気ままに読書漬け

とりあえず気が向いた時に読んだ本の感想などを上げてます。ラノベメインに、コミック、TRPGなど各種。推しを推すのは趣味です。 新刊・既刊問わず記事を書いてるので、結構混沌しているような。積読に埋もれている間に新刊じゃなくなっているんですよね。不思議。ま、そんなノリでやっているブログですが、よろしく。 BOOK☆WALKERコインアフィリエイトプログラムに参加しております。

SQEXノベル

滅亡国家のやり直し 今日から始める軍師生活1

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「レイズ様も言った通り、貴方は良くやった。さ、胸を張ってみんなの元に戻りましょう、ロア」

 

ルデク王国の平民、ロア

彼は記憶力が異常に良く、同僚からは人間辞書として重宝されていた、ちょっと本を読むのが好きなだけの文官だった。

しかし戦乱によってルデク王国は滅び……彼は40年間放浪した末に、異国の地で死んだハズだった。

 

死んだハズのロアが次に気が付いたのは42年前。

ルデク王国が滅亡に転がり落ちる前、なんとか踏みとどまれる可能性のある地点であった。未来の記憶も有している彼は、まだ過去に戻ったことに現実味がなく……友人たちとの会話の中で未来で知った情報をポロっと零すことになって。

「盗賊騒ぎに騎士団が派遣されることになったが、あれは領主が他国とつるんでいるから簡単には解決しない」と言う彼の言葉を、第10騎士団の副騎士団長であるレイズが聞きつけて。

 

ちなみに第10騎士団の騎士団長は国王が就任しているそうで、レイズは全権を任されて現場で動いているそうで。現場のトップが、ロアの荒唐無稽ともとられかねない発言を聞いて、その根拠を聞き、しっかりと対応に反映させてくれる柔軟さを持っていたのは救いでしたね。

そのことからロアはレイズに見出され、第10騎士団に登用されることに。

ロアは未来で知った様々な知識を用いて、悲劇を回避しようと試みていくわけです。

ただ、ロアはあくまで一介の文官であり、祖国滅亡後は放浪していた身であって。出来ることには限りがあるんですよねぇ。

 

例えば瓶詰という新しい保存食が作られたのは知っていても、職人ではないから適した瓶をつくれたりするわけではない。……まぁアイデアは知ってるから、出来る範囲で形にしていったりしてるんですが。

例えば、異国の王子が死を賜る結果になった事件は知っていても、なんでその時その人物がそこに居たのかは知らないし。

 

それでも、歴史を知っているからこそ出来ることは間違いなくあって。

本来ならもっと多くの犠牲が出来ていた事件を、早期解決したり。負傷した引退を余儀なくされた人物を助けることに成功したり。

もっとも、国が滅びに向かう前……戦乱の時代の中ではあるので、まったくの犠牲が出ないなんてことはなく。

ロアはそういった犠牲とかとも向き合いながら、それでも祖国滅亡回避のために前へ進んで行くんですよね。WEBは完結済みで、既読なんですが好きな作品です。刊行続いて欲しいなぁ。

魔術師団長の契約結婚

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「お前は今後、どうしたいんだい」

(略)

「……これからも仲良く暮らしたいと思っています」

 

魔術師団長を務めるレイは、魔術公爵家筆頭であるミラー公爵家に生まれた容姿端麗の青年。しかし親しい人からは「外見は派手でも、中身は地味」と称されるような人物でもあり……要するに、見た目で寄ってくる人は多いけれど、それを楽しめるような性格はしてなくて。

彼に近づこうとする女性たちがもめる様子を見てきたせいで、妙に枯れた部分を持ってしまって今に至るまで独身だった。

 

そんなある日、占いを得意とするレイの祖母の手配で縁談をすることになってしまって。

お相手はテイラー公爵家の令嬢、ブリジット。最年少で監査を行う部署の班長を務める女傑であり、「鉄の女」とまであだ名される人物だった。

2人とも仕事に打ち込んでいて、出会いを求めるようなタイプではなく。とりあえず家族の手前、顔合わせだけはして断ろうと思ったから、送られてきた身上書にすら目を通さなかった。

 

そんなどこか似たところのある2人だったので、不思議とウマが合って……今後同じような縁談を持ち込まれるのも面倒でしょうから、もういっそ条件を突き合わせて相手を尊重した「契約結婚」をしませんか? ということになって。

時に仕事に協力をしたり、時に夜会に参加したりして。お互いの素の表情なんかを見る度に、じわじわと気持ちが育っていって……。

仮初の契約だったはずの2人が、本当の夫婦になるまでの物語。本編は半分程度の分量でサクッと終わっていて、後半は書下ろしの短~中編が収録されています。

 

「猫耳花粉症」はタイトル通り。前魔術師団長が作成に失敗した魔法薬が拡散してしまって、花粉症の人々に猫耳が生える、という奇怪な症状が広まってしまうことになって。

ブリジットもまた猫耳が生えてしまって、レイが妻を愛でるの楽しんでるの癖が出てて笑った。それとは別に、軽い男である前師団長とのやり取りに嫉妬してるのとかも、ちゃんと恋人してて良いなぁと思いましたよ。

 

「詐欺師」は、地球で言うとマルチみたいな悪徳サービスを提供している男がいるが、作中の法では明確にしょっ引けるものでもなくて。それに対抗するためにちょっと工夫することになる話。

「レイと出会う前のブリジット」はタイトル通り、実家から見合いについての話が持ち込まれてから、見合いの席でレイに会うまでの彼女の心情が見られる話。真面目だなぁ、というのが良く伝わってきました。

「嘘がつけなくなる薬」は前師団長が作成した表題の薬をもらったブリジットが葛藤することになる話。微笑ましくて好きですね。

 

そして「花祭り」は、好きな相手に女性が自作した紐飾りを贈るという風習のある祭りについて。ブリジットもレイもそのあたりの事情に疎いのは、なんからしくて笑っちゃった。でも2人ならではのやりとりをして、幸せそうなんだからそれで良し!

転生したら最強種たちが住まう島でした~この島でスローライフを楽しみます~1

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「まあアラタの異常性はこれで良くわかったわ。それと、これからたくさん頑張ってもらっても大丈夫ってことも。というわけで、これからもよろしくね」

 

神様のミスで死んでしまい、異世界に転生することになった主人公のアラタ。

彼は『病気と怪我をしない強い肉体』を与えられて異世界に送り込まれることになったわけですが……タイトルにある通り、目覚めたのは最強種が住む島だった。

この島に住む神獣族や、鬼神族、古代龍に真祖の吸血鬼などなど。人間社会においては、歴史書どころか神話レベルの古さと逸話のある種族だとか。

 

アラタはこの世界の常識に疎いんですが、王命によって伝説にある島捜索していたチームの一人であるレイナが打ち上げられているのを発見。

彼女を助けたことで、一緒に過ごすようになって……色々とこの世界の常識について教えてもらえるのは助かりましたねぇ。

レイナ曰く、この島の住人一人でも外の世界でその力を振るえば『天災』として、総力を挙げて戦わないといけないレベルだそうで。

彼女自身人類としては強い部類だったのに、チート肉体を貰ったアラタよりも戦闘面では下になってしまう、というあたり魔境っぷりが伺えます。

 

というのもこの神島アルカディアは、創造神によって作られた強力すぎる生物たちを外に出さないために作られた場所で、外に出られないような結界が張られている場所だって言いますし。

中に入れるのも、一定以上の強力な魔力を持つ者だけっていう閉ざされた島であるようです。とはいえ無為な争いに飽いている長命種も多く、言葉も通じるしアラタのチートスペックによって魔獣にも対処できる。

そしてレイナは持ち込んだ資材で生活面や、料理などでフォローしてくれる。現地の住人を餌付けして、良いコミュニケーションも取れているしで、安心して読める作品でしたね。



忘却聖女4

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「仮令我々が壊滅しようが、君達は生きてこの場から落ち延びる必要がある。その責がある。――君には、分かるはずだ、マリヴェル。私は君に、その責を教えたのだから」

 

神に作られた人形であった聖女マリヴェル。

そんな彼女を愛し、人としての生き方を教え込んだ当代の教会。その忘却が痛かったわけですが……記憶を残したエーレの足掻きが、ついに実を結ぶことになって。

そこに至ってしまってなお、自分を大事にしなさすぎて怖い部分はありますが、吹っ切ったエーレが都度修正かけてくれてるので良いコンビだなぁ、と思ってみていました。

 

幼少期のエーレが眠っていた時期、マリヴェルと想い出を紡いでいた時の断片が描かれていたのも良かったですねぇ。

モノとしての価値基準で語るマリヴェルに、人としての生を拒絶しつつも返答を返してしまうエーレ、真面目だなぁというか。彼女の影響を受けて外に出る覚悟を決めたの、良いですねぇ。

始まりがそうだからこそ、エーレがマリヴェルの傍に居ようとするのは決まっていたんだな、というか。エーレが「自分は勝手に幸せになる」と言いつつ「俺の怒りはお前にやる」と語っているの、良かったです。

 

自分の使い方を定めたというエーレは、本当にそれをやり遂げたんですよね。

十三代聖女に就くことを決めた当代の神官たちに、マリヴェルとの繋がりについてエーレが指摘して言ったことを、それぞれが心当たりあるシーン好きです。

そういう指摘などの積み重なりもあり、記憶が戻らないままマリヴェルが聖女として教会に帰還することに。

 

先代聖女が犯した罪についての調査を進め、彼女が遺した呪いの根源も見つけた。

王城との会談の席を設けて、潜んでいた先代聖女派を炙り出しもした。

……そうした諸所の準備の間には当然書類仕事も挟まるわけですが、意識が逸れている隙に重要書類に署名させているエーレ、強すぎて笑っちゃった。

当代聖女が帰還したことと先代聖女の暗躍について気付き、聖女選考を停止して候補生たちを神殿に留めることにして。彼女たちの抱えている事情についても聞き取りをして、良い方向につなげようとしていた。

 

……とはいえ、敵も当然大人しくはしてくれないんですよねぇ。

先代聖女派の計略はとても長い時間をかけて積み上げられたもので、最終局面になんとか踏みとどまろうとする状況なわけで、いつでも苦境だったわけですが。

それにしたって、まさかあんな事態に発展しようとは。衝撃的すぎて、読んだ瞬間ちょっと固まっちゃいましたからね……。

彼の仕込みの影響で、望んでいた変化もまた訪れてましたが……タイミングがタイミングで、素直に喜べなかったのが悲しい。

ボロボロに追い込まれていった状況で、最後のあがきをマリヴェルは示そうとしてましたが……どうか救いがある結末を、見せてほしい。

 

巻末書下ろし外伝は『忘却神殿・Ⅳ』。

マリヴェルに縁談が持ち込まれて、相手が意欲的だったことでエーレとバチバチバトルすることになる話。その裏で、神官長との距離も近づいていて……「家族にならないか」という提案をされることになる、という名シーンもあり味わい深いエピソードでした。

……でも、最新時系列においてああなっているの思うと涙が……。

忘却聖女3

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「何だ……俺達が叩きつけてきた願いは、きちんと形になっていたんじゃないか。……ざまあみろ、ざまあみろマリヴェル。非力な赤子のような扱いを受けてきた俺達の願いが、神の定めた定義をねじ曲げた」

 

もう口絵のマリヴェルからして、いろいろとヤバい。

かなり限界が近いことが見てわかるのが……とても辛いんですよね……。

「十一聖 物」からスタート。スラム時代のマリヴェルのあり方が描かれるわけですが……いやぁ、歪んでるわ。

厳しい環境ゆえに他者を下に見て、自分たちの惨めさを認めない風潮がスラムにはあるようですが。それ以上に、マリヴェルの自身が物だという認識が強すぎる。

 

神殿で生活して諭され続けてきた今も、自分の優先順位低いとは思っていましたが、原点がコレであることを思うと、だいぶ人間味増してますよね。神官たちの努力が伺われる。

書下ろしパートでも描かれてましたが、国政の失策で生まれたスラムを、かつて救おうとした聖女もいたようですが失敗。先代聖女は成功の公算が低いと放置して……。

聖女の認知があったころのマリヴェルは、いつかそこにも手を入れたいと王子と話し合っていたとか。

本当に。突拍子もない言動とかもするし、常識外れではありますが、聖女であろうとする彼女の姿勢は本当に好きです。

 

神殿の医務室でマリヴェルが覚醒した時には2日ほどたっていたようですが。いまだにエーレもベッドの住人で……ここで「当代聖女陣営、壊滅です!」とか思っちゃうあたりノリが軽い。

本園後半部分でも緊迫してる状況で、「こってりどろ~り濃厚呪詛新発売って感じです」「最低最悪な商品に許可を出した部署を叩き潰せ」とかいうやり取りするし。マリヴェルとエーレの会話、好きなんですよねぇ。

 

事ここに至っては協調した方がいいとマリヴェルが判断したこともあって、神官長達との情報共有が行われることになったわけですが。

マリヴェルへの信頼が培われたわけではないので、微妙な距離感ではあるんですよねぇ。他者を交えたことでマリヴェルとエーレの抱いた「忘却」について深堀りする余裕ができたのは良かったですけど……それこそが、致命的というか。

国全体に及んだ忘却はどうしても粗い部分がある中で、異常を認識しづらいマリヴェルとエーレの忘却は性質が異なった。違う忘却がかけられていた理由が、あまりにも切ない。

 

真相に迫れば迫るほど、マリヴェルの限界も近づき……聖女を大切にしているエーレの慟哭も深くなっていくのが、こちらにも刺さって痛いんですよね……。

どうやってそれを為したかはさておき、エイネ・ロイアーの傲慢な行いの一端や、神々の動向なんかも知ることができたのは良かったと言えますが。じゃあその問題をどう解決していくかっていう取っ掛かりはまだ足りないのが悩ましい。

……でも、エーレがマリヴェルの忘却を思い出させて心残りを作ったり、涙を流すこともあったエーレが笑って彼女の錘となってくれたのは、胸が暖かくなりました。

彼が本編最後に見つけた役目をはたしてくれる時を待ちたい。

 

で、今回半分くらい書下ろしなんですよね。『外伝・忘却神殿Ⅲ』が驚きの厚さで笑った。いや電子で読んでるんですが、この時点でページ数50%とかでしたからね。

マリヴェルが神殿で過ごしていた穏やかな時期の話。ボリュームたっぷり作ってくる料理長によって、エーレがグロッキーになってるのとか笑ってしまった。

聖女と王子の関係はそこそこ良好でも、神殿と王城の間には先代聖女の作った溝があって、どうしたって問題が生じる時もあるみたいですけど。それでも未来を見据えてるマリヴェル達が好きです。

 

神殿の業務として聖女が神殿を出ることが、年に数度あるそうで。今回はそれの話。当然ほかの神官と一緒なんですけど、マリヴェルと神官たちの距離感がとても良いからなぁ。

過去編大好きなんですけど、いまそれが失われてるのを定期的に思い出すので痛くもある。

一般的な人が思う神官らしさも聖女らしさからも遠いマリヴェルですけど、信仰心とかは本物で……だからエーレが胃を痛めるんだな。「任務に出る度~」って文句言われるのも納得。

忘却聖女2

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「私は誰ですか!」

(略)

「あなたは私を忘れないと誓った! ならばあなたはっ……あなた、だけは。この問いに答えを提示し続けなければならない。そう、言ったでしょう? 私に、そう言いました。だから、エーレ」

 

謎の術によって顔を焼かれ、さらには元自室であるところの聖女の部屋に転移させられたマリヴェル。

同様に転移してきた男たちに襲われかけたりもしましたが、助けを呼んで上手い事回避して。戦闘能力こそないですけど、立場が悪かった聖女として暗殺者に狙われまくった経験からか、かなりタフで強かですよねぇ。

トラブルが起きても、優先順位を決めて動けるし。でも、冷静に対処できることは怒ってないのと同義ではないんですよね。

 

自分の身が汚されたかもしれないことより、その出来事が自らの庇護者だった神官長の汚点になって追及されてしまう可能性に怒るマリヴェルは、本当に周囲の人々を大切にしていたんだな、と言うのが伝わってきます。

……こういう描写を見る度に、今はそほとんどから忘れ去られてしまった彼女の寂しさを思わずにはいられないんですけどね……。

 

マリヴェルの隣に居るエーレが、マリヴェルが自分を大事にしなかったり間違った方向に行こうとしてたりすると、逐一指摘してくれるので、なんだかんだ良いコンビではあるんですけど。

忘却された状態でもなおマリヴェルは変わらず気ままで、記憶があったころの神官たちはよく振り回されていたんだろうなぁと言うのも分かってその心労を労いたくもなりました。

1巻でもそうでしたけど警備されているはずなのに、察知されずに抜け出したり王族居住区に潜入したりと、野生動物もびっくりな特技持ってる聖女って何……。

 

彼女の性格以外にも、先代聖女の行いがあったために当代の神殿はかなり苦労しているというのは語られていましたが。

マッチポンプにもほどがあるというか。この国はいまこんな問題を抱えてますよね! って国民を煽って、「私が指摘したからようやく対応した」と自らの功績にする、なんてことをやっていたそうで。

本当はその問題を王城も認識していて、手間と時間をかけて対処したというのに。……そんなこと繰り返したんだったら、そりゃあ神殿と王城の間も険悪になるわ。

 

先代聖女エイネの振る舞いを見ていると、マリヴェルの方がよっぽど聖女として相応しいと思いますけどねぇ。……定期的に脱走したりしてるし、問題がないとは言いませんけど。

先代の側近で会った前神官長を確保して、情報を引き出したりもしましたが……まだまだ全容解明には遠いというか。道のりは厳しいですねぇ。

 

マリヴェルの中には、「当代聖女を忘れる」のとは違う形の忘却があることも明らかになって。異質な存在の関与があることもハッキリしましたが。謎が増えていくばっかりで、どうにももどかしいですな。

でもこの先に望む事だけはハッキリしていて、どうかこの心優しい少女の記憶を人々が取り戻して、ハッピーエンドに辿り着いてほしいなと思っています。

 

エーレが終盤に言った「私の報告などより聞かなければならない言葉がある」とか、本当に刺さるんですよね……。

そこからの巻末書き下ろし「忘却神殿Ⅱ」。保護されたばかりのマリヴェルが、神官長の肩に座って本を読んでる微笑ましい場面から始まるんですが……。この当時の彼女は、今以上に自分に価値を見出してなくて、痛々しい。神官長が届かぬ言葉に無力感を覚えたのも無理はない。

エーレとマリヴェルの交流が間に挟まり、マリヴェルが意識を失った本編後、神官たちとエーレが話すシーンが入ってたのは嬉しかったですねー。結びの言葉がこれもまた痛い。

忘却聖女

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たとえあなたが私の願いを叶えてはくれなくても、誰かの祈りが通じた事実があるのなら、祈りという概念が捨て去られていないのならば、人は夢を見ていけるのだ。

(略)

私はそう思っている。そして神様は、そんな私を聖女に選んだ。

ならば、私の神はそういう存在なのだ。

 

アデウス国の象徴であり、神の代弁者とも言われる聖女。

その十三代目を務めていたマリヴェルは、しかしある日周囲の人々の記憶から消え去ってしまった。

誰も知らないうちに神殿の奥部へ侵入した不審者として囚われ、外に追い出された彼女はスラムに流れ着き、しばらくはそこで逞しく暮らします。

 

それもそのはず、マリヴェルは元々スラム出身の名も無き少女で、現在の神官長に保護され聖女になったという経緯があって。

スラムでいい感じに薄汚れた住人と同化しつつあったある日。なぜか彼女の事を忘れていない唯一の神官、エーレと出会います。

彼はマリヴェルの記憶が人々から消え去った時、出張に出ていた関係で追放される場面に居合わせなかったんですね……。

 

マリヴェルの認識において「知り合い以上、友達未満」の相手であるようですが……彼には聖女についての記憶があり、神官としての責務を果たせる相手であった。

エーレがマリヴェルに向ける態度には確かな敬意と――本人たちは認めたがらないでしょうけど親愛があった。

 

本当はそれを、彼女を追いだした人々も向けてくれていたんだと思うと心が痛む。

本人が割とケロッとしてるように見えたから、誤解しがちですけど。彼女にとって神殿は、傍にいる神官たちは、家族のような相手で。

そんな人々からの記憶がなくなってしまって、辛くない筈がないんですよね。一人だけでも記憶が残っていて本当に良かった。

 

……いやまぁ、当人のノリが軽いのも確かなんですけどね。勉強などから逃げすことも多くて、神官たちの追跡・捕縛の技術は向上したようですし。お仕置き用の「こめかみ掘削拳」が神官長からエーレに直伝されてる辺りとか、ほかにも皆伝貰ってる神官がいるくだりは笑えます。

 

スラム出身であることや先代の聖女が偉大だったために、彼女には敵が多かった。今回の忘却も、そうした敵の打ってきた手だと思われた。

神殿のみならずアデウス国中から聖女の記憶を消し去ってしまう、なんて常識はずれの術を使える存在がいるか、と言われると心当たりがさっぱりない状態で。そんな相手に後手に回ってる状態を思うと中々に頭が痛いですが。

 

象徴としての聖女が不在の状況はよくない、と選定の儀式が行われることになって。

マリヴェルはかつて突破したその儀式に乗り込みます。そこでも敵の手と思われる妨害工作に遭遇したりしますが、折れずに進み続ける彼女の在り方はとても尊い。

特に、第三試験の場面が良いですよね。彼女は確かに言動が軽く、聖女という立場を何だと思ってるのかって、他の受験者に云われてしまう程です。

 

でも、彼女の心は間違いなく聖女に向いてると思うんですよ。彼女はスラム出身と言う事もあって、自分の価値を見出していない。汚れているとすら思っている。

でも気高く美しく優しい神官長のような人に憧れて、自分がそうなれるとは思わないけど側にいられるだけの真っ当な人間に近づきたいと思う気持ちはある。

だから、神官長が侮辱されるような事に対しては怒りを示し、謝罪を要求する。どこまでも人間らしい彼女が本当に好き。

 

巻末には描き下ろしの『忘却神殿』が収録。

エーレ視点で、メインは彼がまだ十三歳だったころを描く過去編ですね。

マリヴェルが聖女になってから三年ほど経過した辺りだそうで。脱走した彼女と出くわしたり、聖女を狙った拙い謀略を見たり。

今よりも自分の価値を認めてなかったマリヴェルの姿や、彼女と距離が近い神官たちの姿が描かれていて、本編との違い過ぎる距離感に心が痛くなる短編でしたが読めて良かった。取り戻せるといいなぁ……。

プロフィール

ちゃか

 ライトノベルやコミックを中心に、読んだ作品の感想を気儘に書き綴るブログです。
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