやって来るというトラブルが発生。
社畜過ぎて自宅にもあまり帰宅できていなかった彼女は、それに対処できる備えが無くて……止む無く、自宅の周囲に魔物除けを施した上で自分を仮死状態にして、自分の命を守ることを最優先に動くことに。
そうした結果、見事生き延びたのは良いですが。実に500年もの間眠り続けることになっていて。
その時間の流れの中で、多くの知識が途絶えてしまって……。セイのやることなすこと、この時代の人からすれば、トンデモない偉業に映ることに。
……いやまぁ、500年効果を保つ魔物除けとか作っちゃうあたり、当時からしてセイの製作物の性能はずば抜けていたと思いますけども。
セイの目線ではそこまで大したことをしていなくても、善行・偉業を成していく彼女を慕う人々から、聖女様のようだと噂されることになって。
変にあがめられるのを嫌がったセイは、奴隷として庇護した少女たちを伴って旅しながら生きることになるわけですけど。当人的に大したことないと思ってるものだとしても、せめて対価はもらいなさいよ……そんなだから社畜として所長にこき使われていたのでは……? とかは思いましたが。
サクサク読める分かりやすいファンタジーという姿勢を貫いていたのは良かったですね。