気ままに読書漬け

とりあえず気が向いた時に読んだ本の感想などを上げてます。ラノベメインに、コミック、TRPGなど各種。推しを推すのは趣味です。 新刊・既刊問わず記事を書いてるので、結構混沌しているような。積読に埋もれている間に新刊じゃなくなっているんですよね。不思議。ま、そんなノリでやっているブログですが、よろしく。 BOOK☆WALKERコインアフィリエイトプログラムに参加しております。

UnnamedMemory

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「さあ贖罪を始めましょう」

 

3943話を収録。

ティナーシャの魔力を使い、大陸全土に影響する魔法を行使しようとしたラナク。

彼がかつて使った禁呪で生まれた魔法湖……その際に用いた定義名もこの時明らかになるわけですが。

始まりに憐憫、2番目に嫉妬。3番目に否定、4番目に憧憬、5番目が憎悪。

暗黒時代に出来たトゥルダールの王族は、力によってえらばれた。王族として認められる力があったら、親元から連れてきて教育を受ける形になったわけですが。

ラナクはだから、はじめはそうやって連れてこられた年下の少女に憐憫を抱き……自分以上の才覚を示す少女に嫉妬し、否定したくなり、力を求めるようになり……最後には憎悪に満ちてあんな行いに至った、と解釈することが出来るわけです。

 

そしてその全てが明らかになったところで、ティナーシャが彼女の目的の為に動き出すわけです。

パシッと手を払いのけるシーン、実に良いですね。

……ラナクが魔法の眠りで400年を過ごし、長い年月を生きたことで精神的に不安定になっていると示した上で、断片的でもその400年をしっかり生きて来たティナーシャの在り方見せてくるの、重い……。

憎悪で動けなかった彼女が、100年で何とかそれを封じ込めて、塔を築いて達成者との交流をすることで、少しずつ人を好きになれたというの良いですよねぇ。

18Pのこれまでの達成者が階段の先に進んで行く中で、ティナーシャは階段に座って動かず……そもそも、ティナーシャの座っている隣の段から断絶を示すように欠けている、というのが魔女ティナーシャのこれまでの生を示してて、寂しさもありつつ良い画だなぁとも思います。

全てが終わった後、彼女が階段の先に進む描写もされているのまで合わせて好き。

 

ティナーシャの目的は、魔法湖に囚われたかつての民の魂の解放。

そのためにラナクの構成を組み替えて動けなくなっていたところを、オスカーが庇う構図は熱かったですね。

軍勢を滅ぼして調子に乗ったのかは知りませんが、オスカーを舐めたクスクルの魔法士長バルダロスがあっさり切り捨てられるのは痛快で好きです。

コミカライズでオスカーがラナクに最後の問いかけを投げた時、ラナクがどんな顔をしているのか描かれたのは味わい深かった。いろんな感情が入り混じってるのが伺える良い顔でしたね……。

 

そして全てが終わった後の、第42話の扉絵がよかったですねぇ。円柱に幼少期のティナーシャと、成長した彼女が背中合わせで座っている構図。本編のティナーシャが覚悟決めた目をしているのに対し、扉絵のティナーシャは幼少期は楽しそうだし、成長した方は穏やかな顔しているのが、抱えていた荷物を降ろせた安堵を感じてよい。

無事に帰ってこられて、その後オスカーに触れていいかと聞いて抱き着くくらいには愛着があるのに「婚約者という事になってる」と言われて「なんでだよ!」とツッコミ入れるのが実にティナーシャ……。

 

そして8巻最後のエピソードがルクレツィアの媚薬菓子事件なの、日常戻ってきたエピソードとして良かったですけど、温度差に笑った。

いや、好きな話なんですけどね。ルクレツィアがティナーシャに探してもらった指輪、いろんな感情がこもってるものだったわけですし。

Unnamed Memory7

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「親父殿 駆け引きは不要だ 俺は既に決めている」

「負ける気はないし 何かを手放すつもりはない」

 

3438話を収録。

帯文が「俺は花嫁(ティナーシャ)を取り戻す」なのが、オスカーの重さを感じて好き。

オスカーができる事をしている中で、ファルサスに2通の書状が届いて状況が動くことに。

一つは、タァイーリから。クスクルからの攻勢が激しいので救援要請。

内紛にどこまで手を出すべきか、という意見も出てましたが……同時に届いたクスクル側の手紙には、周辺の国に「クスクルに従属しろ」と宣言するもので。

更にクスクルに与したティナーシャによって、都市の住人が消失する事件まで起きて、アカーシアの剣士であるオスカーに魔女討伐の依頼まで合わせて持ち込まれることになったわけですが。

 

その上で、オスカーは諦めない道を選ぶの良いですよね。

彼の父であるケヴィンも息子を試すような物言いをして、決意が揺らがないのを確かめた上で、王位を譲ることを決めて。

……原作読んでいると、ここでケヴィンが零している「血筋かな」というの、彼も彼でファルサス王族なんだよなぁ……って思いが強くなるので地味だけど好きなセリフです。

 

タァイーリ、魔法士迫害をしているから魔法攻撃に弱いの、納得できる話ではありますが。大国が派遣した軍勢が、魔法士によって壊滅させられたというのは周辺国の意識を変えるのには十分で。

母が行方不明になった少年から、魔女を殺す気がないのかと詰められた時、「よく考えろ」と諭しつつ、自分の推測が間違っていたらその時は魔女を殺すというあたり、信じる部分と決断して切り捨てる部分の線引きがハッキリしてますよねぇ、オスカー。あまりにも王族として覚悟が決まってる。

 

この大陸にいる「魔女はなぜ魔女なのか」。つまり長く生きている高魔力持ちはなぜ全て女なのか、という問いかけなんですが……男は魔力的には不安定で、長く生きるのには向かない、という話で。

理想を語るラナクが精神に影響を受けているというのが、もう怖くてしょうがないよな……。

 

オスカーとティナーシャそれぞれの覚悟の決まり方を見ると、タァイーリのルスト王子とか魔法士排除を謳う国に育ち、常識を揺るがすティナーシャの言葉を全て否定しないあたり素質は感じますが……。

ティナーシャを完全に信じたわけでもなく迷いの中にある中で、援軍要請しておきながらティナーシャの言葉に従ってのらりくらりと誤魔化してたの、悪手だよなぁ……としみじみ思いました。

なんならティナーシャ達との戦いに発展しそうになった時、ティナーシャを逃がそうとオスカーに切りかかってましたが、王子が要請に従ってきた他国の王に切りかかるとか国際問題待ったなしでは……。

オスカーも招待無しで王子の私室に踏み込んだりしてますが、釣り合わんだろ感が強い。

 

とは言え、ルクレツィアも言っていましたが、ティナーシャにとって重要なタイミングでオスカーが居あわせたのは運命的ですよねぇ。

色んな思惑がまじりあった結果、ラナクが新しい秩序を作ろうとする瞬間にオスカー達は間に合ったわけですし。

あとは表紙絵になっているティナーシャが白い花嫁衣裳来てて、扉絵で黒いドレス来てるのどちらも似合ってて良かったですね。

Unnamed Memory after the end5

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「ティナーシャ、人であることを忘れるな。一人で全てをやろうとするな。酷なことだろうが……お前は人をやめてしまうには力が大きすぎる」

 

書き下ろしエピソードである「円卓の魔女」とWEBで掲載していたエピソードに加筆した「鳥籠の女」の2編を収録したate5巻。

水の魔女カサンドラに、屍人姫ヒルディア・ハーヴェにイラスト着いたのは個人的に凄い嬉しいポイントでしたね。

 

今回は表紙絵がティナーシャ1人で描かれている通り、逸脱者2人の協力はほとんど見られません。

「円卓の魔女」においてはオスカーまだ死んでるタイミングで、たまたまティナーシャがルクレツィアに会いに行ったときに、魔法大陸で起きている不穏な事件の話を聞いて解決しようとする話だったわけですし。

オスカーがエルテリアの繰り返し以外に、アカーシアを生んだ世界外の力を取り込んでいることで、呪具に対して特効を持っているのに対して、ティナーシャはその膨大な力でごり押ししている部分もあって。途中話題にあがってましたが、今回の呪具もオスカーが活動可能な状態だったら、もう少し楽だったんだとは思います。

ただ、呪具へのカウンターとして生み出された逸脱者2人は、呪具が減るにつれて生まれ変わりのサイクルに間があくようになっていて……だから、今回みたいな状況も珍しくなくなってしまうんですよね。悲しい。

 

事故で海中に沈み、近ごろ魔法大陸に運び込まれたことで、これまでティナーシャ達の探索から結果的に逃れていた、銀色の円卓。

13人の参加者を集め、そのメンバーに『ある都市の滅亡を回避する方法』を考えさせる呪具。ルール説明と、シミュレーションを走らせた後の結果を伝えるために、ゲームマスター的な人格が付与されていたのが、今まで例のない特殊な存在ではありましたね。

一般の参加者がどれだけ模索しても、シミュレーションの答えは「滅亡」から変化せず……。最後には呪具の意思によって排除されてしまう。

 

そしてティナーシャは一度介入した時に、呪具の意思が排除を成したときに笑うのを感じた。

彼女の片翼であるオスカーは「人の尊厳を傷つけられた」と感じたから、この長い呪具の戦いに臨んだのだ、と。だから、まさに尊厳を傷つけまくっている呪具を放置は出来ないと戦いを決めるの、良いですよねぇ。

……その解決方法が、自分の魔力に耐えられる12人を揃えて力技でごりおすだったのが実にティナーシャらしいですけど。

ルクレツィアは死ねないから助力できないといいつつ、ティナーシャが失敗した時に備えてオスカーに伝えるための情報を残していくように言ったり、彼女なりに動いて援軍に声をかけてくれていたのは良かった。

 

ファルサスに継承されたトゥルダールの精霊たちもそのほとんどが元の位階に戻っていて。さらには、その中の何人かは死んでいたというのがサラッと描かれていたりするの、無常だけど誠実だとも感じます。

12人の精霊のうち、1人はまだファルサスに残っている。3人は死んだ。そして残った8人を召喚して。逸脱の繰り返しの中で縁の出来た最上位魔族第二位ツィリーも招くことに。

 

ツィリー……元第2位がオスカーに執着したことでティナーシャに殺され、複数の位階が揺らいだことでバランスをとるために生まれた魔族なんですよね。

過去、同人誌『時の夢』収録の「猫の爪」や『時の夢2』の「寧日」なんかでその断片的なエピソードが描かれていて、その当時はオスカーに執着して殺された前後なので、まだまだワガママな子供って感じだったんですよね。

それが1人でも立てる立派な女王様みたいな風格を持って登場したので、驚きました。ティナーシャと相性悪いのは相変わらずみたいでしたけど、自分の助力について「見返りがあるからやったなんて恥ずかしいでしょ」と伝えないで良いと言った事とか、本当に成長していて……良かったですね。

精霊8人、ツィリーとティナーシャで10人。そしてティナーシャが出した求人になんかうっかり伝承で語られるような厄介ごとでもある「屍人姫ヒルディア」が応募してきて。彼女と彼女の従者を配置することで2枠を埋めて。

 

……そして、ルクレツィアが参加できない代わりってわけじゃないですけど、生き残ってる他の魔女2人が協力してくれることになったのは良かったですね。

ラヴィニアが参加者として。そして外れない占いをするカサンドラが盤外の応援として。

 

人外大決戦みたいになってて、凄いワクワクしました。

今回、呪具側に意思があることで、その悪意みたいなものもあからさまに受けることになったわけですが。

「ある都市の滅亡を回避したい」が思考会議のゴールなら「先んじて他の都市を滅ぼしてしまうのもアリでは?」とか、過激な提案してるのちょっと笑った。

イツとかに指摘されていましたが、状況を都度修正出来ないあたりが悪辣ですよね。

参加者が意見を出せるのは「こういう方針で進めよう」という最初の一手だけで、その後は呪具の演算まかせ。シミュレート結果は「複数パターン試しけど無理でした」ばかりで詳細は秘匿されている。

呪具は全てのパターンは網羅していると豪語しますが、性能限界で滅亡の50年前からしか演算が出来なかったり、「滅びる前に滅ぼせ」という過激なスタート地点には驚いていたりするので、全然完全じゃないんですよね。……完全だったらそもそも彼らの故郷滅んじゃないでしょうけども。

 

核に迫ってもなお足掻く呪具に、ヒルディアが提案をすることで「破壊への抵抗」ではなく「呪具本来の機能」で動こうとして隙を作るの、凄い好みの解決方法でしたね……。

強力な参加者をあつめてなお呪具は厄介で……ラヴィニアの命が代償になってしまったのは、惜しい。

死に瀕した中でも、ティナーシャに「お前は人だ」と祈りを託すように、母が子を教え諭すように言葉を紡いでくれたの、良かったですね……。別れは寂しいですけど。

 

魔法大陸の暦で考えた時に「円卓の魔女」は3005年と、UM165455年だったことを想うと、とても長い旅を続けて来たなぁ……という思いになります。

「鳥籠の女」なんて一気に時間が飛んで4690年代ですからね……。逸脱した2人は、元々最強の魔女とそれに対抗しうる魔女殺しの剣の遣い手であったわけですが。これまでの繰り返しから示すように、無敵じゃないし普通に死ぬんですよね。

永遠なんてない。全ての物には必ず終わりがある。……それは、彼らの旅の始まりであったファルサスが滅亡してることからも、伺える話です。WEB既読民として知ってましたけど、年表に明示されるときまで追いついてしまったか……と感慨深くなった。

 

さて、後半「鳥籠の女」。魔法大陸、戦乱大陸(東の大陸)、虚無大陸、埋没の大陸……とこれまで4つの大陸を渡り歩いてきたわけですが。

最後となる、埋没の大陸と同じく水の檻で閉ざされた閉鎖大陸が舞台となるエピソードです。

大陸内には毒が満ち、鍵という装置がないと死んでしまうとされる世界で、帝国の軍人として勤めるアルファスと、皇帝の前に現れて鳥籠と呼ばれる檻に敢えて滞在しているティナーシャの話。

ティナーシャと接触しまくってて、オスカーの肉体年齢も全盛期に近そうなのに、いつまで経っても記憶を取り戻す素振りがなく。

 

そんな中で、ティナーシャは別の人物と組んでクーデターに寄与したりと好き勝手やっている、なんか変わった味わいのあるエピソードなんですが。

この大陸の楔に迫る戦いにティナーシャが与していたのは、結局のところ彼女の連れ合いの為だった、と。

1600年近くたっているとはいえ、この前のエピソードの「円卓の魔女」で「一人でやるな」とラヴィニアに言われていたのに、一人でやろうとしまくってるティナーシャは本当にさぁ……。

 

「章外:青の部屋」が、好きなんですよね。オスカーが記憶を取り戻し、勝手をしていたティナーシャに、「2度とするな」と釘をさす話ではありますけど。彼が語る「一番うれしかった時」が、公人としての割合が強すぎるオスカーが我欲を珍しく示すシーンで、かなり好きだったので、しっかり収録されてて嬉しかったです。

まぁティナーシャもラヴィニアの指摘をスルーして一人でやったわけですが。オスカーはオスカーで、ate2の頃、ティナーシャを失った後にミラに言われた「ティナーシャ様がいないと何もなくなっちゃうところ、もっとあの方に見せた方が良いよ」ってのを明示してこなかったわけですから、似た者同士でもあるんですが……。

Ate6で、のこった2つの呪具にまつわるエピソードが描かれることで、物語に一つの決着がつこうとしているの、なんというかひどく感慨深いですね……。

楽しみです。Ate6の後に、『End of Memory』も描かれてくれると凄い嬉しいですけど、どうなりますかねぇ。

Unnamed Memory 虚ろ月

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「誰のことも見たことないんですけど。人を好きになるってどういう気持ちなんですか?」

「そこからか……」

(略)

「お前にいつも幸せでいて欲しいという感情だな。その時に一番近くにいたい」

 

C1052024年冬コミ)合わせの新刊。

事前情報で消滅史っていうところだけ聞いていて、タイトルがこの「虚ろ月」という者だったので、悲惨なタイプの消滅史だったらどうしようかと思っていたんですが。

実際問題、ティナーシャが再会するまえにラナクが死んでしまって、彼女が魔女として長くを生きてまで成したかった魔法湖の昇華が叶わなくなってしまった。

 

そのため、もう死にたいな……という絶望にティナーシャが浸っていたところに、魔女の塔に呪われた状態のオスカーがやってきて。

下見のつもりだったけど、塔の解体を考えているとティナーシャが口走ったことで、そのまま挑戦することに。1度目は流石に無理で、塔の外壁を伝って降りたとか無茶するなぁって感じではある。

その後2度目の挑戦で制覇しているあたり、特訓は怠ってないんですよね……。

「死にたい」なんて絶望を負っているティナーシャ相手に、適度に距離をとって無理に踏み込まず、パーフェクトコミュニケーションをとっているオスカーはお見事でした。

 

魔法視の特訓で猫使われているのがなんか和んだ。

不可視で周囲をうろつくから、それをキャッチするのを頑張るという特訓を選んだ理由が「猫を捕まえると嬉しいから」なの可愛いなティナーシャ。人懐っこい猫だと、実際和みますけども。早く察知できれば前足側を掴める、ちゃんと習熟しないと無理なあたり特訓として効果的なのも笑えるポイントですが。

ティナーシャ、いつものルートよりも死を望んでいるからか、ラヴィニアに会いに行くハードルが低いのがなぁ。本編だと、出会った時期が早くてラナク生存の可能性がまだあったのもあって「ただの契約者だから、魔女と戦うまでではない」みたいな距離感だったハズなのに。

ラヴィニアから魔法球の存在をティナーシャが聞いて、それでも使わないことを選んで。

定義名が分からずどうしようもないはずの魔法湖に対して、オスカーなりにできる事をしていたり。普段と違う選択を見られるのは、消滅史ならではで……いつか失われるのが確定しているとしても、とても良いエピソードでした。

タイトルに「虚ろ」とか入ってるので、零れた灰みたいに闇よりだったら怖いなぁとは思っていたんですが(闇消滅史は闇消滅史で好きですけども)、読了後どこか温かい気持ちになれたので良かった。

 

Invitation ――Unnamed Memory 現パロ再録本

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「あんたさ、それって恋人って言うんじゃないの?」

「えっ?」

頭の中大混乱の彼女が、「よそからどう見えようと違うと思えば違う」という結論にたどり着くのは、この十五分後のことである。

 

2411月のコミティアで頒布された、古宮先生の同人誌。

電撃の新文芸から書籍化された『Unnamed Memory』や『Babel』は「―world memoriae―」シリーズに属する作品なんですが、それらのキャラが登場する現代パロディとして『Babel学園』というのを古宮先生は過去にWEBで書かれていたんですよね。

(なお、『月の白さを知りてまどろむ』こと月白にも現パロが存在したりもしますけど、月白は『―world memoriae―』シリーズに含まれないので注意)。

 

で、『Babel学園』とある通り舞台はとある高等学校。雫とかが通っていたり、ラルスが教師だったり。エリクは教育実習生とかで来てたんだったかな? みたいな形だった気がします。

非書籍化作品『Rotted-s』のアーシェやレアのエピソードもありましたけど、レアは年上なので大学生だからアーシェ以外との絡みは基本無かったような。『Babel学園』を読んだ記憶もちょっと薄れて来てるのでちょい自信ない部分もあります。

 

閑話休題。

今回再録されたのは、そんな現代パロディ時空で『Unnamed Memory』のオスカーとティナーシャに焦点を当てたエピソード。『Babel学園マイナス』と題して描かれていたものですね。

あとがきにもありましたが、あくまで先に『Babel学園』があってその時代には夫婦になっている二人が結婚するまでの過去を描いたものなので、マイナスってついてるんですなー。

 

最初の一文というか章の区切りからして「結婚式まであと1011日」とかですからね! ざっくり2年半。『Unnamed Memory』本編では1年の契約期間の間に関係が劇的に進んで行ったのを想うと長いですけど、400年精霊術士を拗らせたりしてなくてもティナーシャは彼女らしい感性で生きているので、まぁ野良猫を懐かせるのには時間かかるよね……感。

 

オスカーは学園の理事長の家に生まれた青年で、作中開始時点ではまだ仕事を手伝ってるけど理事長に就任はしてない状況。

ティナーシャはその大学に通っている一学生だったわけですが、縁が出来てからオスカーが少しずつ距離を縮めていってるのは相変わらずの2人のやり取りでしたね。

ティナーシャの父母が健在だったり、現パロならではのほのぼのエピソードが多くて、終始ニコニコ読み進められて、本編も好きですが2人のキャラそのものも大好きなので、現パロで違う味わいの物語楽しめるのはやっぱり良いですね。

Unnamed Memory after the end4

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「俺は、ずっとお前の傍にいるからな」

(略)

「知ってますよ。信じてます」

 

完全書下ろしで贈られる、アンメモアフター第4巻。

魔法大陸と東の大陸の呪具の捜索は進めていたが、近ごろでは成果がなく。

大陸分割神話によって、この世界は1つの大陸が5つに分かたれたことが分かっていたため、残り5つの呪具を求めてオスカー達は別大陸を求めて海路を旅することに。

 

海は危険なので、ティナーシャが船を浮かべて空路を行ってる時間も多かったようですし、それだけの事をしてもなお半年かかったそうですから、一般的なアイティリス大陸の住人がこの新天地を目にすることってほぼないんじゃないでしょうかね……。

魔法士を狙った襲撃が隣の大陸から起きて、その侵攻による忌避感から外部への進出が止まったという流れもあるみたいですし。

 

章扉で虚無大陸と題されていましたが、オスカー達が到達した場所は現地住人が誰一人として存在せず、滅びた街しかなかった。

調べても調べても滅びた村と街しかなく……最終的にオスカー達は、野営では休まりきらないからと、拠点を創り出していたのは笑っちゃった。

もとからあるもので使える物を使ったりしてましたけど、オスカーもティナーシャも長く生きてきた経験で色んな技術身に着けているし、ティナーシャは精霊術士でもあるので開拓めっちゃ楽しんでて良かったですね。ほのぼのした。

 

 

そんな人が生きていない場所で、オスカー達がただ一人出会えたのがナフェアという少女であった。

呪具によって統一された言語を経験していないナフェアとオスカーが、最初は言葉が通じなかったけれど……Babel時代に雫が遺して今も伝わっている言語学習用のアイテムが活用されていたのは、このシリーズならではの繋がりを感じて味わい深かった。

 

WEB既読の民として、五大陸の一つが「楔しかない」って言う情報は知っていたんですよね。その真相がアレかぁ……と思うと、無常を感じたと言いますか。

長く続いていた停滞に決着を齎すのが、逸脱者たちであるというのは良かったですね……。未来への希望ではなく、過去の思い出に準じたのそれだけの想いを感じて痛かった。

 

ナフェアと交流できたことで情報が得られて。ティナーシャが派遣していた海への探査。ナフェアの居た大陸しか見つけられなかったのは、残り2大陸は神の遺した力によって封じられていたから。「水の檻」で覆われているため、そのまま「檻中大陸/埋没の大陸」と呼ばれていましたが。

後半はその埋没大陸についてのエピソードでした。魔力がエギューラという呼称で認識されていたり、魔法として出力する文化がなく……むしろ病気とみなされていたり。

雫の故郷である現代地球に比べると未成熟な部分はあれど、車や銃と言った科学技術が発展している、これまでの大陸とはまた違った毛色の大陸でありましたが。

 

7章「新天地」の冒頭が、外部者たちの世界の描写で送り込む呪具についての会話が一部

収録されていたのは、嬉しかったというか。世界観の解像度上がっていくのは良いですよね。……それはそれとして、「影響が出るとしても良い影響のはずだ」とかいう楽観が含まれてるのは「この……」って気持ちになったし。

送り込む呪具が壊れた時にも作用するような補完性を持たせようとしていたりするのは、もうちょっとお手柔らかにって思う気持ちも沸いたりしましたが。

でもエイリアドの「挑み続けるという意思が大事だ」という願いに似た祝福が、嫌いじゃないんだよなぁ……。エルテリア製作者……。

 

埋没大陸は人が生きている場所だったので、序盤は大陸に馴染むためのエピソード。そして後半が本命である呪具にまつわるエピソードとなっていましたが。

なんというか、ままならないなぁと思ったと言いますか。「良い影響のはずだ」とか言ってた外部者を見てからだと無駄にダメージがありましたが。

この大陸の楔が秘匿し続けた神代の遺物に触れてなお生還できたのは何よりでした。……毒を貰ったような状態で、緩やかに死に向かっている状況にはなってしまってましたが。

それでも。幾度繰り返しても別れが痛むとしても。ただ静かに見送れる時間が与えられたのが、良かったなと少しだけ思いました。失われない方が、なお良いに決まってますけどね。


Unnamed Memory6

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「だからこそ俺が手を伸ばす

 俺が立ち止まっていては永遠にあいつに届かない」

 

内部に入り込んでいたミラリス。

その目的は宝物庫に収められた宝玉であったわけですが。

ティナーシャに捕捉された状況でそんな強奪劇が成功するはずもなく。それでも魂すら魔力に変換して抗おうとしたわけですが……失敗。

ただ、ミラリスが最後にティナーシャへ「女王候補者さま」だったり、「妄執との再会」だったりと彼女が引っ掛かりを覚える発言を残していったわけです。

 

その宝玉はオスカーの亡き母が持ち込んできたものだそうですが、オスカーの父である国王の口は重く。

ティナーシャは気になるから心当たりにあたることも考慮してましたが……ルクレツィア以上に厄介だと称する相手なために、即行動というわけにもいかず。

色々と刺激されて迷いが生じているようなティナーシャ相手に「好かれている自覚を持て」と宣言して、アピールしていくんだからオスカーが強いなぁ。

 

31話のティナーシャファッションショー、実に良いですよね!

ティナーシャ自身が頼んでいたものは彼女らしいシンプルさで動きやすさも考慮してそうなのが性格でますよね。

そのあとのシルヴィア、三パターンも選んでるの本気すぎて笑う。ティナーシャの目が泳いでるのも笑えますけど。シルヴィアセレクションだと見開き左のページに載っている奴が特に好きです。

オスカーが選ぶのは式典用なのもあって豪奢でティナーシャに似合ってるのが好き。

 

その次の話で、解呪シーンが見られたのも嬉しいポイント。初出の詠唱では……?

強力な祝福を掛けられていたオスカーに対し、同じ個所に呪いをぶつけることで相殺するという解決方法を見出してるのは凄い。

実際、それを聞いてから詠唱を聞くと呪ってそうだもんな……。

順調に解呪が出来たかと思ったタイミングで、ティナーシャが探し求めていた過去が追い付いてくるんだから悪魔的というか。

オスカーもこれまでの経験でより逞しくなっていて、必要な仕事を片付けた後ルクレツィアに会いに行こうとしているあたり、行動力あって良いですよね。

Unnamed Memory after the endⅢ

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「感情は、人を愚かにもさせますが、賢明にもさせます。それを放棄させれば思考の放棄にも繋がる。別の失敗をするだけです」

 

書き下ろしの『幸福な街』とWEBに掲載もされていた『Void』の2編を収録。

さらに電子書籍には限定短編で3万字ほどある『愛の指輪』も収録されていて、他のエピソードの裏で起きていた事件について描かれているので、紙派の人でも今回だけでも電子買うのは結構オススメです。

 

逸脱者たちの旅路も、大陸歴で2000年を超えてきましたね……。まぁ2巻の「神に背く書」からして1963年だったわけで、時間の問題ではありましたが。『幸福な街』は2064年なので、サクッと100年立つのがこのシリーズだよなぁ。

3巻は慣れ親しんだ魔法大陸を離れて、1冊丸ごと東の大陸が舞台のエピソードとなっていました。

かつて来た時には、長い歴史を持つ大国ケレスメンティアが君臨していた東の大陸。しかし、その国が滅び……荒れた大陸に満ちていた諦観は、変化の熱によって動くように変化していた。

とは言え、長い争いの爪痕は大きく、大国として落ち着き始めている場所もあれば、立て直そうとしてうまくいかなかった地域もあって。

 

そんな状況の中で、外部者の呪具を探して旅をしていたオスカーとティナーシャが、親代わりの男性2人と姉が行方不明になったしまった兄弟を保護することになって。

逸脱しているからこそ一線を引こうとするオスカーと、人との交流が避けられないんだから選別して関わっていくのはいいと思う、とティナーシャが言うのが意外ではありましたね。

一度関わると見ると決めた以上は、しっかり教え込んでいるあたりは面倒見がよいというか。彼等らしい人の好さが見えて好きでした。

 

『幸福な街』を超えた後に『Void』が収録されているの、味わい深いというかなんというか。「章外:月光」まで収録してくれていたのは、良心的でしたね。

電子書下ろし『愛の指輪』は、本編中でさっくりと流されていた、口絵に登場する呪具に関してのエピソードでこれもまた良かったです。

……と、当たり障りない範囲だとこれくらいしか語れないので、ネタバレ込みの感想をちょっと下の方に書きますね……。

 

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「お前は俺が他の選択肢を持てるように気を回してくれているようだが そんなものに意味はない」

「選択肢が一でも百でも千でも 俺は必ずお前を選ぶ」

 

表紙イラストが良い! この衣装好きだなぁ……。
不快なクスクルの使者の来訪後、ティナーシャはオスカーに修行をつけることに。

距離を取って魔法を使われるとオスカーでもさすがに厳しいようで……最終的には魔法の核を見抜くのに成功。それを会得したのが魔法士殺しのアカーシア持ちだというのが、末恐ろしくはあります。

 

今回収録の最初のエピソードから、ティナーシャは自身が魔女だからと一線を引き、オスカーには偏見無く選択肢の中から未来を選んで欲しいと思っていて。

一方のオスカーは、彼なりに既に決めているものがあって……そこを軽んじられたことで、少し暴走気味な反応を見せて。

 

このあたり、好きな部分と苦手な部分とが多いエピソードでもあるんですよねぇ。

苦手部分で言うとティナーシャは選択肢を与えようとしているけど、その実オスカーを見ていないし。オスカーの父エドガーも、息子を叱る一幕がありますが「すべきことをしてくれてるんだから、お前も向き合え」というの、どの口で感はある。

オスカーも勝手に話が進んでいくのに苛立って、特訓でラルス叩きのめしたり、ティナーシャのトラウマ刺激する行動をとってしまったりと、みんな微妙に選択を誤っている感じがどうにも引っかかる。

 

でもそれは、いつも完璧な選択を出来るわけでもないという彼らの人間らしさの証明でもあるので、好ましさを感じる部分もあるんですよねぇ。

原作知っているとルクレツィアも「魔女らしい魔女」だとは思うんですが、今回ティナーシャに「魔女である前にひとりの人間」と良い助言してくれてるので、地味に一番株上げてるかもしれない。

あとこのすれ違いの中だからこそ、オスカーの最短&最少人数の塔攻略記録が樹立していて、あのエピソードめっちゃ好きなので……あれ読めるなら多少ギクシャクしても「ヨシ!」って言うかな……。

そしてオスカーが彼のスタンスを明言してくれたのも、結構好きですねぇ。

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「俺に…お前を殺させるな」

「あれは私じゃありません」

「それでもだ」

 

「森の見る夢14」と「形に命を吹き込む13」を収録。

ティナーシャが魔女と周知されてからも、彼女はなんだかんだ変わらず城での日常を送っていたようです。

1P目の講義受けてる時の目が小さく描かれてるティナーシャ好き。布の展示会も1コマだけですけど大き目に取ってくれてたので良かった。ティナーシャが困惑してる傍らシルヴィアが生き生きしてて良い。奥にしっかりオスカー居るし。

 

そんなある日、塔の魔法具を点検するため数日ティナーシャが留守にすることになって。

その隙を縫って危ない地域に踏み込んでいくんだから、オスカーはちょっと反省してもらって……。

「なるべく守る キリッ」ってやってるシーンはおふざけ交じりですけど、その後陳情書をみて「なるべくな」って言うシーンでは目が真剣になってる切り替えをコミカライズの絵付きで見れたのは良かったですけど。

 

確かに調査は必要だったでしょうけど、王太子自ら危険地域に踏み込むんじゃないよ……。

ティナーシャにバレないように試みてた主に、「いっそばれちゃえ」と言えるラザルが面白い。

調査に行った先でヤバいものみつけてたし、派遣する人員は選ばないといけなかったでしょうけど。

問題を解決したと思ったら新たな魔女ルクレツィアと遭遇するんだから、もう……呪いをかけてきた魔女を含めれば、これで5人いる魔女のうち3人と出会ってるんですから引きが強い。

ティナーシャが子守歌を歌ってるところや、幻影の彼女が満面の笑みを浮かべるシーンとかは好きです。

 

ここでルクレツィアと縁が出来て、彼女がティナーシャを気にかけているから、呪いの解析のヒントが得られたりもするので、割と得はしてるんですけどティナーシャが頭を抱えるのも分からないではない。

その後にクスクルの使者が来て彼女の傷えぐってくるんだもんなぁ……必要なエピソードだけど辛い。だからってわけでもないでしょうが使者カガルが、登場した巻で速攻退場したのはちょっと胸がスッとしました。

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ちゃか

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