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「お前は今後、どうしたいんだい」

(略)

「……これからも仲良く暮らしたいと思っています」

 

魔術師団長を務めるレイは、魔術公爵家筆頭であるミラー公爵家に生まれた容姿端麗の青年。しかし親しい人からは「外見は派手でも、中身は地味」と称されるような人物でもあり……要するに、見た目で寄ってくる人は多いけれど、それを楽しめるような性格はしてなくて。

彼に近づこうとする女性たちがもめる様子を見てきたせいで、妙に枯れた部分を持ってしまって今に至るまで独身だった。

 

そんなある日、占いを得意とするレイの祖母の手配で縁談をすることになってしまって。

お相手はテイラー公爵家の令嬢、ブリジット。最年少で監査を行う部署の班長を務める女傑であり、「鉄の女」とまであだ名される人物だった。

2人とも仕事に打ち込んでいて、出会いを求めるようなタイプではなく。とりあえず家族の手前、顔合わせだけはして断ろうと思ったから、送られてきた身上書にすら目を通さなかった。

 

そんなどこか似たところのある2人だったので、不思議とウマが合って……今後同じような縁談を持ち込まれるのも面倒でしょうから、もういっそ条件を突き合わせて相手を尊重した「契約結婚」をしませんか? ということになって。

時に仕事に協力をしたり、時に夜会に参加したりして。お互いの素の表情なんかを見る度に、じわじわと気持ちが育っていって……。

仮初の契約だったはずの2人が、本当の夫婦になるまでの物語。本編は半分程度の分量でサクッと終わっていて、後半は書下ろしの短~中編が収録されています。

 

「猫耳花粉症」はタイトル通り。前魔術師団長が作成に失敗した魔法薬が拡散してしまって、花粉症の人々に猫耳が生える、という奇怪な症状が広まってしまうことになって。

ブリジットもまた猫耳が生えてしまって、レイが妻を愛でるの楽しんでるの癖が出てて笑った。それとは別に、軽い男である前師団長とのやり取りに嫉妬してるのとかも、ちゃんと恋人してて良いなぁと思いましたよ。

 

「詐欺師」は、地球で言うとマルチみたいな悪徳サービスを提供している男がいるが、作中の法では明確にしょっ引けるものでもなくて。それに対抗するためにちょっと工夫することになる話。

「レイと出会う前のブリジット」はタイトル通り、実家から見合いについての話が持ち込まれてから、見合いの席でレイに会うまでの彼女の心情が見られる話。真面目だなぁ、というのが良く伝わってきました。

「嘘がつけなくなる薬」は前師団長が作成した表題の薬をもらったブリジットが葛藤することになる話。微笑ましくて好きですね。

 

そして「花祭り」は、好きな相手に女性が自作した紐飾りを贈るという風習のある祭りについて。ブリジットもレイもそのあたりの事情に疎いのは、なんからしくて笑っちゃった。でも2人ならではのやりとりをして、幸せそうなんだからそれで良し!