「いや、そんな大したことしてないし、別に恩とか感じなくても――」
「私にとっては大したことですし、恩を感じるのは私の勝手です!」
百年に一度魔王が復活し、それにより魔物が活発化。
聖剣を携えた勇者がその度に魔王を討伐することで、この世界は回っていた。
……しかし、前回の魔王討伐に置いて勇者パーティーの一人であった剣帝は、勇者を放ってパーティーを離脱。そのことが勇者の死因になったとも言われ、大罪人のような扱いをされているとか。
そういった仲間の離脱とかが影響したのか、百年周期だったはずなのに前回から10年ほどしか経っていないタイミングで魔王が復活し、勇者が選ばれることになって。
それだけでもイレギュラーなのに、神殿の秘匿情報……限定的ながら未来を見られる「流視」の能力者が、魔王の側近によって勇者が討たれる光景を見て。
それを阻止するために女神官リュイスは、秘密を打ち明けた上で勇者を支えてくれる人物を探すことに。
その候補として、悪評は有れど腕は確かな剣帝を探すのは間違ってないでしょうけど。信憑性の薄い噂に、世間になれてない神官一人で当たるのは危ういよなぁ……とは思いました。
ただまぁ、そこで腕利きの女剣士アレニエと出会い……彼女がリュイスに協力を約束してくれたのは、良かったですね。
アレニエ、寝ているときにちょっかい出されると反撃する癖があって。それにいざという時に命を奪うのを躊躇しない冷徹さも持っていて。ほどほどに恨み買ってて、勇者を裏側からサポートするための旅に初手から妨害入ることになったりしてましたが。
リュイスによって命を拾った襲撃者を、金で転ばせてうまく使うことにしてたのは強かでしたね。腕っぷしだけじゃなくて、必要なら搦め手も使えるあたりリュイスは結構良い共犯者を見つけたものだと思います。
勇者たちの足取りを遅らせるために、悪天候を利用して橋破壊してるのとか思い切りよすぎるな、とか思いましたが。
神殿側で権力争いがあって、勇者パーティーに所属する神官の上司が拘束されるなんて展開にもなって、アレニエ達も与り知らぬところで勇者の旅路が遅れたりもしてましたけど。
……いやでも、その拘束に関与している神殿のお偉いさんがリュイスの師匠で色々事情を知ってる人物だから、直接的な関与はなくても一応関係者リストの端っこに名前は載りそうではあるか。
リュイスもアレニエも、お互いに秘密を抱えながら勇者をサポートするための旅をしていたわけですが。一緒にいる時間が長くなり、色々と経験していくなかで互いの秘密を知る事にもなり……その上で、変わらず一緒にいるのは尊くて良かったですね。
勇者の命を奪うとすら予測された魔族の幹部を、撃退してみせたアレニエはお見事でした。